アトランタでのTPP閣僚会合は、予定の9月30日、10月1日の二日間で決着せず、2日までずれ込み、3日に記者会見を行うと発表された。


日本のメディアの報道

NHK 10月2日10時09分 
TPP閣僚会合 日程延長し交渉継続の方針
 アメリカ南部のアトランタで行われている、TPP=環太平洋パートナーシップ協定の交渉参加12か国による閣僚会合は、日本時間の2日午前、2日目の全体会合を開き、大筋合意を目指して当初の日程を延長し、交渉を続ける方針を確認しました。
 TPP=環太平洋パートナーシップ協定を巡って、アメリカ南部のアトランタで行われている、交渉参加12か国による閣僚会合は、日本時間の2日午前7時半ごろから、2日目の全体会合を行い、およそ1時間で終了しました。
 会合では、バイオ医薬品の開発データの保護期間や、乳製品の関税の取り扱いなどを巡って、関係国の溝が埋まっていないことから、大筋合意を目指して、当初の日程を延長し、交渉を続ける方針を確認しました。このあと、甘利経済再生担当大臣は記者団に対し、「閣僚会合は、予定を延ばして、あす1日、さらに精力的に協議を進める。厳しい状況がすべて解決されたわけではないが、解決に向けての糸口が見いだされつつあるということなので、可能性を信じて全閣僚が努力を続けようということだ」と述べました。
日本政府関係者によりますと、交渉全体を主導するアメリカは、バイオ医薬品の開発データの保護期間を長くするよう主張して、強硬な姿勢を崩していないほか、乳製品でも、輸出の大幅な拡大を目指すニュージーランドとの間で折り合えていないということです。
 このため、交渉当事者の間からは「日程を延長しても、アメリカが一定の譲歩をしなければ、交渉全体が前進しない」という見方が出ており、今回の会合で大筋合意が実現できるかどうかは、依然として予断を許さない状況です。
 アメリカのフロマン通商代表は「困難な課題について現実的な解決策を見いだすためすべての国が精力的に作業を続けている」と短くコメントしました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151002/k10010256011000.html


産経 10月2日10時54分
TPP閣僚会合2日目が開幕 知財難航で会合を延長

【アトランタ=西村利也】米アトランタで開かれている環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の閣僚会合は1日(日本時間2日)、2日目の協議を開いた。知的財産の新薬データ保護期間をめぐる協議などが難航していることから、議長国の米国は当初1日までだった会合日程を、2日まで延長することを決めた。交渉参加12カ国の閣僚による記者会見は、3日に行われる予定。
 2日目に行われた全体会合は、初日と同様に約1時間で終了。各国は2国間協議や事務レベルの協議を重ね、課題の議論を詰めた上で全体会合を再開させることを確認した。
 甘利明TPP担当相は会合後、記者団に「今回(会合を)延期するのは、解決の可能性を信じて各国が最後の努力をする意思表示だと思う」と強調。「(各国の事務折衝は)少しずつ前に進みつつあり、1日延ばしても(閣僚会合を)やる価値があるという判断を皆がした」と述べ、大筋合意への期待を示した。
 難航している新薬データの保護期間をめぐっては、製薬企業を抱える米国が12年を求める一方、オーストラリアやメキシコ、マレーシアなどは5年を譲らず対立している。ただ、5年を主張していた一部の国が軟化に転じたとの交渉筋の話もあり、前進の兆しが見えてきている。
http://www.sankei.com/economy/news/151002/ecn1510020018-n1.html


難航する交渉
 交渉が決着しない理由は、USTRが米国の譲歩を提案できないからだ。その詳細を以下に紹介する。
 

 米国の通商交渉権限は議会にあり、TPA法で一時的にその権限を大統領(USTR)に与える。しかし、USTRは議会から一任されたわけではなく、上院財政委員会と下院歳入委員会の委員長と少数派筆頭理事の4名が入るそれぞれから5名ずつ計10名の議会アドバザーグループがUSTRを指導することになる。  

