TPP協定における医療関係の記述は、現在確認しているのが次の3ヶ所です。


1.第18章、知的財産権 Sec.18. Intellectual Property
https://ustr.gov/sites/default/files/TPP-Final-Text-Intellectual-Property.pdf


2.第26章、透明性及び腐敗行為の防止の付属書 Annex 26-A
https://ustr.gov/sites/default/files/TPP-Final-Text-Transparency-and-Anti-corruption.pdf


3.医薬品及び医療機器に関する透明性及び手続の公正な実施に関する附属書の適用に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の文書
US-JP Transparency and Procedural Fairness for Pharmaceuticals and Medical Devices
https://ustr.gov/sites/default/files/TPP-Final-Text-US-JP-Transparency-and-Procedural-Fairness-for-Pharmaceuticals-and-Medical-Devices.pdf


1のバイオ製薬データ保護期間については、日本の場合、既に8年の運用を行っているので、TPP協定の8年の期間設定は、何ら状況を変えるものではありません。

(11月11日参院予算委員会で、民主党徳永議員の質問に安倍総理が答弁)

解説
http://ameblo.jp/study-houkoku/entry-12092945268.html

 第26章透明性と腐敗行為の防止に挿入された付属書26-A とこの付属書に係わる日米間の交換文書の二つについて、その内容を紹介します。(最後に結論を記載しています)


「付属書26-A. 医薬品と医療機器の透明性と公正な手続き」(注9)

26-A.1 原則

 締約国は、患者と国民を含むそれぞれの国のために、高品質の健康保険を促進しと公衆衛生における継続した改善を促進することを約束する。これらの目的を追求するとき、締約国は以下の原則の重要性を認める;


(a)公衆衛生を保護し推進する重要性と高品質の医療に供給される医薬品と医療機器(注10)による役割の重要性


(b)研究開発に関連する革新を含み、医薬品と医療機器に関連する研究開発の重要性


(c)透明で、公平で、迅速で、説明できる手続きを通して、品質と安全性と有効性の適切な基準を適用する締約国の権利を侵害することなく、医薬品と医療機器への適時で入手可能なアクセスを推進する必要性


(d)競争的市場の活動を通じて、又は、医薬品と医療機器の治療上の重要性を客観的に示された適切に評価する手順を採用又は維持することによって、医薬品と医療機器の価値を認める必要性


26-A.2 公正な手続き
 締約国の国の健康管理当局が、新しい医薬品の収載と医療機器の償還目標に関する手続きを行い維持することにおいて、締約国は次のことをしなければならない。(注11, 12)


(a)医薬品の収載と医療機器の償還のための全ての公式的かつ正当に策定された提案に関する検討は、指定された期間内に完了すること(注13)


(b)これらの提案を評価するために使われる方法論、原則、ガイドラインの手続き規則を明らかにすること


(c)申請者(注14)に、そして必要に応じて、公共に、意思決定プロセスに関連したところにコメントを適時提供する機会を与えること


(d)国の健康管理当局による新しい医薬品の収載と医療機器償還に関する勧告と決定に対する根拠を理解するのに十分な書面情報を申請者に提供すること


(e)次を可能にすること
 (ⅰ)独立した審査プロセス;又は
 (ⅱ)勧告あるいは決定を出来る専門家あるいは専門グループにより、そのような審査プロセスが最低限でも妥当性の実質的再審査が提供される内部審査プロセス(注15)


 締約国の国の健康管理当局による医薬品の収載とまたは医療機器の償還をしないとの勧告または決定により直接影響を受けた申請者の要求により異議申立されてもよいこと(注16)


(f)締約国の法の下で秘密であるとみなされた情報を保護している間、そのような勧告または決定に関して書面で情報を公開すること


26-A.3 医療専門家と消費者への情報提供
 締約国の法と規制と手続きにより広報活動は許され、各締約国は、製薬メーカが医療専門家と消費者に対して、締約国の領域に登録された、又は、締約国の領域にリンクされ登録された製薬メーカのインターネットサイトを通して、締約国で販売を許された医薬品に関する本当の紛らわしくない情報の広報活動が許される。
締約国は、危険と利点のバランスを含み、締約国の権限のある当局が医薬品の販売を承認した全ての効果を含む情報を要求してよい。


26-A.4 協議
1.この付属文書に関して対話と問題の相互理解を容易にすることは、それぞれの締約国が好意的配慮を行い、この付属文書に係わるあらゆる問題について協議するための他の締約国からの文書による要求に関して十分な協議の機会を与えるべきである。このような協議は、特別な場合を除いて、又は締約国が同意しない限り、要求が出てから3ヶ月以内に開催されるべきである。(注17)

