トランプ大統領は、昨年の選挙戦と就任前の政策発表(7つのアクション)で気候変動枠組条約からの離脱を表明していた。昨日(6月1日)COP21で採択されたパリ協定から離脱すると発表した。

 

CNN 6月2日
トランプ米大統領、パリ協定からの離脱を表明
https://www.cnn.co.jp/usa/35102146.html

 

米国の法体系と政治システムから調べて見るとトランプ大統領の昨日の声明は大統領独断の判断でないことが分かった。

 

2016年9月の中国杭州でのG20でオバマ大統領が国連の潘事務総長、中国の習主席と列び「パリ協定」批准を発表したが、米上院の2/3の賛成が必要な批准投票は行われていなかった。オバマ大統領は、この批准問題をパリ協定が条約ではなく「行政協定」だとして上院の批准を求めなくても良いと、強引に進めたものである。

 

東京財団 2016年9月20日
アメリカ大統領権限分析プロジェクト:パリ協定と条約批准手続き
https://www.tkfd.or.jp/research/america/glomjn

 

2001年就任直後のブッシュ大統領が京都議定書(1997年12月採択)からの離脱を宣言し、その後も批准していない。この時も大統領の独断ではなかった。合衆国憲法上、条約批准は上院の2/3の賛成が必要である。(合衆国憲法第2章(執行部)第2条第2項:大統領の条約締結権限と上院承認2/3)

 

合衆国憲法
https://americancenterjapan.com/aboutusa/laws/2566/

 

その上院が、京都議定書採択前の1997年7月にバード・ヘーゲル決議で国連気候変動枠組条約に関して、次の決議を行っている。


1.1992年国連気候変動枠組み条約、1997年12月京都議定書及びそれ以降の条約で、下記の場合署名してはならない。
 (A) 温室効果ガス排出量の制限・削減を発展途上国に義務付けない協定
 (B)米国の経済に重大な障害を及ぼす場合
2.このような条約(協定)は、上院の批准が必要

(東京財団の杉野氏は、バード・ヘーゲル決議に言及していない)

 

バード・ヘーゲル上院決議(1997年7月、全会一致)
https://www.congress.gov/bill/105th-congress/senate-resolution/98/text

 

憲法で条約の批准は上院の承認が必要と規定され、気候変動に関する条約については1997年上院決議で、署名する条件と上院批准が明記されている。オバマ大統領は上院の承認が得られないとして合衆国憲法と上院決議を無視して、2016年9月G20でパリ協定参加を表明した。トランプ大統領のパリ協定離脱宣言は米国の憲法と上院決議を守った行動になる。

 

なお、上院と共に条約の署名・批准の努力を行っても、上院2/3の承認を得るのは非常に難しく、上院に批准書を提出しても棚上げになると思われる。米議会の上院は多数派の院内総務が議案の審議計画を決める。(下院は議長が支配)現在、共和党のマッコネル院内総務が上院を支配、石炭産業の多いケンタッキー州の選出である。他にも石炭と石油、天然ガスの権益を守る議員が多くいる。