 従って、オバマ大統領(フロマンUSTR代表)は、米国が譲歩しなければならないとき、上記委員会の4人の指導者あるいは議会アドバイザーに相談し了承を取り付ける必要がある。TPA法が実施されていても通商交渉の権限は議会にある。


 今回のアトランタ会合では、事前から交渉中にかけて、フロマン代表は多くの議員からの要求を受けている。


上院財政委員会と下院歳入委員会の委員長と少数派筆頭理事の4名
上院ハッチ委員長、ワイデン筆頭理事、下院ライアン委員長、レビン筆頭理事の署名書簡
 10月1日、「我々は、重要な問題がTPP合意が議会で十分支持されるよう解決すべきであり、未解決で残ることに深い懸念を示す」とフロマン代表に書簡を送った。

ワシントンポスト 10月1日
http://www.washingtonpost.com/politics/negotiators-signal-that-theyre-close-to-final-accord-on-asia-pacific-trade-deal/2015/10/01/12832282-6853-11e5-9223-70cb36460919_story.html


ハッチ委員長演説要旨 9月29日
 「それが我が国のために最適でない結果を意味するならば、会合終結を急げと言う方々は、我が国に誰もいない。交渉官はこれらの懸念を理解すると思う。私の希望は、今週のアトランタの最終会合を通じて、交渉官達が、議会に協定を通過させるために何が必要か考えることだ。TPA法案を支持した超党派的な連携を見るならば、上院でまた下院で十分な支持を得ようとするバランス感覚がかなり優れていなければならない。」とハッチ委員長は語った。
 ハッチ委員長は、完全に調査が終わるまで協定に対し、支持を保留すると語り続けた。
「もし、政府や我が国の交渉官が今週合意をまとめるならば、私がこれらの基準に合致することをかなり慎重に調査を行うつもりであることを確信すべきだ。そして、以前から度々述べているように、合意内容が不足するならば、私はその協定を支持しない。」

http://www.finance.senate.gov/newsroom/chairman/release/?id=5dc30ebe-a6e6-4f23-b898-f5ed34ccaf27


ワイデン筆頭理事 9月30日
酪農品輸出拡大、著作権問題、タバコ規制のISDS適用除外への支持を訴え、次のように警告した。
「アトランタで、これらの優先事項を反映しTPA法の目的に一致する合意に達しなければ、そのような合意が得られるまで交渉が続くと思っている。」
http://www.finance.senate.gov/newsroom/ranking/release/?id=d0f0e571-7136-482a-98ab-3a30e0ebac17


下院歳入委員会レビン筆頭理事 10月1日
自動車原産地規則強化と労働条件改善を訴える
http://democrats.waysandmeans.house.gov/op-eds/politico-agenda-levin-what%E2%80%99s-still-wrong-tpp


POLITICO Morning Trade 9月29日
フロマン代表は、米国はTPP協定を急いではいないと語る。
USTRはTPP協定の(米国の)利益を優先し、アトランタでの合意を急がないと。
オバマ大統領は、米国の中産階層のために引き渡し、雇用を守り、米国社会の安全性を高めるTPP協定に応じるだけであることを明確に示している。とフロマン代表が語った。


「交渉の課題」


 懸案となっていいる重要問題は、乳製品の各国の割当、自動車原産地規則、バイオ製薬データ保護期間の三つと言われている。この他にも深刻な対立がある。日本の農産物輸入規制、繊維の原産地規則、砂糖の自由化、タバコ規制のISDS適用除外、為替操作規制、インターネット上の著作権問題、政府調達、人身売買問題など。
 以下その対立の構図を紹介する。


乳製品
 7月にライアン委員長等21名の下院議員、ハッチ委員長とワイデン筆頭理事がカナダの酪農製品を自由化するようカナダ大使に書簡を送った。TPP会合からの追放も言及した。
カナダは10月19日総選挙で、現政権のハーパー首相率いる政党が政権を失うと予想されている。その前に、酪農製品の割当の合意を得たいのだが、米国の要求を呑めば、総選挙で不利になる。このカナダの壁(供給管理制度)が崩れれば、アメリカの壁も低くなり、ニュージーランドの輸出量が増加するという玉突きになっている。


