2月中旬、韓国のメディアにベネット・ハッチ・カーパー(Bennet-Hatch-Carper; BHC)修正法案という為替操作に対する法案が米上下院を通過したとの記事が掲載された。BHC修正法案とは何かと考え直すと、2月11日に上院を通過した「H.R.644税関授権法の両院協議会報告書」の為替操作条項のことであった。


中央日報 2月15日
米国が自国相手の貿易黒字国に警告…昨年は「韓国の外為市場介入を注視」
http://japanese.joins.com/article/007/212007.html?servcode=300&sectcode=300
米国の為替相場操作国制裁法案近く発効…韓日中相手に圧迫強化か
http://japanese.joins.com/article/995/211995.html?servcode=300&sectcode=300


「韓国、米国の為替操作国指定に戦々恐々」


中央日報2月22日
韓経:<米国為替操作国制裁>中国・日本を越えて韓国がターゲット?
http://japanese.joins.com/article/337/212337.html?servcode=300&sectcode=300&cloc=jp|main|top_news
夕刊フジ 2月20日
韓国、米からの制裁に戦々恐々 「為替操作国」真っ先に認定か
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20160220/frn1602201530001-n1.htm


大統領に送られた上下院可決の法案
https://www.congress.gov/bill/114th-congress/house-bill/644
Text(Enrolled Bill)
https://www.congress.gov/bill/114th-congress/house-bill/644/text

該当条項
TITLE VII--ENGAGEMENT ON CURRENCY EXCHANGE RATE AND ECONOMIC POLICIES
SEC. 701. ENHANCEMENT OF ENGAGEMENT ON CURRENCY EXCHANGE RATE AND ECONOMIC POLICIES WITH CERTAIN MAJOR TRADING PARTNERS OF THE UNITED STATES.
SEC. 702. ADVISORY COMMITTEE ON INTERNATIONAL EXCHANGE RATE POLICY.

第701条に為替操作に対する措置が書かれている。(中央日報の記事にはその一部が書かれている。)
(a)貿易相手国の報告
(1)法律施行後180日後から180日毎に、議会所轄委員会(注記)に下記を報告。
 (ⅰ)貿易相手国毎に
  (Ⅰ)米国との二ヶ国貿易の収支
  (Ⅱ)その国のGDPに対する経常収支の割合
  (Ⅲ)過去3年のその国のGDPと経常収支の推移
  (Ⅳ)その国の短期借入金と外貨準備高の割合
  (Ⅴ)その国のGDPに対する外貨準備高の割合
 (ⅱ)貿易相手国のマクロ経済と為替政策の分析
  (Ⅰ)米国との貿易黒字
  (Ⅱ)経常収支の黒字
  (Ⅲ)外為市場への継続的・一方的な介入
(略)
(c)制裁行動
 (1)一般
  (A)海外投資会社の該当国への新規金融業務禁止
  (B)連邦政府の政府調達への参加禁止
  (C)IMFに対して、該当国のマクロ経済と為替政策と為替操作に関し追加的な厳しい監視を要求すること
  (D)貿易協定を結ぶ際、USTRと財務省は協力して、協定を結ぶかどうか判断、または相手国に是正を促し協定を結ぶこと。 

(注記)
所轄委員会
上院;銀行・住宅・都市問題委員会、財政委員会
下院;金融委員会、歳入委員会


税関授権法 2月24日オバマ大統領署名により発効
https://www.congress.gov/bill/114th-congress/house-bill/644/actions


 韓国は税関授権法の為替操作条項(BHC法)に神経を尖らせている。2月24日法律発効であり、観察結果が180日後の8月下旬に判明、その結果によっては、制裁の実施も考えられる。しかし、韓国のメディアは、2月24日大統領署名で発効していることを知らないようだ。


中央日報 3月7日
韓経:「為替市場介入の自制を」…米財務省、韓国に警告
http://japanese.joins.com/article/881/212881.html?servcode=A00&sectcode=A20&cloc=jp|main|top_news


「TPA法と税関授権法の成立までの経緯」


1.2015年TPA法案の審議過程(4月~6月)

 TPA法案の構成=「TPA」+「TAA」+「税関授権法」+「特恵関税法」
 TPA;Trade Promotion Authority 大統領貿易促進権限
 TAA;Trade Adjustment Assistance  雇用や中小企業などの調整支援
 税関授権法;税関および入国管理への授権、TPA法の修正条項など
 特恵関税法;アフリカ成長機会法(AGOA)、一般特恵関税制度、ハイチなど特恵関税措置


