慰安婦の問題が日米韓の外交的摩擦を大きくしていったきっかけは、2007年のホンダ議員提案の下院決議が可決されてからですが、その前に重要な判決がありました。


 2006年米最高裁が「Joo v. Japan」訴訟の却下を決定したことです。その事情を紹介します。


平成26年8月15日
古森産経特派員の「米最高裁判所は慰安婦問題で「日本には謝罪も賠償も必要ない」と判決ずみ」の報道について


下記古森特派員の記事は、誤解を招く表現になっています。


 米国の裁判所は、「慰安婦問題については判断を下さず、原告の請求が政治的要求であり、裁判所が扱う問題ではなく、外交権を持つ大統領に委ねるべきだ。」との判断を下したことです。
判決文は、「日本には謝罪も賠償も必要ない」ではありません。


 2014年7月7日、古森義久産経特派員が下記Japan-in-Depthに上記タイトルの記事を掲載しました。
http://japan-indepth.jp/?p=7746


 以下、過去の調査資料、判決文を紹介して、判決の内容を明らかにします。


2014年7月7日古森特派員の投稿記事のオリジナル
【緯度経度】ワシントン・古森義久 米国での慰安婦訴訟の教訓
2006年03月18日 産経新聞 東京朝刊
http://prideofjapan.blog10.fc2.com/blog-entry-740.html
産経のオリジナルのリンクはありませんが、日本会議が魚拓をとっていました。


 その後、ネット上でエミコヤマ氏がこの最高裁判断について一時資料を示して解説しています、

2006年4月20日
日本軍「慰安婦」問題についての米国議会調査局(CRS)Larry Niksch氏の報告書(2006年4月10日版)
http://macska.org/article/134

Comfort Women Suits in Japanese and U.S. Courts
「In September 2000, 15 former comfort women from China, Taiwan, South Korea, and the Philippines filed a lawsuit in the U.S. District Court in Washington, D.C., seeking claims (including claims for financial compensation) against the Japanese government under the U.S. Alien Tort Statute. The case was titled Joo vs. Japan. The District Court and the U.S. Court of Appeals for the District of Columbia ruled against the women. The courts accepted the argument of the U.S. Executive Branch, filed in a third party brief, that the Executive Branch rather than the U.S. courts had jurisdiction over the “political question” of whether individual claims against Japan were valid in view of the provisions of the Japanese Peace Treaty of 1951. In July 2004, the U.S. Supreme Court ruled that the Court of Appeals must reconsider the case. In June 2005, the Court of Appeals affirmed the original District Court judgment. The case went back to the Supreme Court, which ruled on February 21, 2006, that the claims of the women constituted non-judicial “political questions” and that the Supreme Court deferred to the judgment of the U.S. Executive Branch that the acceptance of such claims by U.S. courts would impinge upon the President’s ability to conduct foreign relations.」


2007年4月16日
CRSLarry Niksch氏の報告書(2007年4月3日版)の翻訳文
(注記、CRS報告書は資料番号、タイトルを変更せず、内容更新の際、前の資料に上書きされる)
http://d.hatena.ne.jp/honyakusha/20070416


米国裁判所における慰安婦訴訟
 「裁判所は、1951年の平和条約の条項から見て日本に対する個人請求権が有効かどうかという「政治的性格の強い訴え」の場合は米国裁判所よりも行政府に管轄権があるとする行政府の意見を取り入れた。2004年7月に米国最高裁判所は控訴裁判所に対して差し戻した。2005年6月に控訴裁判所は最初の判決を確定させた。訴訟は再び最高裁判所で審議され2006年2月21日にこの女性達の訴えは法的ではなく「政治的要求」であり政治的判断についてはその判断を裁判所が行うのではなく行政府に委ねるとする判断を下した。最高裁はもしこのような訴えを裁判所が受け入れたのだとすればそれは外交関係を指揮する大統領の権限の侵害に当たると考えた。」