詳細は下記スレッドに
http://ameblo.jp/study-houkoku/entry-12059745579.html


カナダでは、9月29日オンタリオとケベックの数百の酪農家が数十台のトラクターと乳牛をオタワの議事堂前に繰り出し交通を止めた。
http://www.theglobeandmail.com/news/news-video/video-harper-says-dairy-industry-to-be-protected-in-pacific-trade-deal/article26587294/


自動車原産地規則
 下記最新情報では、部品の原産地割合が40%台半ばと報道されているが、パブリック・シチズンのレポート(後述)では「日米合意は、完成車45%、部品30%であった」とされている。部品30%から45%前後に引き上げを日本自動車工業会(JAMA)が了承しているのだろうか。


NHK 10月2日 15時41分
TPP 自動車の原産地規則で日本が譲歩案

 アメリカで行われているTPP=環太平洋パートナーシップ協定の交渉は詰めの協議が続いています。自動車分野の交渉で、日本は、関税をゼロにする際の基準で国内の自動車産業への影響を抑えつつ、対立するメキシコなどに対して一定の譲歩案を示し、決着点を模索していることが分かりました。

 アメリカ南部アトランタで開かれているTPP=環太平洋パートナーシップ協定の交渉では、自動車分野のうち、原産地規則というルールが大きな焦点になっています。これは、TPPに参加する国で生産された部品をどれぐらいの割合使えば自動車の関税をゼロにするのか、その基準を決めるものです。
 これまで、日本は、TPP以外の国の部品を多く使っても関税がゼロになるよう、原産地規則の割合を、日本が使っている計算方法で40%程度に近い低い水準にするよう求めてきました。
 これに対して、メキシコやカナダは、アメリカと結んでいる自由貿易協定ですでに70%を上回る水準に設定していることを踏まえ、高い割合にするよう譲らず対立してきました。
 関係者によりますと、日本は交渉をまとめるため、自動車本体の原産地規則の割合については55%程度を軸とする譲歩案を示したということです。
その代わりに、日本の自動車産業への影響を抑えるため、変速機など輸出に力を入れている一部の自動車部品については、日本に有利になるよう原産地規則の割合を低くする方向で決着点を模索しているということです。
 日本としては、自動車分野の協議を早期に終結し、ほかの分野の交渉を加速させたい考えです。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151002/k10010256421000.html


テレビ朝日系(ANN) 10月2日(金)5時55分配信
TPP自動車分野で進展 部品割合40%半ばで最終調整
 アメリカ・アトランタで開かれているTPP(環太平洋経済連携協定)閣僚会合は、難航している自動車の部品の調達割合を40%台半ばで最終調整するなど進展が見られています。
 1日夕方になってもまだ2日目の閣僚会合は始まっていませんが、自動車分野では合意に近付いている模様です。
 メキシコ、グアハルド経済相:「(自動車分野について)懸案はまだいくつか残っている」「(Q.合意はまだ遠い?)いや、かなり近付いているよ」
 自動車は関税撤廃の条件としてTPP内で作られた部品をどの程度、使うかが争点でしたが、交渉関係者によりますと、日本とアメリカ、メキシコなど4カ国で「4割台半ば」を軸に最終調整しているということです。一方、バターなど乳製品については、日本はニュージーランドに生乳換算で3万t程度の輸入枠を提示していますが、ニュージーランドは当初の30万tの要求は大幅にトーンダウンさせているものの、溝は埋まっていない状況です。会合はすでに延長されることが決まりました。合意に向けて正念場を迎えています。

http://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000059771.html


デトロイト議連の動き
 7月末のハワイ閣僚会合でメキシコがこの自動車原産地規則の日米合意案に反対を表明した。この時、マウイ島には、デトロイトの利益を代表するレビン下院歳入委員会民主筆頭理事が来ていた。さらに、レビン議員は、8月23日の週メキシコを訪問、当局者と利害関係者(労組も含む)に会い、原産地規則をTPP協定に盛り込むよう強く要請した。(IUST記事と前出の10月1日付けのレビン声明文)
 9月9日、米自動車部品工業会が、9月10日デトロイトの代表のブラウン上院議員(民主)、ポーツマン上院議員(共和)、スタビナウ上院議員(民主)が連名で、フロマン代表にNAFTAの自動車原産地規則を守れと書簡を送った。