「上院審議」
4月16日上院財政委員会と下院歳入委員会に法案提出
4月22日上院財政委員会可決、4月23日下院歳入委員会可決
 歳入法案下院先議の憲法規定のため、上院は下院可決済のHR1314法案にTPAを乗せ審議を始めた。
(乗り物法案 HR1314, HR644, HR1295の利用)
5月12日 HR1314法案(TPA)の討論打切・採決動議を否決(52:45)*60
5月14日 HR1314法案(TPA+TAA)の討論打切・採決動議を可決(65:33)*60
    HR644(税関授権法)とHR1295(特恵関税法)を可決
5月22日上院、HR1314法案(TPA+TAA)を最終投票で可決(62:37)*51
*上院では、議事進行に係わる動議をクローチャーと言い60票必要、法案最終投票は過半数51票(定員100名)

「用意した乗り物歳入法案」(下院可決済の税制改正法案)
  HR1314 免税対象機関の異議申立権利を認める法案
  HR644 減税対象の食料寄付団体と個人の国税庁コード改正
  HR1295 免税団体に社会福祉機構を含める国税庁コード新設
  HR2146 公共安全に係わる公務員の早期退職年金税制改正法


「下院審議」
6月11日 HR1295法案可決、12日の投票ルール決議案可決
6月12日 HR1314法案を3分割して投票(ルール決議案の手順)
・HR1314法案の第212条(メディケア予算の一部をTAAに充当):可決
・第212条を除くHR1314の第二節(TAA);否決
・第二節を除くHR1314、第一節のTPA法案:可決
最初の項目(第212条)は承認されたものとする。
上記のどれもが採択されなければ、下院は上院修正案(HR1314)の処理を
行わなかったとする→TAA法案の否決によりHR1314法案は審議停止
6月12日 HR644法案の採決:可決
6月17日 TPA法案のみをHR2146法案に挿入し採決する決議案を可決
6月18日 HR2146法案(TPAのみ)を可決(218:208)(過半数217)


「上院再審議」
6月18日 HR2146法案とHR1295法案へのTAA法案挿入の討論・採決を行う動議
6月23日 HR2146法案の動議採決、60票で可決、審議入り
6月24日 上院は、HR2146(TPA法案)を60:38で可決
      HR644(税関授権法案)の両院協議会へ送付動議を承認(TPA法修正案)
      HR1295(特恵関税法案+TAA法案)を可決(76:22)
6月25日 下院でHR1295(特恵関税法案+TAA法案)を可決(286:138)
6月29日 オバマ大統領、HR2146法案とHR1295法案に署名し法律成立
両院協議会の下院メンバー決まらず、HR644の統一法案審議入り未定


2.「TPP大筋合意後の米政界の状況」10月~11月
 (1)TPP協定書の準備(米国時間;10月5日合意、11月3日協定条文公開、2016年2月3日署名)
  交渉国と詳細確認、条文のリーガル・スクラブ、米議会との協議、署名日の確定
 (2)署名90日前の議会通知:11月5日(署名日2016年2月4日)
  10月29日、ビルサック農務長官がカナダ新政権の精査を待つと発表
 (3)条文の公開 USTRのHPに一般公開;2015年11月3日(NZ;11月4日)
 (4)TPP大筋合意後の米議員要請
 ・ハッチ上院財政委員長
  バイオ製薬データ保護期間とタバコ規制のISDS適用除外は議会の目的に合致していない。
  協定の見直しと条文の早期開示を求める。
 ・ライアン下院歳入委員長(10月29日より下院議長)
  協定条文を精査してから判断する。
 ・ブラウン上院議員
  スタッフへの条文開示を求め、Lago次席代表(USTR)候補の承認をブロック

 (5)下院共和党の混乱(ベイナー下院議長辞職と保守派・自由連合約40名の反乱)


10月27日輸出入銀行再授権法・下院可決(共127+民186;共117+民1)
10月28日連邦債務上限引上げ法案(HR1314)・下院可決(共79+民187;共167)
(HR1314法案に挿入されたTPAとTAA法案を削除し、債務上限引上法案を挿入)
10月29日下院議長にライアン議員(歳入委員長)を選出、ベイナー議長辞職
10月30日連邦債務上限引上げ法案(HR1314)・上院可決(64:35)
11月以降、2016年度歳出本予算の採決(現在12月11日までのつなぎ予算)
 
