TPP協定文書の医療費や国民皆保険制度の問題に入る前に、現在の日本の薬価や医療機器償還額、診療報酬などの決定、保険行政の仕組みについてその概要をご理解いただくことが必要です。
 TPP協定で国民皆保険が崩壊するとか盲腸手術が700万円になるといった根拠のない話が流布されていますが、その前にすでに日本国内で現実に行われている医療・保健行政の仕組みに目を向けていただきたい。最近の事例から紹介します。


肺炎球菌予防接種の経緯


 数ヶ月前、市役所より「高齢者肺炎球菌予防接種」の案内が届いた。接種期間が来年の3月31日までということもあり、かかりつけの主治医に確認してから受けるか受けないか決めようと思っていた。1ヶ月前、定期的な検診があり、その時にこの予防接種について聞いてみたところ、あまりご存じないようだった。
 もう少し調べてみてからと決心を先延ばしにしていたところ、11月に入り、TVでこの予防接種を受けるよう訴えるCMが流されていた。スポンサーは、米国のMSD社とファイザー社であった。このCMで感じるものがあり思い調べて見たところ、MSD社の「ニューモバックスNP」(23価)とファイザー社の「プレベナー13」(13価)であった。

MSD社肺炎球菌
http://www.haien-yobou.jp/
ファイザー社肺炎球菌
http://otona-haienkyukin.jp/


MSD株式会社;メルク、ホワイトハウス、シェリング・ブラウ社の合弁企業で実質米国のメルク社が支配
http://www.msd.co.jp/about/msd-history/index.xhtml
ファイザー株式会社;米国
http://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/history-us/index.html


厚生労働省 肺炎球菌感染症(高齢者)の説明
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/haienkyukin/index_1.html

 この肺炎球菌ワクチンの接種は、H27年度から、65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳が対象になる。接種を受ける私自身、このワクチンの効果と副作用そして費用を確認しないと決心が付かない。市役所の窓口にワクチンの効果を示す臨床試験データを問い合わせたところ、2日ほどして下記のウェブサイトを紹介していただいた。


(独)医薬品医療機器総合機構
https://www.pmda.go.jp/

 このHPの上部「医療従事者向け」から、「医療用医薬品の添付文書」、「くすりの名称」に「ニューモバックスNP」を入力して検索すると文書一覧が現れ、そのPDFをクリックすると下記のMSD社の資料が現れる。

「ニューモバックスNPの添付文書」
HTML版
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/170050_6311400A1037_2_10#CONTRAINDICATIONS

PDF版
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/170050_6311400A1037_2_10


「臨床成績」に予防効果のデータが表示されている。
 最初の(免疫原性)は、国内での臨床試験で抗体価を調べたもので、ワクチンを接種した結果の発症例ではない。
 表1、表2は南アフリカの金鉱山の若年労働者、表3はモザンビークの金鉱山の若年労働者のデータで、ワクチン接種の効果を示す結果が出ている。(オッズ比;0.08~0.23 小さいほど効果がある)しかし、先進国の表4の米国の55歳以上、表5のスエーデンの50~85歳の予防効果は、オッズ比1以上と全く効果が無いデータが掲載されている。南アフリカやモザンビークの症例は鉱山という過酷な環境や栄養状態なども発症に大きな影響を及ぼすと考えられるが、普通の生活をしている先進国の老人は、別の耐性があるのかも知れない。


米国臨床試験データ(55歳以上)


スエーデン臨床試験データ(50~85歳)



同じく「プレベナー13」を検索すると下記の「添付文書」が現れる。
HTML版
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/671450_631140EC1022_1_04#CONTRAINDICATIONS
PDF版
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/671450_631140EC1022_1_04


 この「臨床成績」を見ると国内臨床試験(高齢者)では、ニューモバックスNP(23価)との抗体濃度の比較であってニューモバックスNPのような発症例数の効果を示すデータはない。


 厚労省の下記審議会にファイザー社が臨床試験データを報告していたが、「添付文書」と同様の抗体濃度測定である。

平成26年7月16日 第10回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei.html?tid=127714

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000058657.pdf


ワクチンの接種方法と費用負担
平成26年6月23日 第77回社会保障審議会医療保険部会
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000048865.pdf

 B類疾病に相当するので、市町村の負担となり、自治体によっては本人から費用の一部をを徴収している。


ワクチンの種類と価格
平成27年7月28日
第一回厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 ワクチン評価に関する小委員会)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei.html?tid=284965