 レビン下院議員は、10月1日、アトランタに入った。(10月2日は下院休会)


米自動車部品工業会(MEMA)書簡
http://www.mema.org/Document-Vault/MEMA-Industry-News/MEMA-TPP-ltr-2015.pdf
ブラウン上院議員の発表
http://www.brown.senate.gov/newsroom/press/release/brown-portman-and-stabenow-trans-pacific-partnership-must-support-boost-us-auto-manufacturing


 自動車原産地規則問題は、メキシコやカナダが言い出したことではなくデトロイトがレビン議員などを通して、JAMAの競争力をそぎ落とそうとしている。

 JAMAが政府交渉団にどのような要求を出しているかは分からないが、乗用車2.5%小型トラック25%の関税を20年以上維持し、原産地規則で満足な妥協点が得られなければ、日本はアメリカから得るものはなく、農産品の妥協で失うものばかりになる。一方的な従属関係の貿易協定になる。


バイオ製薬データ保護期間
 下記時事の記事のように、米国(12年)とオーストラリア(5年)の中間をとる6年案、8年案や10年案が出てきているが、米製薬産業の代表のハッチ上院財政委員長が「オバマケア法」で規定された12年を変えるのは議会であり、オバマ政権の権限ではないと強く警告している。
 アトランタ会合では、合意出来ないことが明白だ。もし、USTRが合意したとしたら、議会の立法権を侵すものだとして、議会がTPP協定を粉砕するかも知れない。


時事通信(msn)10月1日
医薬品データ保護「8年案」浮上=決着、終盤にずれ込みも―TPP
 【アトランタ時事】環太平洋連携協定(TPP)交渉で難航する最先端のバイオ医薬品のデータ保護期間の設定をめぐり、「実質8年」とする案が浮上していることが30日分かった。保護期間について米国は12年を、オーストラリアは5年をそれぞれ主張し、激しく対立しているが、TPP交渉を監視する複数の関係筋が同日、「8年で折り合う可能性がある」との見通しを明らかにした。

 バイオ医薬品は、生物が生成するたんぱく質などを使って作る。がんなど難病治療への利用で市場の拡大が見込まれる。データ保護期間は、バイオ医薬品の開発企業に独占的な販売を認める期間を定めるもので、米国は国内法に準じて12年間を主張してきた。ここにきて米産業界の複数の関係者は、米議会を説得できる許容範囲として「8年」を挙げた。

 一方、TPP交渉に反対する国際NGOは、データ保護期間が実質8年で決着する可能性があると指摘。具体的には、TPPでの保護期間を5年とした上で、新薬の市販後に有効性や安全性の確認のために事実上独占的な販売を認める日本の再審査制度のような仕組みも導入し、実質的にデータ保護期間を計8年とする案が検討されているという。

 交渉参加国の関係者は、データ保護期間の交渉について、決着は閣僚会合の最終局面にまでもつれ込むとの見通しを示し、豪州だけでなく、チリやペルーも長期のデータ保護期間に慎重な姿勢だと明らかにした。 
http://www.msn.com/ja-jp/news/other/%E5%8C%BB%E8%96%AC%E5%93%81%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF%E4%BF%9D%E8%AD%B7%E3%80%8C%EF%BC%98%E5%B9%B4%E6%A1%88%E3%80%8D%E6%B5%AE%E4%B8%8A%EF%BC%9D%E6%B1%BA%E7%9D%80%E3%80%81%E7%B5%82%E7%9B%A4%E3%81%AB%E3%81%9A%E3%82%8C%E8%BE%BC%E3%81%BF%E3%82%82%E2%80%95%EF%BD%94%EF%BD%90%EF%BD%90/ar-AAeXgZs#page=2