 上記CRS報告書は日本政府も引用し、村山内閣の「アジア女性基金」に紹介されている。

村山内閣の「慰安婦問題とアジア女性基金」
http://awf.or.jp/
下記資料が上記の2006年4月20日投稿記事と同一資料。
http://awf.or.jp/pdf/h0076.pdf


判決文(検索キーワード;Hwang Geum Joo et al. v. Japan)
2001年10月コロンビア地裁最初の判決
http://www.internationalcrimesdatabase.org/Case/753
23頁判決理由
There is no question that this court is not the appropriate forum in which plaintiffs may seek to reopen those discussions nearly a half century later. Just as the agreements and treaties made with Japan after World War II were negotiated at the government-to-government level, so too should the current claims of the "comfort women" be addressed directly between governments. Several district courts have recently reached this same conclusion with respect to reparations for victims of the Nazi regime. These courts concluded that "the post-war claims settlement regime had been exclusively constructed by political branches, and that it was not the place of courts to resolve [these] claims." In re Nazi Era cases Against German Defendants
Litigation, 129 F. Supp. 2d. 370, 377-78 (D.N.J. 2001); see also Burger-Fischer v. DeGussa AG, 65 F. Supp. 2d 248 (D.N.J. 1999) (holding that certain claims of World War II slave laborers present nonjusticiable political questions); Iwanowa v. Ford Motor Co., 67 F. Supp. 2d 424 (D.N.J.1999) (same). Although the cases addressing reparations for victims of Nazi atrocities
arose in a slightly different factual context than that of the "comfort women," the result nonetheless remains the same. The court therefore concludes that even if Japan did not enjoy sovereign immunity, plaintiffs' claims are nonjusticiable and must be dismissed.
(要約)
 法廷は、半世紀も前の議論を再燃する場所ではない。日本との戦後処理については政府間レベルの交渉で成立した条約であって、現在の慰安婦問題も直接政府間で話し合わなければならない。ナチの犠牲者の問題も、いくつかの地方裁判所は同じ結論に達している。戦後処理の問題は政治的に解決すべきであって、これらの問題を法廷に持ち込むべきではないと結論に達した。
(中略)
 慰安婦と少し異なる事実関係でナチの被害者に対する補償について述べているが、結果は同じである。従って、日本が外国免責特権を持っていないとしても、原告の主張は、裁判で解決する問題ではなく、却下されるべきである。


III. CONCLUSION
For the foregoing reasons, this court is unable to provide plaintiffs the redress they seek and surely deserve. Consequently, Japan's motion to dismiss is granted. An appropriate order accompanies this memorandum.
 前述の理由で、原告の要求する補償を提供することができない。従って、日本への命令は却下される。


2003年6月巡回裁判所はコロンビア地裁最初の判決を支持
http://www.internationalcrimesdatabase.org/Case/764
2005年6月控訴審裁判はコロンビア地裁最初の判決を支持
http://www.internationalcrimesdatabase.org/Case/775
2006年2月21日最高裁は2005年6月の控訴審の判決を支持し訴えを却下
(判決文未発見)


Joo v. Japan訴訟の結論
 米裁判所は、「慰安婦問題」の内容を判断したのではなく、戦後処理問題は政府間の交渉で決めるべきであって、法廷に持ち込むなという判決です。ただし、米裁判所は、Analysisで「日本政府の戦後処理は、1951年のサンフランシスコ平和条約締結、1965年の日韓基本条約締結などで解決済みと認識しています。


 古森特派員は、都合の良い話をつなげて下記のように誤解を招く表現で米国の慰安婦裁判を紹介した。
 「アメリカの政府もこのプロセスで日本政府の主張への同調を示した。 だからアメリカでは司法も行政も、日本の慰安婦問題はすでに解決済みという立場を明確にしたという経緯があるのである。」


 古森特派員は、以上のように結論づけましたが、解決済みではないのです。(判決文を読んでいない可能性があります。)