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000092677.pdf

ニューモバックスNP(23価);MSD社(メルク社) 4,737円
プレベナー13(13価)   ;ファイザー社    7,200円


 自治体によって異なると思うが、私が住んでいる市役所は、23価の接種を自己負担2,500円で受けることを推奨している。これは、「医師の注射診療費+4,737円」の自己負担で、差額は自治体の負担(税金)になる。

 接種対象の方々は年齢別人口統計から800万人弱、半数が「23価」のワクチン接種を受けたとしたら
 4,737円 x 400万人=約190億円が毎年MSD社に入って行く。


 この高齢者肺炎球菌ワクチンの経緯を簡潔明瞭に解説したのが下記資料で、新薬認可や健康保健行政がどのようなプロセスで決まって行くかが書かれている。

国立感染症研究所(2014年10月)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2300-related-articles/related-articles-416/5030-dj4168.html


 厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会でどなたかかの提言があって、議論のあとワクチン接種推進という結論に達し、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会等の専門家の検討の結果、厚生労働省が省令改正を行い実施することになる。


新しい肺炎球菌ワクチン導入の是非 2015年10月28日
著者の西川先生(医師)も別の動機で悩まれている。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/nishikawashinichi/20151028-00050908/


「まとめ」
 最後に、上記、平成27年7月28日の「種類と価格」の資料に示されているようにワクチン接種をしていない長寿命国(フランス、イタリア)もある。日本は現在でも世界一の長寿国(ワクチン接種していない国が多い)であり、さらに寿命延ばすことになるのか、それとも、感染を防止し症状を軽減して医療費を削減できるのか、社会保障費全体でみたらどうなるのかその説明が見当たらない。現在、平均寿命は、男性80歳、女性86歳で有り、これをさらに延ばす試みと思わざるを得ない。ますます社会保障費が増加するはずである。



平均寿命ランキング(予防接種実施国;米、英、独、加)
http://memorva.jp/ranking/unfpa/who_whs_2015_life_expectancy.php


 私にとって、このワクチンを接種したら、感染の危険をどのように防止でき、ワクチンの効用がどの程度あるのか分からないことが決心を鈍らしている。MSD社の臨床試験データは海外で行っていて、先進国の50歳以上では効果が確認出来ていない。日本での臨床試験データがあれば決心ができるが。実質H27年度からの接種開始なので、今年の接種者から臨床試験データを取れることになる。しばらく待とうかと思う。


 国立感染症研究所の資料によれば、政府審議会または研究会で提案されるとそれがあたかも国民全体の健康や安全を改善するかのように誘導され、政策に取り込まれ予算化して実行する。健康人に疾病を予防あるいは軽減するためと言って予防接種を推進する。発病したわけではないので、毎年の行事として定例化され、決まった収入が約束される。


 なお、現在重い副反応で問題になっている「子宮頸がんワクチン」も類似している。製薬会社は、グラクソ・スミスクライン株式会社(英国)とMSD株式会社(米国)である。

Wikiの「子宮頸がんワクチン」解説
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%88%E3%83%91%E3%83%94%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%83%AF%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%B3


副反応
第15回厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会)
平成27年9月17日
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei.html?tid=284075

平成27年9月18日産経
子宮頸がんワクチンの副作用、1割が未回復…「積極勧奨せず」継続
http://www.sankei.com/life/news/150918/lif1509180003-n1.html


日本における医事行政の仕組み

 新薬や医療機器の審査は、「(独)医薬品医療機器総合機構」が審査し、厚労大臣に報告、大臣は「薬事・食品衛生審議会に諮問し、答申を受けて承認を行う。


 診療報酬については、申請された薬価基準・収載について、厚労大臣は、中央社会医療協議会(中医協)に諮問し答申を得てから決定する。中医協は、このほか療養担当規則、療養給付など幅広く厚労大臣の諮問を受け審議する。中医協構成(診療側7名、支払側7名、公益6名)


 このほか、各種の審議会、研究会があり、それぞれのテーマについて審議し答申を行い、最終的には厚労大臣の承認を得ることになる仕組みがある。審議会などにおいて、製薬会社や外国政府の利益代表であるような委員を選出しない限り、医薬品が高騰し皆保険制度が崩壊し、盲腸手術に700万円かかるなどと言う事態にはなるはずがない。しかし、このワクチン接種のような仕掛けが次々と作られ、その費用を積み上げていくと、皆保険制度も危なくなる。


厚生労働省・審議会研究会
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/indexshingi.html


(次回、TPP協定の医療関係テキスト)