NHK 10月2日19時
TPP交渉 医薬品データ保護が最大の焦点に
 TPP=環太平洋パートナーシップ協定の交渉参加12か国による閣僚会合は、当初の日程を延長して交渉を続けることになり、大筋合意の実現に向けて、バイオ医薬品の開発データの保護期間で、関係国が折り合えるのかが最大の焦点となっています。
 TPP=環太平洋パートナーシップ協定を巡ってアメリカ南部のアトランタで行われている交渉参加12か国による閣僚会合は、日本時間2日午前、2日目の全体会合が行われました。会合では、バイオ医薬品の開発データの保護期間や、乳製品の関税の取り扱いなどを巡って、関係国の溝が埋まっていないことから、大筋合意を目指して当初の日程を延長し、交渉を続ける方針を確認しました。
このあと、甘利経済再生担当大臣は記者団に対し、「状況の厳しさは、バイオ医薬品を巡る交渉がいちばんだと思う。アメリカのフロマン通商代表には『アメリカも柔軟性を発揮する余地があるのではないか』という話をした」と述べました。
 日本政府関係者によりますと、バイオ医薬品の開発データを巡って、12年の保護期間を主張してきたアメリカが10年以下にまで譲歩する姿勢を示し、より短くするよう求めているオーストラリアなども歩み寄りを見せていますが、依然として双方の隔たりは埋まりきってはいないということです。
このため、交渉当事者の間からは「アメリカのさらなる譲歩がなければ、交渉全体が前進しない」という見方が出ており、大筋合意の実現に向けて、バイオ医薬品の開発データの保護期間で関係国が折り合えるのかが最大の焦点となっています。3日目の全体会合は日本時間の3日に行われる見通しです。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151002/k10010256851000.html

日本の農産物輸入
 日本は、コメ、牛肉・豚肉、小麦、砂糖、乳製品の重要5品目を守ることを両院の農業水産委員会で決議され、交渉の度に各種の数字がマスコミに掲載される。
昨年4月オバマ大統領来日時に決まった数字だと言う方もいる。合意発表までは、確かめられない。


繊維の原産地規則
 ベトナムは、中国や非TPP国からの入手する布に対する免税と履き物に関する米国関税の撤廃を求めている。(注;ナイキの多くの製品はベトナムで製造されている)ベトナムの原産地規則は米国の雇用を守るための過去の協定に含まれる長期間の「ヤーンフォワード」をひっくり返す。もし認められるならば、ベトナムの要求は、議会がTPPを許可するかどうか不確実性を増すことになる。


ヤーンフォワード詳細
http://ameblo.jp/study-houkoku/entry-12059749956.html


砂糖の自由化
 砂糖に関しては、消費側団体と製糖業者とのそれぞれの要求を受けて、連邦議員がそれぞれの利益を代表し、USTRに要求を出している。フロマン代表もこれらの意見を裁く立場でないので、オーストラリアへの割当量提案に苦慮していると思われる。議会アドバイザーグループで調整すべき問題と思うが、それが機能していないと考えられる。


ロイター 9月30日
砂糖輸入の自由化を求める45人の超党派議員
 共和党のマイク・ケリー下院議員、民主党のアール・ブルームノアー下院議員が主導し45名の超党派議員が、砂糖の輸入自由化を訴える書簡をフロマン代表に送付した。
オーストラリアの年50万トン割当要求に対し、米国は15.2万トンを提案したがオーストラリアは拒否をした。
米国内の砂糖産業の競争力を強化し消費者価格を下げたいと訴えている。
http://uk.reuters.com/article/2015/09/30/us-trade-tpp-sugar-idUKKCN0RU2VN20150930


