日韓基本条約では、資料1、2を読むと外交保護権を相互に放棄したが、「個人が請求を提起する権利」は消滅していない、国内裁判所への提訴は可能だと答弁している。


資料2の要点

 「この条約上は、国の請求権、国自身が持っている請求権を放棄した。そして個人については、その国民については国の権利として持っている外交保護権を放棄した。したがって、この条約上は個人の請求権を直接消滅させたものではないということ。その国内法によって消滅させていない請求権はしからば何かということになりますが、これはその個人が請求を提起する権利と言ってもいいと思いますが、日本の国内裁判所に韓国の関係者の方々が訴えて出るというようなことまでは妨げていないということ。」と政府は答弁している。


資料1
1991年8月27日 参議院予算委員会
○清水澄子君 外務大臣、韓国では民間の中からどのような要求が起こっておりますでしょうか。
○国務大臣(中山太郎君) アジア局長から具体的に御説明を申し上げたいと思います。
○政府委員(谷野作太郎君) お答え申し上げます。
 韓国におきまして、最近、いわゆる強制連行者あるいは元軍人軍属の方々、サハリンの残留者の方々、元戦犯あるいはその家族の方々から補償あるいは未払いの賃金の支払い等を求めでいろいろな訴訟なりを行う運動が起こってきておりまして、私どもも報道等を通じてそのようなことを承知いたしております。
○清水澄子君 今、なぜこういう補償要求が出てきたのでしょうか。その理由をどうお考えでしょうか。
○政府委員(谷野作太郎君) 個々のケースによって当事者の方々のお気持ち等は異なるのではないかと思います。一概に私の方から御説明する資料もございませんけれども、他方、いずれにいたしましても、先生も御存じのとおりでございますが、政府と政府との関係におきましては、国会等でもたびたびお答え申し上げておりますように、六五年の日韓間の交渉をもってこれらの問題は国と国との間では完全にかつ最終的に決着しておるという立場をとっておるわけでございます。
○国務大臣(中山太郎君) 昨晩、私は委員会終了後に、来日中の韓国の外務次官と約四十分間会談をいたしましたが、政府間の関係は、韓国の外務省の次官のな言葉をかりれば、今日ほど日韓関係が円満にいっていることはないという御意見でございました。盧泰愚大統領の訪日、また海部総理の訪韓ということによって、日韓関係は未来に向けて共同のパートナーとしてこれから活躍をしていこう、またアジア・太平洋における行動についてもパートナーとして協力をやっていく、またグローバルな立場でも協力をしていこうということが日韓間の国際的な外交に関する基本的な認識であるということも、昨晩双方で確認をいたした次第であります。
○清水澄子君 そこで、今おっしゃいましたように、政府間は円滑である、それでは民間の間でも円滑でなければならないと思いますが、これまで請求権は解決済みとされてまいりましたが、今後も民間の請求権は一切認めない方針を貫くおつもりでございますか。
○政府委員(谷野作太郎君) 先ほど申し上げたことの繰り返しになりますが、政府と政府との間におきましてはこの問題は決着済みという立場でございます。

○政府委員(柳井俊二君) ただいまアジア局長から御答弁申し上げたことに尽きると思いますけれども、あえて私の方から若干補足させていただきますと、先生御承知のとおり、いわゆる日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます。
 その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます。

