金子さんとの対局(前編) | 神尾 亮の「麻雀のような人生に人生のような麻雀を」
モンドのyoutube公式チャンネルに待望の動画がアップされた。


麻雀デラックス第1回モンド21杯である。


1997年に制作されたモンド史上初めての麻雀番組であり、安藤満、飯田正人、伊藤優孝、金子正輝、小島武夫、新津潔、といった麻雀界のレジェンド6名による対局番組である。


何度でも言うが、私は金子正輝プロが大好きで最高位戦に入会し麻雀プロになった。


金子さんの麻雀に対する熱い思い入れ、それが牌と噛みあわないもどかしさ、麻雀がとにかく好きな茶目っ気


そういったところが本当に好きでずっと金子さんの麻雀を見てきた。



金子さん好きには有名なシーンが、この第1回モンド21杯にはある。


第9戦の安藤さんの亜空間といえばもう伝わるであろう。


あの1pポンである。


東3局、めずらしくオタ風の西の1鳴きから入る金子さんに対して、伊藤優孝さんからリーチが入る。


伊藤優孝さんの手はこの手。




1-4sどちらでもイーペーコーが付くという手牌である。



それに対して仕掛けた金子さんの最終形がこの形。




1-4m待ちである。


終局まであと2巡というとき、ベタおりをしていた安藤さんの手牌はこの形だった。




この手から、金子さんのツモ切った1pに対して声がかかる。


ポン。


亜空間である。


アガリを目指さない安藤さんのこういった仕掛けを亜空間殺法といい、必ず何かしらの結果を生み出す戦略である。





すると次の金子さんのツモが1s。


当然ツモ切り、伊藤優孝さんへの放銃となるのである。





裏ドラをめくると、そこにも1s。


リーチイーペーコードラ4のハネマンの放銃となる。


この後、金子さんは残りの牌山をチェックしてみる。



自分の1-4mはどこにあるのか。


金子さんは自分の1-4mに自信があったのである。


残りの牌は4枚。





驚くことに、このとき手にした残りの4枚はすべて1-4mだったのである。


こんなことがあるだろうか。


すなわち、安藤さんからポンの声が入らなければ金子さんが結局つかんだ1sは下家の飯田さんの手の中に入る。


そのあと誰からポンやチーの声がかかろうが残りの牌4枚は全て1-4mだったので、100%金子さんのアガリだったのである。


後に金子さんはこの対局について、自分が自分らしく打てた1局であり、亡くなってしまった安藤さんと二度と打てない宝物の1局だと言って、モンドの番組でこの1局を紹介をしている。


このときの対局では毎回感想戦を行っており、金子さんは悔しがりながらとても楽しそうにこの1局を語っている。




是非とも動画で見てもらいたい。


私は、自分がハネマンを放銃した局を宝物だと言い、笑顔で語るこんな金子さんが好きなのである。




2016年5月15日(日)。


私がプロになる前から通っている小川町のオクタゴンという雀荘で、金子さんがゲストとして呼ばれた。


オクタゴンにはほぼ毎日有名プロがゲストとして呼ばれ、毎日最強戦ルールで打つことのできる本格的なノーレート競技麻雀雀荘である。


金子さんに憧れて麻雀プロになった身として、行かないわけにはいかない。

仕事が繁忙期だったので、休日にもかかわらず出勤し、午後過ぎに仕事にキリをつけ、16時にオクタゴンに行った。


到着してすぐに金子さんがお店にいらっしゃった。


店員さんに挨拶とルール説明をされる金子さん。


私もプロになってから2度3度挨拶させてもらっているが、覚えられているはずがないので、あらためて挨拶をしに、金子さんのもとへとうかがった。


やはり金子さんに自分を覚えてもらいたい。



自分 「か、か、かねこさん、おはようございます。自分、あの、、」



金子さん「あのー、悪いんだけど、太いマジックペンない?」



自分「はい?」



金子さん「サイン書くのにペンじゃ細いからさ、太いマジックペン貸して。」



自分「あ、は、はい。少々お待ちください。」




僕は店員ではない。



しかし、愛しの金子さんが太いマジックペンを必要とされているので用意しないわけにはいかない。


自分のポケットを確認するが、あいにく太いマジックペンは持ち合わせていない。


近くのコンビニまで走って買いにいこうかと迷ったが、メンバーさんがいらっしゃったので声をかける。


「金子さんが太いマジックを必要とされています。」



無事太いマジックが金子さんの手元に渡ったところで、あらためて挨拶をした。



自分「あ、あの、私、41期の、か、神尾と申します。金子さんと打ちたくて、きょ、今日、、」


金子さん「ん?神尾くん?きいたことあるね」



おおおおお覚えられていた。


金子さんに名前を覚えられていたのである。


震えた。


そんじょそこらの西野カナよりも震えていただろう。

そこからは何を喋ったかは覚えていないが、今日はよろしくお願いします的なことを口から発した気がする。


本当にうれしかった。



嬉しさを噛みしめながら、待ち席で対局を待つ。


まだ時間がありそうだったので、満を持して金子さんのもとに今一度歩み寄る。


自分「あのー、金子さんと一緒にツーショットを撮りたいのですが、、、」


同じ団体のプロ同士が、一般のお客さんもいる中でツーショットを撮るというわけのわからない構図ができるが、

自分は大学院時代に金子さんのお店に行ってツーショットを撮って以来、金子さんと写真が撮れていなかったので、何とかお願いして撮ってもらった。


それがこれである。




金子さんがほとんど笑っていないことよりも、自分がパンパンに太っていることがとにかく気になる。


この日に向けてもっとしぼってくればよかった。



ちなみに大学院時代に金子さんに会った時の写真はこれである。



なぜジャンバーを脱がなかったのだろう。


このときから5年。プロになれて本当によかった。




この日のフリーは4卓ほどたっており、ゲストの金子さんはワンカケの卓に適宜入って対局する形だった。


私ははじめは一般のお客さんたちとフリーを打ち始めた。


プロになってからはなかなか雀荘に行けず、正直フリーを打つのは久しぶりだった。

しかし、あらためて感じさせられた。


日頃から麻雀は打つべきだと。


こういった雀荘で麻雀を打つと、押す場面で押す練習ができる。


前日のリーグ戦でも押すとこ押せなかった局面が何度かあったので、こういう場で押す練習ができるのは非常に大きい。


しっかりと麻雀を打つ練習ができた。


気付けば4時間麻雀を打っていた。


16時に入店してから4時間なのであっという間に20時である。


だいぶ麻雀の練習にもなった。



さて。


金子さんと同卓していない。



そうなのだ。

私は金子さんと対局するためにお店に来たにもかかわらず、ずっと金子さんを背にしてひたすら麻雀を打っているのだ。


もしかしたら、このまま同卓できないかもしれない。



そう思って、次の対局を待っていると、耳馴染みの良い声が聞こえた。



「さてさて。いよいよだね。」


金子正輝である。


ついに金子さんと麻雀が打てる。



自然と僕の体にもパッションが注入された。



「お願いします!」



プロになって初めて大好きな金子さんと打てる麻雀。


一気に気持ちが入る。




東1局。私の親番から始まる。



(つづく)