ケリー下院議員(歳入委員会委員)のウェブサイト
 現在の砂糖価格が不当に高く、消費者や産業を傷つけている。砂糖の供給を増やし、価格の大幅引き下げを求める。
「書簡の要旨」
 大幅な国内需要を満たすため砂糖の輸入拡大を求める。米国の消費者や食品会社は、高い価格と供給不足に直面している。国内価格は国際価格の2倍であり、2008年からの消費者と産業が負担した費用は150億ドルである。需要が国内生産と時代遅れの輸入割当の下で許された輸入を上回るからだ。2025年までに需要が450万トンの輸入が必要になるのに、農務省は2014年-2015年に350万トンの輸入と予測している。輸入はさらに必要になる。
 米国の砂糖市場を開放することは、米国商品の広範囲の輸出業と輸出指向の食品産業、それに関わる農民や牧場主を含むサービスに市場参入を促す。
統計局の調査では、この15年の間に12万人の雇用を失った。砂糖を使う産業は、パン屋、菓子、酪農、清涼飲料や食品メーカー、50州にまたがり、多国籍企業から中小企業、家族経営まで幅広い。

http://kelly.house.gov/press-release/rep-kelly-calls-opening-us-sugar-market-trade-negotiations


(筆者注)
 多国籍企業は安い砂糖を求めて、生産拠点を海外に移設する。従って雇用が失われる。
 米国内の製糖業者は多くの議員に献金し、国際価格の2倍の価格を維持する輸入規制を継続している。上院財政委員会委員でかつTPA法の議員アドバイザーでもあるシューマー上院議員がその代表。それに対してコカコーラなど食品加工産業は、砂糖の自由化を求めていている。今回の45名の議員は後者の代表。


生産者側の事情は下記に
http://ameblo.jp/study-houkoku/entry-12059749956.html


タバコ規制のISDS適用除外
 10月1日、USTRが突然、タバコ規制に対するISDS適用除外を提案した。前述のワイデン筆頭理事の声明にもあるように、彼はこの提案を支持した。しかし、葉たばこの生産州の代表であり共和党員のマッコネル上院院内総務、バー上院議員とティリス上院議員が7月30日にISDSの対象から外さないように書簡を送っていた。マッコネル院内総務は、上院の全てを取り仕切る権限を持っていて、法案の審議採択権を持っている。砂糖問題と並び、議員同士の激しい利害調整になる。

ロイター 10月1日
U.S. submits compromise on anti-tobacco laws under Pacific trade deal

早速、ティリス上院議員がTPPを打ち負かすために働くと述べ、下院農業委員会の17名は懸念を表明した。
http://www.reuters.com/article/2015/10/02/trade-tpp-investment-idUSL1N1211QY20151002

7月30日の3人のタバコ生産代表の表明
http://ameblo.jp/study-houkoku/entry-12061092481.html


為替操作規制
 TPA法は未完であり、両院協議会で税関授権法案(HR644)の上院版と下院版を統一し、下院、上院とも可決しなければならない。この協議のなかで、為替操作条項を決定することになっているが、未だに両院協議会が進んでいない。
 TPA法審議のなかで、デトロイト議連がビッグスリーの意向を受けて、執拗に「制裁を含む為替操作条項」を求めている。ハワイ、アトランタ会合に向けて下記のようにオバマ政権に圧力をかけている。


上院財政委員会のメンバー、ポーツマン、スタベノウ、グラスリー、ブラウン、バー、ベネット、メネンデス、シューマー上院議員のルー財務長官とフロマン代表への書簡
(2015年7月16日)
http://www.portman.senate.gov/public/index.cfm/files/serve?File_id=1b2b1027-ba52-4d3a-b9a5-d60480e6ac66

7人の超党派上院議員の書簡(2015年9月15日)
http://www.portman.senate.gov/public/index.cfm/files/serve?File_id=a580ab39-42cc-4a6e-aeb3-69acf0e14945c-4a6e-aeb3-69acf0e14945

レビン下院議員の声明(2015年8月11日)
http://levin.house.gov/press-release/levin-statement-china%E2%80%99s-currency-devaluation

下院議員158名の大統領への書簡(デビー・ディンゲル下院議員のウェブサイト)
(2015年9月25日)
https://debbiedingell.house.gov/media-center/press-releases/advance-weekend-tpp-negotiations-bipartisan-group-158-representatives


