パリ・テロ事件、一週間後に思うこと。 | オトコのパリ事情。毎週更新!を目指してます。

パリ・テロ事件、一週間後に思うこと。


France tv Info テロ事件を受けたエッフェル塔の3色の点灯は11月25日まで延長されました。


ご存じの通り、パリでは凶悪なテロ事件が発生しました。
すでに一週間前のことです。

これまでに129人もの死者、300人以上の重軽傷者を出してしまった
フランスでは第二次世界大戦以降最悪のテロ事件。

報道されているように、襲撃されたパリ10区、11区は、
普通の人々が住んでいる街。
勤め人、自営業者、フランス人、アラブ系・アフリカ系移民出身者、外国人、アーティスト、学生・・・
ほんとうのお金持ちはあまりいないかもしれませんが、
上流の人もそうでない人も、ともかくいろいろな人が共存している現代のパリらしい地区。


パリを愛し、カフェを愛し、自由を愛し、芸術や文化を愛し、そして友人や家族を愛する人々。
金曜日の夜ともなれば、仕事を終えて人々が集い、ディナーを楽しみ、大いに語りあい、音楽を楽しむ。
今年1月のシャルリー・エブドを襲ったテロの時には、
その事件に近いところということもあって、10区、11区の象徴であり、パリの象徴、自由の象徴、
フランスの連帯の象徴であるレピュブリック広場(共和国広場)に約200万人の人々が集まりましたが、
その行列の主役は、地元であるこのエリアの人々でした。

共和国広場から伸びるヴォルテール通りを
自由と連帯を口にしながら静かに埋めつくした人々の姿は、
潜伏するテロリストたちの怒りと憎しみをさらに増幅したのでしょうか。
今回テロの恐怖にさらされたのは、ヴォルテール通りを軸にしたこのエリアの繁華街でした。


このテロについて、すでにさまざまな分析がされていますが、
1月のテロが風刺新聞社を標的にしたのに対して、
先週の標的は明らかに一般市民である、という点がまったく違うところ。

被害にあった人の多さも比類なく、友人・知人に犠牲者がいるという話は珍しくありません。
実際、私の知り合いにもバタクラン劇場で銃弾を受け重傷を負った女性がいます。
銃弾はまだ身体に残っているそうですが、本人いわく「奇跡的に」急所は外れたとのこと。
ある友人は、3人の友をカフェの襲撃で亡くしました。


「誰でもがテロに倒れる可能性がある。」


そのことはパリ市民をはじめとするフランスの人々、
そして世界の人々に大きな衝撃を与えました。

世界中から集まる哀悼の言葉、国境を越えて広がる三色のフランス国旗、
「テロには屈しない」「我々はフランスとともにある」という各国政治家たちの言葉、
そして「フランスは戦争状態にある」と全土に非常事態宣言を発令し、
シリアを中心とするISの拠点への空爆継続を宣言するオランド大統領。

1月と同じように、共和国の連帯とテロへの対決姿勢を見せるフランス。

人々が口々に言うのは 
「La vie continue.」(生活はつづいていく)

という言葉。いつもの暮らしを変えたら、それことテロの思うつぼだ。
弱気になってはいけない。今の生活を守り、自由と民主主義を守るんだ・・・
表面上は、そんな言葉が行き交います。

確かに、生活はつづいていきます。
でも今までと同じように、でしょうか?


まだあれから一週間。
緊張状態がつづくからなのか、自分の不安を映し出すのか、
外に出ると、明らかにパリの街の空気が変わったような気がします。
なんとなく周囲を気にしながら過ごすメトロやカフェ。
誰もが大きな物音や人の怒号に敏感になり、
ほんとうに微妙なんだけど、人々が他人に気を使う余裕が薄れたような感じ。

1月のシャルリー・エブド事件のあとで感じた大きな「連帯」のうねりはなく、
むしろ「不安」「焦燥感」がパリを包んでいる、そんな感じがします。


我々が直面している「テロリズム」が、
ほんとうに底知れぬ相手である、という事情もあります。


オランド大統領が「戦争」という言葉をはっきりと使うようになって、
メディアでも議論になっています。

私たちが知っている、あるいは歴史で学んだ「戦争」は、
多くの場合、相手は「国」「民族」といった特定の集団。
どこかに「勝敗」というゴールがありました。

しかし、テロリストとの戦いに、ゴールはあるでしょうか。
フランスや欧米の政治家は、目指すゴールが見えていて「戦争」を口にするのでしょうか。

フランスのドビルパン元首相などのように、
「空爆」などいまのやり方でのテロと国家との戦いを疑問視する人もいます。
テロリストは確固としたテリトリーをもたず、どこにいるかわからず、常に変化し、次々に生まれる。
まして彼らは決して「自分たちが敗れた」とは言わないでしょう。


ISなどの過激なテロリストたちが生まれた背景には、
そもそもフランスやイギリス、ロシアなどの大国によるアラブ世界の分断以降、
アメリカやイスラエル、アラブ各国も加わって複雑化した中東の不安定な情勢が
テロの温床となるなど、複雑にからみあった事情があります。


またその一方で、ヨーロッパ、フランス国内でいえば、貧富の差の拡大、
仕事に就けない若者などの不満、特に移民出身者たちの不遇な状況やそれに対する反発が、
パリの郊外をはじめ各地で渦巻いていて、その中から過激思想に染まる人が出てきます。


テロリストたちは、こうしたとても複雑な背景とその関係性の中から生まれました。
そしてアラブ世界に多大な影響と混乱の原因を与えながら自分たちは自由を謳歌してきた
フランスをはじめとする欧米諸国への憎しみを栄養に育ってきたのです。

100年以上の歴史をもつ根深い原因が横たわって、
ISなどの誕生で、さらに複雑化している中東地域。
散発的な空爆で容易に解決できるはずもありません。


シリアの内戦、それに伴う大規模な難民の出現、その間隙をぬったIS勢力の拡大・・・。
今年に入って50万人もの難民がヨーロッパに流れ込んでいることと今回のテロも、
大きな意味ではひとつながりのストーリーです。


テロが、中東地域を飛び出してパリで起こり、
しかも一般市民が標的にされる状況になった今。
果たして「テロには屈しない」と一言で済まされる状況なのかどうか。

あるテロ対策の専門家はテレビで、
「いま、ISの中でフランスへの攻撃志願者を募集したら、
少なくとも200人はすぐに手を挙げる」

と語っていました。
今週に入って殺害されたテロ事件の首謀者とそのグループは、氷山の一角に過ぎません。


とはいえ、地球は回り、やはり自分たちは生きてゆかねばなりません。
「La vie continue.」「テロには屈しない」という言葉が、
こうした複雑な世界情勢を理解した上で出てきているのなら、
フランス人たちは相当タフだ、と言えるでしょう。


2015年11月、この複雑な世界の中で美しく輝くパリ。
街は少しずつ平穏を取り戻しつつあります。

また近いうちに、つづきをご報告します。




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