○清水澄子君 七月十日の韓国の国会で、野党が強制運行された朝鮮人の未払い賃金を請求することについて質問したことに対し、韓国の李外相がそれは日本から返してもらう権利があるという趣旨の答弁をしておりますが、このこととどういう関係になりますか。
○政府委員(谷野作太郎君) 韓国政府も、先ほど私が御答弁申し上げましたところ、あるいは条約局長が御答弁申し上げたところとこの問題については同じ立場をとっておるわけでございます。
 ただいまお話のありました李相玉韓国外務大臣の発言がこの問題についてございますので、そのくだりを読み上げてみたいと思います。「よくご存じのように、政府レベルにおいては、一九六五年の韓日国交正常化当時に締結された、請求権及び経済協力協定を通じこの問題が一段落しているため、政府が」と申しますのは韓国政府がという意味ですが、韓国政府が日本との間において「この問題を再び提起することは困難である」、これが韓国政府の立場でございます。
○清水澄子君 意見がありますが、ちょっと先へ行きます。
 きょうは、韓国の挺身隊問題対策協議会の会長もそちらに来て傍聴をしております。この会は、昨年の六月、この予算委員会におきまして、政府答弁が非常に納得できないということで三十五万人の韓国の女性たちの怒りの中で組織された会であります。
 そして、私は今ここで御質問したいんですが、総理にお伺いします。政府は、今でも、従軍慰安婦問題に国は関与していないという認識でいらっしゃいますか。――いや、総理にお伺いいたします。
○政府委員(若林之矩君) ただいまの御質問は、通常国会におきます私の答弁との関係での御質問だと存じます。
 私ども、従軍慰安婦の問題につきましては、労働本省でいろいろ調査をいたしましたけれども、資料等がございませんでした。さらに、当時の勤労局あるいは勤労動員署で働いていた人につきましてもいろいろと聞いてみましたけれども、こういった方々の話でございますと、全く従軍慰安婦問題というものにはこれらの機関は関与していなかったということでございまして、私ども、そういうことになりますと、全くこの状況を把握する手だてがないということでございまして、政府が関与していたか否かを含めて状況を把握できないということでございます。
○清水澄子君 まことに論弁というよりも、日本政府というのがこれほど傲慢でうそつきだということに今本当に私も心から怒りを覚えております。
 と申しますのは、国家総動員法に基づいて挺身隊というのは徴用を受けたわけです。それと、今これだけ情報を持っている社会、前の体制と違うことは事実です。しかし、それは本当に誠意があれば調べる方法はいっぱいあります。私は今、時間がなくて持ってきませんでしたけれども、たくさんの手紙が来ています。自分は元軍人でこうしたという、本当にたくさんの資料を持ち出されて、日本政府がこういう答弁をしていることに自分たちも責任を感ずる、我慢できないという、そういう多くの日本の生存する実行行為者の皆さんからの資料さえ集まっているわけです。ですから、政府が本当にこれを集める気があればできると思います。
 最近、ソウルで元慰安婦の方が、今おっしゃったような答弁にもう我慢ができないということで名のり出られました。そして今、秋にやはり法廷に出て日本の蛮行を証言したいと言っているわけです。そしてまた、韓国の女性団体からもこの問題を韓国の国会で取り上げるよう要求が始まりまして、秋の国会の議題になるということを聞いているわけです。
 総理、日本政府の皆さん方の発言によって日韓の間の民間の友好ですら壊されていく、このことについて、これは大きな政治問題になる、外交問題になると思いますが、これは総理はどのように解決をされようとなさいますか、お答えいただきます。
○国務大臣(海部俊樹君) 日韓の問題につきましては、私自身も二度にわたる首脳会談で歴史の反省の上に立った認識を述べるとともに、未来志向型の日韓関係を築かなければならないということを盧泰愚大統領とも確認をし、また国会をお訪ねして与野党の指導者の皆さんともその問題については率直に話をしてきたところでありまして、厳しい反省に立った対応というものと、もう一つ、昨年五月二十五日の外相会談の際に、いわゆる朝鮮人徴用者等に関する名簿入手についての協力要請があったことは、これは労働省を中心に名簿調査を行っておるところでありますし、その結果、これまで九万人分の名簿を確認し、そのうち韓国政府への提出について保有者の了解が得られたものの写しを、本年三月五日、外務省が韓国側に提出したどころでありますが、政府は、こうした名簿の調査に専念したいと考えており、今後とも引き続いて労働省を中心として関係省庁が協力して誠意を持って対応してまいる所存でありますので、御理解をいただきたいと思います。
 また、冒頭にお尋ねありました朝鮮人従軍慰安婦の問題については、先ほど関係省庁で調査の結果を申し上げたとおりでありまして、全く状況がつかめない状況であるということでありますので、私もそのような報告を受け、今後とも努力をあらゆる面で考えていかなければならぬと思いますが、実情についてはでき得る限りの調査をさかのぼってしてきたということでございます。御理解をいただきたいと思います。


資料2
1992年2月26日衆議院外務委員会(土井たか子議員の質問) 
○土井委員 今私は議事録に従って申し上げているので、さらにそういうことの注釈というのは不要だと思うの。この点ははっきり、条文上についてどういうふうに考えたらいいかということを私がお尋ねしたことに対するこれは裏づけになるそのときの議事録でございますから。よろしいですか。
 さあそこで、ここで「完全かつ最終的に解決」とおっしゃっていることは、いわゆる個人の請求権そのものを否定してはおられませんね。いかがですか。