 この判決のあと、2007年にホンダ決議(下院121決議)、2012年のヒラリークリントン国務長官の「セックススレーブ」発言、2014年4月25日の米韓首脳会談でのオバマ大統領の「慰安婦」発言があり、議会も行政府も問題が解決したとは言えない状況が続いている。もちろん米国でのこの種の慰安婦訴訟は門前払いになると思います。

 下院121決議を根拠にして、各地でコリアン団体が慰安婦問題を取り上げていきました。そして各地に慰安婦像又は碑の設置を推進してきました。


アメリカの「慰安婦の碑」と「慰安婦像」の設置状況

2010.10:ニュージャージー州 バーゲン郡 パリセイズ・パーク - 公立図書館脇 慰安婦碑
2012.6:ニューヨーク州 ナッソー郡 - アイゼンハワー公園内の退役軍人記念園 慰安婦碑
2012.12:カリフォルニア州 オレンジ郡 ガーデングローブ - ショッピングモール前 慰安婦碑
2013.3:ニュージャージー州バーゲン郡ハッケンサック - 裁判所脇 慰安婦碑
2013.7:カリフォルニア州ロサンゼルス郡 グレンデール - 公園 (慰安婦像と碑文)
2014.1:ニューヨーク州ナッソー郡 - アイゼンハワー公園内の退役軍人記念園 慰安婦碑 <2012年に建てた慰安婦碑の左右2カ所に追加>
2014.5:バージニア州 フェアファックス郡 - 郡庁敷地内 慰安婦碑
2014.8:ニュージャージー州ハドソン郡 ユニオンシティ - リバティプラザ市立公園 慰安婦碑
2014.8:ミシガン州 デトロイト市 - 韓国人文化会館前庭 (慰安婦像)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%85%B0%E5%AE%89%E5%A9%A6%E3%81%AE%E7%A2%91


米国における慰安婦像・碑、設置に対する抗議
2012年5月 自民党議員団がパリセイズ・パーク市を訪問、記念碑の撤去を要求。
http://blogos.com/article/39937/


「2014年2月 GAHTがカルフォルニア州でグレンデール市に設置した慰安婦像撤去を求める」

 GAHT;歴史の真実を求める世界連合会
http://www.sankei.com/world/news/140221/wor1402210033-n1.html

歴史の真実を求める世界連合会(GAHT)
https://gahtjp.org/?cat=7


「訴状内容」2014年2月20日 プレスリリース(日本語版)
(略)
 この提訴ではグレンデール市のこの碑の設立が、「連邦政府の行政部門に外交問題の主要な権限を付与している米国の憲法に違反している」とする決定を連邦法廷の判事に求めている。さらに、提訴は、法廷がグレンデール市に記念碑を除去する命令を下すことを要求している。
 グレンデールは、地方自治体として、米国の憲法によって、米国の外交政策の形成に関与する権限は無い。しかしながら、連合会の訴状によると、記念碑を建てることによって、「グレンデールは、議論の多い、政治的に微妙な元慰安婦の歴史における位置づけ」に関して特定の立場を取ったことになる。この記念碑によって示された見解は、日本政府が保持してきた立場と異なる。日本政府は、この問題は、1965年の日韓基本条約において完全に、最終的に解決したという立場をとっている。連合会の会長、目良浩一によると、日本の官憲が女性を強奪し、性奴隷にしたという説は、事実に基づくものではなく、自国に都合の良い空想であるとしている。
 最も重要なことは、グレンデール市の慰安婦に対する対処が、アメリカ政府の方針と相いれないことである。米国政府の態度は、特定問題に関しては、日本と韓国などの政府対政府の絶え間ない対話を推奨し、米国の二つの重要な同盟国間の政治的に微妙な問題に巻き込まれることを避けることである。
(略)