 (6)2016年大統領選の影響(TPP反対候補、選挙戦での国民的論争に)
  TPP反対候補;(共和)トランプ (民主)クリントン (独立)サンダーズ


3.税関授権法の統一法案審議(2015年12月~2016年2月)


12月1日、 下院が税関授権法の両院協議会開催動議を可決
http://ameblo.jp/study-houkoku/entry-12103014831.html


12月9日 両院協議会が「税関授権法報告書」を議決

 未完のTPA法を完成させる「税関授権法案」が両院協議会でまとまり、下院規則委員会に報告書(統一法案)が公表された。主要なテーマについて規則委員会の概説から紹介する。


ロイター12月10日
米両院の超党派議員、通関手続き厳格化と為替操作規制で歩み寄り

 [ワシントン 9日 ロイター] - 米上下両院の超党派議員は9日、通関手続きの厳格化と為替操作に対する規制強化に関する法案で歩み寄ることで合意した。
 この法案では、一部議員が求めていた為替操作に対する制裁措置は盛り込まれなかった代わりに、輸出で競争上優位に立つために自国通貨を意図的に低く抑える国に対し、米国との貿易や米政府との調達契約を禁止することが米政権に認められた。
 また、外国企業によるダンピングを防ぐ目的で輸入関税を回避しにくくする仕組みも含まれる。
 この法案は6月に議会に提出された包括的な通商法案の一部だったが、上院と下院でそれぞれまとめた内容が異なったため、可決されなかった。
 両院は今回の合意内容を承認する必要がある。
http://jp.reuters.com/article/usa-trade-customs-idJPKBN0TS33920151209


規則委員会公表法案より

1.為替操作問題
基本的に、財務長官の仕事になり、財務長官は各国の状況を議会に報告し、下記の対策が取れるとしている。1930年関税法による相殺関税などの報復はない。
(1)米政府による財政的な規制
(2)政府調達の参加規制
(3)IMFへの働きかけ
(4)相手国への直接の働きかけ
2.人身売買条項
 TPA法に挿入されたメネンデス修正法(Tier3の国は貿易交渉から除外する)に対し、「大統領が年次報告書で改善を報告すれば、適用外とする」修正条項をTPA法に追加。
(6月1日に発表すべき人身売買報告書を、7月下旬のハワイ会合の直前に発表したことの追認)
3.Miscellaneous tariff bills (MTBs)(その他関税法案)の復活
4.TPA法に規定された議会アドバイザーグループ(上院、下院各5名)に加え、下院歳入委員会と上院財政委員会の委員長と少数党筆頭理事が指名した各3名を、米国の正式貿易交渉団(USTRも含む)に参加させること。
5.温室効果ガス条項を貿易協定には入れないこと
6.水産物の自由化と漁業補助金と違法操業に関する対応
https://rules.house.gov/conference-report/hr-644


下記協議会メンバーのうち、報告書に署名しなかったのはレビン、サンチェス、シューマー議員の3名。
下院歳入委員会、5名
(共和)ブラディ委員長、ライカート議員、ティベリ議員
(民主)レビン筆頭理事, サンチェス議員

上院財政委員会、6名
(共和)ハッチ委員長、コーニン議員、スーン議員、イザクソン議員
(民主)ワイデン筆頭理事、シューマー議員、スタベナウ議員


12月11日 下院本会議で税関授権法報告書を256:158で可決
2016年2月11日 上院本会議で税関授権法報告書を75:20で可決
2016年2月24日 オバマ大統領署名で税会授権法成立・施行


4.2016年度(2015年10月~2016年9月)歳出予算法案と関連法案

 12月18日、2016年度通常歳出予算法案(2015年10月~2106年9月)を、下院が賛成316(共150民166):反対113(共95民18)で可決(9時49分)、続いて上院が賛成65(共27民37独1):反対33(共26民6独1)で可決し(12時)、大統領に送付した。同日大統領署名で成立。この法案には、40年間継続してきた石油輸出禁止の解禁(共和要求)、再生可能エネルギーへの優遇税制措置(民主要求)、牛肉、豚肉、家禽などの原産地表示(COOL)を無効にする法案(WTO裁定)、輸出入銀行の歳出予算が含まれている。ただし、Miscellaneous tariff bills (MTBs)の復活が未決の状態である。