2.協議は、国の健康管理当局の監督に対し責任のある当局、又は国の健康管理プログラムと他の適切な当局の各締約国の責任のある当局を含むべきである。


26-A.5 定義
国の健康管理当局

 締結国がこの付属文書のスケジュールで示した、関連する団体あるいはそのなかで指定した団体、あらゆる他の締結国に関連して、国の健康管理当局を運営している締結国の中央政府レベルによって確立された団体


国の健康管理プログラム
 国の健康管理当局が医薬品の収載あるいは医療機器の償還、又はそのような償還額を設定することに関し、決定あるいは勧告を行うこと。


26-A.6 紛争
第28章で提供される紛争解決の手順はこの付属書には適用しない。


Schedule to Annex 26-A
付属書26-Aの予定表
(日本と米国を記載)


For Japan: Central Social Insurance Medical Council with respect to its role in making recommendations in relation to the listing or setting amount of reimbursement for new pharmaceutical products.

日本;中央社会保険医療協議会(中医協)、新薬に関する償還額の収載あるいは設定に関する勧告を行う役割


For the United States: The Centers for Medicare & Medicaid Services (CMS), with respect to CMS’s role in making Medicare national coverage determinations.

米国;CMS、メディケアに関する国家的決定を行う役割


脚注
(注9)より明確には、締約国は、医薬品と医療機器について締約国が適用できるシステムの様相に関するこの章の透明性と公平な手続きの目的を確認する。第26章の義務に影響を与えることなく、どんなことにおいても締約国の健康保険制度、または医療費の優先順を決定する締約国の権利を修正することはない。


(注10)この付属書のために、それぞれの締約国は、その国における医薬品と医療機器のための法規と規制の対象となる製品の範囲を定義し、そのような情報を一般公開しなければならない。


(注11)この付属書は医薬品と医療機器の政府調達には適用しない。医療サービスを提供している公共団体が医薬品と医療機器の政府調達に係わっていて、国家の医療当局によるそのような活動に関する所定の開発・管理は、政府調達の形態と考えられるべきである。


(注12)公共健康管理団体によって入手される製品あるいは装置に基づき適格に検討されるところの医薬品又は医療機器において、医薬品又は医療機器の市販後の助成金補助の目的のために行われる処置に、この付属書を適用してはならない。


(注13)締約国の国の健康管理当局が指定された期間に提案の検討を終わることが出来ない場合、締約国は、申請者に遅れの原因を明らかにして、提案の検討終了までの別の指定された期間を提供しなければならない。


(注14)より明確には、それぞれの締約国は、それぞれの国の法、規制、手続きの元に、「申請者」としての資格を持つ個人または団体を規定してよい。


(注15)より明確には、サブパラグラフ(ⅰ)に記載され評価プロセスは、サブパラグラフ(ⅱ)に記述された専門家あるいは専門家のグループによる評価以外の評価プロセスを含んでもよい。


(注16)より明確には、サブパラグラフ(e)は締約国に、特定の申込みに関する要求のための一つ以上の要求された審査を提供すること、あるいは、要求と共に、他の提案や他の提案に関する評価を審査することを要求していない。さらに、締約国は、最終勧告・決定草案に関するか、最終勧告・決定書に関するか、サブパラグラフ(e)で指定された審査を選んで良い。


(注17)このパラグラフは、特定の申込みに関する審査や変更することを締約国に求めるとは解釈されない。


「日米二国間交換文書」

US-JP Transparency and Procedural Fairness for Pharmaceuticals and Medical Devices
医薬品及び医療機器に関する透明性及び手続の公正な実施に関する附属書の適用に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の文書

(下記表現は、英文本文とTPP政府対策本部に掲載された日本語概要を分解して対応させたものです。)


Dear:
I have the honor to acknowledge receipt of your letter of this date, which reads as follows:

I have the honor to confirm the following understanding with regard to the Annex on Transparency and Procedural Fairness for Pharmaceutical Products and Medical Devices of Chapter 26 (Transparency and Anticorruption) of the Trans-Pacific Partnership Agreement (“the Annex”) signed on this day:


第26章(透明性及び腐敗行為防止)の医薬品及び医療機器に関する透明性と手続きの公正な実施に関する付属書の適用に関して下記の理解を確認します。


The Government of Japan (“Japan”) and the Government of the United States of America (“the United States”) recognize the valuable contribution of the medical device industry to the health of our societies and of our economies. Access to medical devices is essential to every country’s health care system and provides benefits to patients worldwide. Both countries are among the world’s largest markets for and exporters of medical devices.