「訴状棄却」
GAHT-US 声明文 2014年8月4日
 本日夕刻、連邦裁判所カリフォルニア中央地区裁判所のアンダーソン判事は、2月20日に提訴された我々の訴訟に対して、判決を下した。その中心的問題点は、我々は「グレンデール市が、連邦政府の権限である外交問題に関して直接に態度を表明したことは、連邦政府に外交権限を独占的に付与した米国の憲法に違反する」として、市が付設した慰安婦像の撤去を求めたのであるが、不思議にも、判事はグレンデールなどに住む原告がこうむった被害と、市が越権行為をしたとされる慰安婦像の付設との関連が希薄であるという理由で、我々の訴えを棄却したのである。ただし、グレンデール市側が要求していた、「無謀な裁判を起こした罰として相手の弁護士費用を支払うべし」であるとする請求は、棄却された。
 GAHT-US としては、判事の因果関係に関する判断はきわめて主観的なものであると考えるが、以前から明言しているように、この判断によって撤退することはない。上告を含め、ほかの色々な法的な手段をも検討して、皆様の期待を背負って、次の段階に持ってゆく所存である。しかるべき時に、次の声明文を発表する予定である。
GAHT-US 代表 目良浩一


「州裁判所への追加措置」2014年9月18日
GAHT-US Corporation
米国カリフォルニア州サンタモニカ市
(略)
 以前の訴訟は、市議会が、慰安婦像に付随した金属板の文言が、市議会で正式に承認されたものではないので、撤去すべきであるということでした。今回の修正で、この慰安婦像の設置は、すべての住民を平等に保護し、同様の権限を与えるというカリフォルニア州の憲法に違反するという訴因を追加しました。グレンデー市は原告と日本人に対し、また原告を含む日系アメリカ人に対しても、法のもとの平等な保護を怠り、慰安婦像を設置することによって、明らかに日本と日本人、日系アメリカ人に対して差別的行動をとったのです。(略)


「GAHT敗訴とSLAPP認定」2015年2月23日
http://www.sankei.com/world/news/150224/wor1502240030-n1.html

エミコヤマ氏の解説
グレンデール市の慰安婦像裁判は、なぜ原告のボロ負けに終わったのか
http://synodos.jp/international/13150
SLAPP訴訟の日程
https://twitter.com/emigrl/status/693147251967811584


 GAHTの訴訟は、Joo v. Japan判決理由から考えれば、戦後処理問題は政府間の交渉(外交)で解決することであり、地方政府や裁判所にその問題を持ち込むなと言うことになります。GAHTの訴状では、地方自治体と連邦政府の外交権限の問題を追及することになり、門前払いの判断になります。従って、判事から「原告側の具体的な被害を証明せよ」というアドバイスをもらっています。


GAHTと連携する保守グループ


なでしこアクション
http://nadesiko-action.org
「慰安婦の真実」国民運動
http://ameblo.jp/ianfushinjitu
新しい歴史教科書をつくる会
http://www.tsukurukai.com
チャンネル桜
https://www.youtube.com/user/SakuraSoTV


他の保守グループ

史実を世界に発信する会
http://hassin.org/
(英語資料)
http://www.sdh-fact.com/

慰安婦問題で影響力のある個人

カルフォルニア州在住の馬場信浩氏のグループ(facebookに詳しい経緯が投稿されている)
ブエナパーク市、フラートン市の慰安婦像設置阻止に成功
https://twitter.com/schoolwars1/status/634220023616147456


エミコヤマ氏(米リベラル、フェミニズム;日本の多くの保守が批判)
ブログ(貴重な資料を保有)
http://macska.org/  

 

木村幹 神戸大教授(中立的で貴重な資料を保有)

http://kimurakan.web.fc2.com/kanhome.htm


(この投稿で、慰安婦問題シリーズを一旦終了します。次回以降、不定期に最近の情勢について投稿することに致します。2015年12月28日日韓外相声明後、日本と韓国のそれぞれで政治的変化が起きています。また、米国における慰安婦活動にも変化が起きています。それらの経緯を見守って行きながら、投稿することにします。)