インターネット上の著作権問題
 USTRが交渉国に提案した著作権のフェアユース問題にクレーム
 著作権期間の大幅延長を煽ったハリウッドとレコード産業の提案が、革新を制限し、教材へのアクセスを制限し、インターネット・プロバイダーに著作権執行者の行為を強要することは、多数の大衆の憤慨を誘発した。(SOPA/PIPAの失敗)
 ワイデン議員は、インターネットの自由を信奉し、2012年1月SOPA/PIAP採決をくい止め、フェアユースを認めている。


インターネット協会から上院財政委員会と下院歳入委員会への書簡
http://internetassociation.org/wp-content/uploads/2015/01/011415tpaletter.pdf


政府調達
 米国は、しきい値を超える中央政府契約が全てのTPP交渉国から企業まで平等に利用出来るように求めている。しかし、民主党と共和党の多くの議員は「バイアメリカン」の優先権を放棄することに反対している。
 米国の要求は、マレーシアの幅広い反対に遭った。マレーシアはブミプテラ政策-華僑に対するマレー人の優遇政策の維持を主張。
 他のTPP交渉国は、米国の50州の政府調達を保証しなければならないと主張したが、米国は拒否した。90%の米国人が支持するバイアメリカン法とマレーシアとの間には巨大な政治的バックラッシュがある。

(注)
 米国はWTOの政府調達を受け入れているが、連邦政府の調達が対象、州以下の地方政府はそれぞれが独自に対応することにしている。背景にはバイアメリカン法があり、この法律を改正しなければWTOの政府調達を遵守することが出来ない。このため、日本は米国に対する「年次改革要望書」で州政府の調達を開放するよう長年要求してきた。応じる州も増えてきたが全てではない。また、連邦政府の調達については、いつでも大統領がバイアメリカン法の適用の是非を裁量できる。つまり、米国の政府調達の規定はザル法である。
詳細は下記に
http://ameblo.jp/study-houkoku/entry-11887220708.html


人身売買条項
 メネンデス上院議員が人身売買条項を6月末成立のTPA法に入れ、該当するマレーシアをTPP交渉から外そうとした。税関授権法案(HR644)の両院協議会による統一法案ででこのメネンデス条項を和らげる合意が出来ていた。その前にハワイ会合直前の7月27日に、国務省が人身売買報告書2015年版を公表し、マレーシアを最悪レベルのTier3からTier2に引き上げた。
 これによって、マレーシアのTPP交渉が継続できることになったが、メネンデス議員等の人権派議員は怒り狂って、国務省の報告書作成のプロセスを調査することになった。

詳細は下記に
8月5日 国務省の報告書発表
http://ameblo.jp/study-houkoku/entry-12058565500.html
7月17日 160名の議員が国務省に要望書を送付
http://ameblo.jp/study-houkoku/entry-12051505175.html
6月30日 TPA法と人身売買条項の関係
http://ameblo.jp/study-houkoku/entry-12044938128.html


まとめ
 以上ののように、交渉が決着できない最大の理由は、通商交渉権限を持つ米議会の議員が国内のステークホルダーの代理人になっていて、グループ毎に利害が対立すること、国内法の変更を拒否することにより、USTRは身動きを取れない状況になっているからだと理解出来る。特に米国の譲歩は極めて困難であり、バイオ製薬データ保護期間の問題は、議会が承認するまで変更はない。従って、アトランタで決着することはないだろう。
 二国間のFTAであれば、相手を力任せに屈服させ、米韓FTAのような一方的な協定になるが、今回の多国間交渉では、二国間で合意が出来ていた自動車原産地規則のように、メキシコからの異議申立でデッドロックに乗り上げることが発生する。そしてUSTRの上にいる議会アドバイザーグループのバラバラな方針がTPP交渉を混乱させ、長引かせる。


参考資料
全中レター(9月3日)
http://ameblo.jp/study-houkoku/entry-12069643553.html
パブリック・シチズンのメモ アトランタ会合に向けて(9月25日)
(後日紹介予定)
http://www.citizen.org/documents/reporters-memo-tpp-atlanta-2015.pdf