筑紫哲也氏を「ガン患者」という1側面で捉えるのは明らかに不十分であるので、
番組全体の構成は適当だったと思う。質の高いゲストが揃い、さながら豪華な
「通夜」といった感じ。

大まかな治療経過と「小細胞肺がん」であったこと。さらに初回治療が虎の門病院
で行われた事も公開された。番組を採点するとすれば100点満点で言って50点。

癌に関するドラマや映画、ドキュメンタリー等への私の採点は通常0点以下なので、
これはかなりの高得点。本ブログではあえて、番組の失点項目を列挙する。

・筑紫氏が癌を公表した際「早期」で「克服可能」と言及したことは後々私を混乱
 させた。手術をしなかったであろうこと、及びその後の(かなり良好な)経過と
 本人の様子からは小細胞癌も感じさせたが、だとすると「早期」という理解は
 不適切である。小細胞がんの「限局」は決して「早期」という意味ではない。

 70歳を超えているとは言え、しっかりした判断のできる筑紫さんと、天下の
 名?病院である虎の門の間ですら、本当に意志の疎通ができていたのか疑わしい。
 日本中のがん患者が抱える「医師とのコミュニケーション」という問題を番組では
 もう少し掘り下げて欲しかった。

・初回治療のレジメンと放射線の照射量・タイミングについて少しでも良いので、
 ヒントが欲しかった。どれほど筑紫さんが頑張ったか?有名病院にどれ位の技量が
 あるか?治療戦略は何より雄弁に闘病の様子を示すと考える。

 特に小細胞肺がんでは「初回治療」に全力を尽くすべきである。限局であった様
 なので肺への照射もあったと想像するが、私ならば抗がん剤の方に軸足を置く。

 この辺りは「標準治療」もあるが、試行錯誤を重ね「悩む」のが本当だと思う。
 「患者はどう考え、何を希望したか?」
 「医師はどういう立場に立ち、どのように応えたか?」
 筑紫さんの命を対価に、この程度の事が検証できなかったとすれば、マスコミや
 医療ジャーナリストの皆さんは存在する価値は無いと考える。

・終盤、UASオンコロジーの植松氏が少しだけ登場した。一般視聴者には
 「筑紫さんが最後に頼った隠れた名医」という誤った印象を与えたと思う。

 私の理解では、ごく普通の事を普通にやってるだけで、
 「家の近所にあれば通院するかも知れない」が、何かを犠牲にしてまで鹿児島に
 行くメリットは全く感じない。

 しかし世の中には少なからず「筑紫さんが行った病院」に多大な犠牲を払って
 出向く、哀れな患者が生まれる。報道に携わる者の最低限の配慮と説明責任は
 是非果たして欲しいと感じた。

・筑紫さんが聖路加病院の緩和ケアを断ったのを「意志が強く、凄い事」と評した 
 のは呆れた。本当ならこれだけで0点にして良い位である。日本のがん治療の
 将来が思いやられる。

癌で死んだ故人を貶める様で誰も言えないだろうから、あえて末期癌の私が述べる。

経済力、社会的地位、家族、友人の支援、等が筑紫さんには充分あったと想像する。
が、世の中にはもっと悲惨な病状を抱えながらまともな医者にすらかかれない
患者がいくらでも居る。筑紫さんの闘病はごく標準的なものだと思う。

闘病に関し、必要以上に美化したり、讃えたり、恐れたりするのは、仮に
私だったら是非やめて欲しいと思う。そんな事よりも社会全体が癌と癌治療に
関する理解を深めたり、問題の解決に向け進展することを望む。

そういう訳で、やや甘い採点ではあるが50点。