日本政府と米国政府は、両国の社会及び経済における健康に対し医療機器産業が有益な貢献をしていることを認めます。医療装置の利用は、あらゆる国の健康保健制度にとって重要であり、世界の患者に対して利益をもたらします。両国は、医療機器の世界最大級の市場であり、かつ輸出者です。


In this connection, while Japan emphasized the need to maintain its universal health care system, Japan and the United States also recognize the importance of transparency and procedural fairness in the operation of national health care programs by national health care authorities, including with respect to medical devices. Japan and the United States confirm that each government will maintain at least the current level of consistency with Paragraph X.2 of the Annex with respect to the treatment of medical devices by: (1) Central Social Insurance Medical Council, with respect to its role in making recommendations in relation to the listing or setting amount of reimbursement; and (2) the Centers for Medicare & Medicaid Services (CMS), with respect to CMS’s role in making Medicare national coverage determinations, respectively.


この点について、我が国が普遍的な保健制度を維持する必要性を強調すると同時に、両国は、医療機器に関するものを含め、国の健康管理当局による国の健康管理制度の実施における透明性及び手続の公正さの重要性も認めます。
両国は、各政府が、それぞれ
(1)償還のため一覧に掲載すること又は当該償還の額を設定することに関して勧告を行う役割についての中央社会保険医療協議会、及び
(2)メディケア(米国の連邦政府が運営する高齢者及び障害者を対象とする医療保険)に関する国における適用範囲の決定を行う役割についてのメディケア・メディケイド・サービス・センターの役割により、医療機器の扱いに関し、少なくとも現在の附属書の規定 X.2(26-A.2) との適合性の水準を維持することを確認します。


Furthermore, under the framework of consultation mechanism provided for in Paragraph X.4 of the Annex, Japan and the United States affirm our readiness to consult on any matter related to the Annex, including relevant future health care programs.


附属書 X.4(26-A.4) に規定する協議制度の枠組みの下では、両国政府は、附属書に関するあらゆる事項(関連する将来の健康管理制度を含む。)について協議する用意があることを確認しました。


I would be grateful if you would confirm that this understanding is shared by your government.
I have further the honor to confirm that my Government shares this understanding.


TPP政府対策本部(24頁)
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2015/13/151105_tpp_koukan.pdf


「まとめ」
 以上のTPPテキストから、医薬品と医療機器に関する表現をまとめると下記の内容になり、TPPテキストには、国内の健康保険制度に影響を与える条文が見当たらないという結論に達します。
(11月11日、参院予算委員会で、甘利大臣は、健康、医療、食品安全に係わる国内制度を一つも変えることはないと答弁しています。)


1.バイオ製薬データ保護期間8年は、現状日本で運用しているルール
2.第26章の「医薬品及び医療機器に関する透明性及び手続の公正な実施に関する附属書」の対象は、健康保険への医薬品の収載や医療機器の償還額の設定に関する事項の透明性と公平な手続きを求めたもの。
3.TPP協定は、締約国の現状の健康保険制度に影響を与えない(脚注9)
4.この附属書は、ISDSの対象ではない。(Paragraph 26-A.6)
5.医薬品と医療機器の政府調達には「附属書」を適用しない(脚注11)
6.公的団体が入手する市販品の医薬品と医療機器に対する助成金には「附属書」を適用しない。(脚注12)
7.日米間の交換文書は、「医療機器」の両国の役割(シェア?)を確認したものである。


 ただし、下記の懸念事項があります。12ヶ国の医療関係者や中央政府当局に、医薬品メーカーが少ない労力でプレゼンテーションやロビー活動が出来ることになります。前回ワクチン接種の仕組みで紹介したように、医薬品メーカーの影響力が強まることになります。密かに裏口から入ってくる制度改正や新規案件を見張る必要があります。


1.インターネットを利用した医薬品のメーカーによる広報活動(26-A.3)
2.締約国の当局による協議会 (26-A.4) (日米交換文書)


 USTRのHPに登録されたテキストは、6千頁を超えるとの情報もあります。全てに目を通すのは困難です。従って、他にも「医療関係」の条項があるかもしれません。上記3ヶ所以外で見つかりましたらご紹介ください。なお、条文の読み方についても、表向きの意味のみで、裏返しの読み方をしていません。他の条文に埋め込まれているかも知れない地雷のような表現も探していません。

 取りあえず、TPP協定により、国民皆保険が崩壊するとか盲腸手術が700万円になるとかの話は、全く根拠がないことが分かりました。