○柳井政府委員 条約上、先ほども先生がお触れになりましたとおり、第二条でいわゆる財産請求権の問題を規定しているわけでございますが、ここでは要するにこれらの問題が「完全かつ最終的に解決された」ということを言っているわけでございます。ただいま申し上げましたのは第二条の一項でございます。
 そして、この同じ第二条の三項におきまして、ここはちょっと短いので読ませていただきますけれども、一定の例外がございますが、その例外を別としまして、「一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であってこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であって同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。」この「同日」というのは、この協定の署名の日、すなわち一九六五年の六月二十二日でございます。
 このように規定しておりまして、いわゆるその法的根拠のある実体的権利、いわゆる財産権につきましては、この協定を受けて、我が国におきまして、韓国の国民の財産権を一定の例外を除いて消滅させる措置をとったわけでございます。したがいまして、このような法律的な根拠のある財産権の請求につきましては、以後、韓国の国民は我が国に対して、私権としても国内法上の権利としても請求はできない。そのような措置をとることについて、この協定によりまして、ただいま読み上げましたこの二条の三項におきまして、韓国側としては、それに異議を申し立てることはできないということでございます。
 この二条の三項で「財産、権利及び利益」ということを言っておりますが、これは当時作成されました合意議事録におきまして、これは合意議事録の二項の(a)というところでございますが、「「財産、権利及び利益」とは、法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうことが了解された。」ということになっております。したがいまして、この二条の三項で言っております「財産、権利及び利益」以外のもの、すなわち請求権というものがございます。これにつきましては、ただいまの定義から申しまして法律上の根拠のない請求、いわゆるクレームと言ってもいいと思いますが、そのような性質のものであるということでございます。
 それで、しからばその個人のいわゆる請求権というものをどう処理したかということになりますが、この協定におきましてはいわゆる外交保護権を放棄したということでございまして、韓国の方々について申し上げれば、韓国の方々が我が国に対して個人としてそのような請求を提起するということまでは妨げていない。しかし、日韓両国間で外交的にこれを取り上げるということは、外交保護権を放棄しておりますからそれはできない、こういうことでございます。

○土井委員 るるわかりにくい御説明をなさるのが得意なんですが、これは簡単に言えば、請求権放棄というのは、政府自身が持つ請求権を放棄する。政府が国民の持つ請求権のために発動できる外交保護権の行使を放棄する。これであって、このことであって、個人の持つ請求権について政府が勝手に処分することはできないということも片や言わなきゃいけないでしょう、これは。今ここで請求権として放棄しているのは、政府自身が持つ請求権、政府が国民の持つ請求権に取ってかわって外交保護権を発動するというその権利、これでしょう。だから、個々の個人が持つ請求権というのは生きている。個々の個人の持つ請求権というのはこの放棄の限りにあらず、これははっきり認められると思いますが、いかがですか。

○柳井政府委員 ただいま土井先生が言われましたこと、基本的に私、正確であると思います。この条約上は、国の請求権、国自身が持っている請求権を放棄した。そして個人については、その国民については国の権利として持っている外交保護権を放棄した。したがって、この条約上は個人の請求権を直接消滅させたものではないということでございます。
 ただ、先ほど若干長く答弁させていただきましたのは、もう繰り返しませんけれども、日韓の条約の場合には、それを受けて、国内法によって、国内法上の根拠のある請求権というものはそれは消滅させたということが若干ほかの条約の場合と違うということでございます。したがいまして、その国内法によって消滅させていない請求権はしからば何かということになりますが、これはその個人が請求を提起する権利と言ってもいいと思いますが、日本の国内裁判所に韓国の関係者の方々が訴えて出るというようなことまでは妨げていないということでございます。

