ブライアン・ウィルソンの頭の中の永遠 | 鳥肌音楽 Chicken Skin Music

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WRITING ABOUT MUSIC IS LIKE DANCING ABOUT ARCHITECTURE.

Brian Wilson - Going Home
 
ラッキー・オールド・サン(DVD付)/ブライアン・ウィルソン
 

うちに帰ろう うちに帰ろう
僕のいるべき処へ
安らぎがみつかる ぴったりの場所へ

うちに帰ろう 
天にも昇る気分はどうしてだ
僕の音楽が見つかったんだ あのスマイルさ
愛のある暮らし ほんと久しぶりかも

ホームシック 僕が輝くのはそこだけ
あぁホームシック 自分を失くしてしまいそう

25歳で僕は明かりを消した
疲れた瞳の中で輝くものをもてあましてしまったんだ
だけど僕は今帰ってきた 青い空の影に導かれて

旅はいいものさ
だけどあんまり長いのは
だから今は自分の棲家に戻ってきた
そしてこれこそが僕の歌の そう源なんだ

うちに帰ろう


 今日も引き続きブライアン・ウィルソンを聴いています。聴けば聴くほどに素晴らしいサウンド素晴らしい歌詞そして素晴らしい歌声に思わず微笑んで(smile)しまいます。そう”スマイル”こいつは21世紀版の”スマイル”なのかもしれません。いやいやこのアルバムには”スマイル”のような難解な歌詞も不吉な予感もなくひたすら明快でポップな歌に溢れているからやっぱり”スマイル”と比べるのはやめときましょう。

smile

 「ゴーイング・ホーム」の中でブライアンは”25歳で僕は明かりを消した 疲れた瞳の中で輝くものをもてあましてしまったんだ”と歌っています。ブライアンは1942年生まれですから25歳といえば1967年。1967年はご存知のようにブライアンにとっての最高作になるはずであったアルバム「スマイル」が完成できず精神的に破綻をきたし音楽活動から半ばリタイアをしてしまった年です。その後のアルバムにもブライアンのそれなりの楽曲は収録されていますが、ほとんどは「スマイル」というジグソー・パズルのピースを再構築したものでレノン/マッカートニーを刺激したような楽曲が生まれることは二度とありませんでした。

 このリタイアはいろいろな要因が複雑に絡まった結果なのでしょうが、最も大きな原因は自分の頭の中で鳴っている音楽を現実のサウンドとして再現することが出来なくなってしまったということだったんじゃないかと僕は思います。デニスにサーフィンにぴったりの歌を作ってよとおねだりされ頭の中で鳴りだしたチャック・ベリーのギターとフォア・フレッシュメンのハーモニーを兄弟や従兄を集めてバンドという形で再現したことに始まり、ブライアンは頭の中の音楽を再現するためにLA中の腕利きミュージシャンを掻き集めキャピトルのスタジオを占領し次々と新しいサウンドを生み出していきます。

 そうして作られたレコードのピークがあの「ペット・サウンズ」であったことは間違いありません。


ペット・サウンズ/ビーチ・ボーイズ
 


 次に「スマイル」となるハズだったのですが、おそらくはブライアンの頭の中でなっている音楽がさらに深化し「ペット・サウンズ」を作り出したミュージシャンたちですら具現化することができなくなってしまったのではないでしょうか。他のメンバー(特にあんぽんたんマイクあたり)からしたら”ブライアンすげえょコレ”というようなテイクでもブライアンにとってみれば全然ダメみたいな感じでどんどんお互いにフラストレーションがたまって行く。そしてとうとうブライアンがすべてを諦めてしまった。これが”25歳で僕は明かりを消した 疲れた瞳の中で輝くものをもてあましてしまったんだ”だと思います。

 ただブライアンの頭の中の音楽は「スマイル」が幻に終わろうとずっとなり続けていました。それを具現化する手足が無いだけで頭はずーっとあったわけですから。そして”旅はいいものさ だけどあんまり長いのは だから今は自分の棲家に戻ってきた”と歌の中で反省しているように1988年に長い旅から戻ったブライアンはちっちゃな明かりを灯します。


BRIAN WILSON(デラックス・エディション)/ブライアン・ウィルソン
 


 はっきりいって彼の頭の中を再現するための最大の武器であったブライアン・ウィルソンのあの声はどうしようもないくらい錆びついてしまっていましたが、嬉しいことに歌われるメロディは彼の頭の中では昔と変わらない音楽が鳴り続けていることを証明するには十分なものだったのです。

BRIAN WILSON/Love And Mercy


小さいけれど精気に満ちた明かりは誘蛾灯のように様々な人たちを引き寄せました。曲作りの古いパートナー、ビーチボーイズでブライアンの代わりに歌っていた男、ブライアンが67年に明かりを消した時にまだよちよち歩きだったミュージシャンたち、みんなブライアンを尊敬しブライアンの音楽を愛する人たち、そんな人たちが今はブライアンを支えています。ブライアンが「ゴーイング・ホーム」で”うちへ帰ろう”と歌った”うち”とはブライアンを支えるこの人たちの集まりのことだと思います。

”I'm going home(Sure don't know why I'm rollin' round heaven)
I heard my sound and found my smile
Living in love,yeah yeah yeah,it's been a while ”

この部分の歌詞は”僕の音楽が聴こえ、僕の微笑が見つかった”と訳すべきなのでしょうが、"my smile"という言葉には当然”僕の(アルバム)「スマイル」”という意味を持たせていると思います。実際ブライアンは暖かいおうち(仲間)の中でアルバム「SMILE」を実に37年という気の遠くなる時を経て完成させています。

 おそらくは当初ブライアンの頭の中にあったものとはかなり違ったものになっているのかも知れませんが、それを昔のブライアンのように正確に具現化できないからと全てをあきらめてしまうのではなく、”正確に再現できないこともある”という前向きなあきらめから今のブライアンにとっての最良の「スマイル」を作りあげた、そんなことだったのではと思います。だからブートなどで聴いていた「スマイル」よりも暖かく安らかな「スマイル」になっていたのだと思う。

 そして「ラッキー・オールド・サン」。明かりを再点灯してから20年、ゆっくりではあったけどブライアンは頭の中の音楽を再現する方法を確実にものにしてきたようだ。それもこれも素晴らしい仲間あってのことであるのもブラインにはよーく分かっている。

「ゴーイング・ホーム」はこんな歌詞で結ばれている。

”So, now I'm home wehere I belong
And that's the key,yeah yeah yeah,to every song
I'm going home"


PS.ブライアン・ウィルソンの頭の中の永遠を思いながら今日7回目の「ラッキー・オールド・サン」を聴きたいと思います。
Brian Wilson - That Lucky Old Sun Trailer