日本の住宅省エネ化政策について思う事 | SUEのブログ

日本の住宅省エネ化政策について思う事

先日、住宅の省エネ技術の講習を受けて来ました。

日本の住宅は断熱に関してまだまだ改善の余地が多く、設計・施工の仕方で中で使うエネルギーを大きく減らす事が出来ます。
日本も国を挙げて省エネ住宅の普及に取り組んでいて、平成32年度にはすべての新築住宅が定められた省エネ基準に適合することを目指しています。

省エネ化することは良いことだけれども、違和感を感じた部分もあります。

省エネ住宅とは「高断熱」と「高気密」の両方を目指しています。

「高断熱」にした建物を「高気密」にした方が熱が逃げにくいから「省エネ」になるというのは確かなのですが・・・。

省エネ住宅で使う暖房器具に薪ストーブや石油ストーブなどの効率の良い器具はなるべく使わないように指導しています。
かえって電気ストーブやエアコンなどの電気を喰うロスが多い暖房器具を推奨しているのです。

その理由としては「高気密」の住宅では換気をしないことが予想されるのでCO2中毒になる恐れがあるからということです。

家によって省エネになった分と使う暖房器具によって生じるロスの差し引きでどれだけ省エネになるかはわかりませんが、「高断熱」「高気密」が最良の形であるかはまだ言えないと思います。

私の知っている建築家では「高断熱」「中気密」を掲げている人もいます。
多少、隙間があって漏れるぐらいの方が快適に暮らせるという考えです。

「高気密」のもう一つの問題点は建材に使われる化学物質で空気が汚染され、吸い込みやすくなるということです。
シックハウスの問題が表面化されてから建築基準法が改正されて13種類の化学物質を使用している建材に制限がかかるようになりました。
危険性の高い13種類の化学物質は使用禁止ではなく、使用量が制限されているだけです。しかもそれ以外の化学物質については野放し状態ということです。
今のまま建物の高気密化が進めば病気になる人は増えるでしょう。
ただでさえ化学物質過敏症の人達が増えており、日本における人数は推定で100万人とも言われています。
化学物質過敏症にかかり、症状が進めばあらゆる化学物質に反応するようになるので通常の生活は困難になります。
そういう人たちを増やす結果につながってしまいます。

「高気密」を推奨するのであれば内装材は全て天然無垢の板を使うなど大幅に使用する建材を変更する必要があります。

更にもう一つ私が問題と思っている点があります。

「高気密」「高断熱」であれば家の価値が上がります。
家の価格自体が高くなりますが、日本の住宅の平均寿命は30年弱です。
これは家族構成の変化や住まい方の変化も原因にはありますが、大きな原因の一つが「木材の乾燥」です。
従来の日本の木造建築は山の木を伐り出して数年間乾燥させたものを使用していました。乾燥させた方が材が強くなるんですね。
そうすることによって、地域と同じ環境で育った高耐久な構造材が出来上がるのです。
昔は日本も林業が盛んでしたから地元の木を使うことが多かったのですが、今では価格で勝てないので多くを東南アジアなどの輸入木材が使われるようになりました。
しかも、値段を安くするために高温乾燥器で短期間に乾燥させてしまいます。天日で長期間乾燥させれば強くなるものの、材を寝かして置くスペースを設けることは経済的ではありませんから、価格競争を理由に高温乾燥させるところがほとんどなのです。

長期間に渡って天日干しした木材と高温乾燥させた木材では強度がまるで違うことが実験に寄りわかっています。

古い古民家がいまだに元気に残っていて100年を超えるものも珍しくないのに対して、一般住宅がスクラップビルドを繰り返して平均寿命30年弱となっている大きな原因は乾燥のさせ方にあります。
構造材として30年で劣化してしまうわけですね。

せっかく「高気密」「高断熱」にして家の価値を上げるのであれば、乾燥のさせ方を替え、また、できれば国産材を使うようにして日本の山の間伐が進むようにすれば、高耐久の家が実現できるだけでなく、CO2削減に大きく寄与することになります。

省エネ住宅を普及させる一番の目的は「CO2の削減」のはずです。それならば、日本においては植え過ぎてバランスが取れなくなっている針葉樹の間伐がCO2の削減に大きな効果があり、それと同時に土砂崩れを防ぐ結果につながります。

「高気密」「高断熱」「天日干しまたは低温乾燥」「国産材の使用」で家を作れば価格は上がりますが、100年以上持つ家を3世代に渡って住み続けると想定すると費用は1世代あたりの費用は1/3になり、決して高いものではなくなります。
高耐久の住宅であれば途中で手放す事になっても価値が大きく減らず高く売れる事にもつながります。

日本の住宅の省エネ化は省エネが進んでいるドイツ等を参考にしていますが、ドイツでも住宅の平均寿命は80年、アメリカで100年、イギリスで140年です。

住宅の省エネ化だけを真似するだけでなく、高耐久化を実現しなければバランスの取れた政策にはなりません。
そのために「天日干しまたは低温乾燥」「国産材の使用」も同時に推奨することによって価値の高い住宅を国民に提供できると共に大きくCO2を減らす結果につながります。
国産材の使用は今まで外に流れていた外貨を国内で回せることになるので経済効果も大きいです。

政策には全体を見渡した総合的な視点が不可欠です。
片方からの理屈だけで押していくとトータルではバランスの取れていない結果に陥りやすいです。
現状の省エネ住宅普及政策は欠陥がありますが、変革するチャンスが来ているとも言えます。

私も建物の省エネルギー化について勉強していきたいと思っています。