○土井委員 結局は個人としての持っている請求権をお認めになっている。そうすると、総括して言えば完全にかつ最終的に解決してしまっているとは言えないのですよ。まだ解決していない部分がある。大いなる部分と申し上げてもいいかもしれませんね。正確に言えばそうなると思います。いかがですか。
○柳井政府委員 先ほど申し上げましたとおり、日韓間においては完全かつ最終的に解決しているということでございます。ただ、残っているのは何かということになりますと、個人の方々が我が国の裁判所にこれを請求を提起するということまでは妨げられていない。その限りにおいて、そのようなものを請求権というとすれば、そのような請求権は残っている。現にそのような訴えが何件か我が国の裁判所に提起されている。ただ、これを裁判の結果どういうふうに判断するかということは、これは司法府の方の御判断によるということでございます。


資料3
東京地裁原爆訴訟判決
 この判例は昭和38年12月7日「原爆判決(下田事件、下田判決)」であり、東京地方昭和三○(ワ)第二九一四号と昭和三二(ワ)第四一七七号の訴状に対する併合訴訟の判決である。
http://www.geocities.jp/bluemilesjp/genbaku.html


 判決は、戦争による個人の被害の賠償請求権があったにしても、国際法的に米国内法的に認められない、また平和条約により請求権を放棄しているため、認められない、としている。


第四、 被告の答弁

五、対日平和条約による請求権の放棄
 対日平和条約第一九条(a)の規定によつて、日本国はその国民個人の米国及びトルーマンに対する損害賠償請求権を放棄したことにはならない。

(一) 国家が個人の国際法上の賠償請求権を基礎として外国と交渉するのは国家の権利であり、この権利を国家が外国との合意によつて放棄できることは疑ないが、個人がその本国政府を通じないでこれとは独立して直接に賠償を求める権利は、国家の権利とは異るから、国家が外国との条約によつてどういう約束をしようと、それによつて直接これに影響は及ばない。

(二) 従つて対日平和条約第一九条(a)にいう「日本国民の権利」は、国民自身の請求権を基礎とする日本国の賠償請求権、すなわちいわゆる外交的保護権のみを指すものと解すべきである。日本はその国民が連合国及び連合国民に対し請求権を行使することを禁止するために、必要な立法的、行政的措置をとることを相手国との間で約束することは可能である。しかし、イタリアほか五ケ国との平和条約に規定されているような請求権の消滅条項及びこれに対する補償条項は、対日平和条約には規定されていないから、このような個人の請求権まで放棄したものとはいえない。仮にこれを含む趣旨であると解されるとしても、それは放棄できないものを放棄したと記載しているにとどまり、国民自身の請求権はこれによつて消滅しない。従つて、仮に原告等に請求権があるものとすれば、対日平和条約により放棄されたものではないから、何ら原告等が権利を侵害されたことにはならない。


裁判所の判決の「理由」
○理由
四、 被害者の損害賠償請求権
(一)国家間での損害賠償権を有するが、トルーマン大統領の個人責任は問えない。
(二)(三)国際法上、特別の条約で規定された例はあるが、個人の国際法上の権利主体が一般的に認められ、これを国際法上主張する手続が保障されたというには不十分である。
(四)国家間の損害賠償は認められていて、これを外交保護権に基づく行為であるが、個々の個人請求権とは関係なく請求することができる。個人は国際法上の権利主体ではない。
(五)国家が他の国家の民事裁判権に服しないことは国際法上確立した原則であるので、日本国の裁判所に救済を求めることはできない。
(六)米国では、国家はその公務員が職務を遂行するに当つて犯した不法行為について賠償責任を負わないという原則・主権免責の法理があるので、国家とトルーマン大統領に賠償責任を問うことはできない。
(七)国内法上の請求権についても、日米両国の国内裁判所のいずれにおいてもその救済を求めることはできないという結論になるわけである。


五、 対日平和条約における請求権の放棄
(六)対日平和条約は日本国民個人の国際法上の損害賠償請求権を認めたものではなく、従つてまた、それを放棄の 対象としたわけでもないのであつて、対日平和条約第一九条(a)で放棄されたのは、日本国民の日本国及び連合国における国内法上の請求権であるということ になる。


主文
原告等の請求を棄却する。


「参考」
未解決の国
日・露(ソ)間の平和条約(未締結)
日本・北朝鮮間の外交条約(未締結)


日ソ・日露間の平和条約締結交渉
外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/hoppo/hoppo_rekishi.html
北方領土問題対策協会
http://www.hoppou.go.jp/gakushu/outline/history/history7/
日ソ共同宣言
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1957/s32-shiryou-001.htm

日朝関係
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/n_korea/data.html#section6