昨日11月21日、衆議院が解散され、12月2日公示、12月14日投票の日程となった。その解散の動機とされる、17日発表の7-9月GPP速報値がマイナスで、2期連続となったという政府発表に疑問を感じざるを得ない。直前まで民間のアナリストはプラスだと予想していたが、かけ離れた速報値だった。その見込み違いの原因は、「民間在庫増加」の数値であった。


内閣府発表資料(11月17日)
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2014/qe143/pdf/gaiyou1431.pdf

日経11月17日
2期連続マイナス成長 7~9月年率1.6%減
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS17H0M_X11C14A1MM0000/
 内閣府が17日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0.4%減、年率換算で1.6%減だった。4月の消費増税後の個人消費の停滞が長引き、2四半期連続のマイナス成長になった。これを受け、安倍晋三首相は18日、2015年10月に予定する消費税率10%への再引き上げを延期し、国民に信を問うために衆院を解散することを表明する。

 2四半期連続で設備投資が減ったうえ、在庫の取り崩しが成長率を年率換算で2.6ポイント押し下げた。個人消費の反発力が鈍かったうえ、輸出も力強さを欠き、在庫や住宅投資などのマイナス分を補いきれなかった。民間エコノミストの予想の中央値は前期比年率2.0%増だったが、それを大幅に下回った。
(以下略)


 11月18日、安倍首相は、「昨日、7月、8月、9月のGDP速報が発表されました。残念ながら成長軌道には戻っていません。」として、消費税10%への引き上げ時期を2017年4月に延期し、景気弾力条項を外して、増税を実施する旨、発表した。
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2014/1118kaiken.html


 さて、本当に第3四半期(3Q 7-9月)のGDPがマイナスになっただろうか。
データは、下記内閣府の「統計表一覧(2014年7-9月期 1次速報値)」にある。
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2014/qe143/gdemenuja.html
このデータのうち、「実質季節調整系列」の支出側「金額」と「前期比」とを抜き出すと、

生産総額(支出)
1Q:1-3月 535兆344億円 (1.6%)
2Q:4-6月 525兆19億円 (- 1.9%)
3Q:7-9月 522兆8301億円 (-0.4%)
3Q-2Q= -2兆1718億円

民間消費支出
1Q 321兆5550億円 (1.3%)
2Q 305兆4694億円 (- 3.1%)
3Q 306兆5798億円 (0.2%)
3Q-2Q= 1兆1104億円

民間住宅
1Q 15兆5839億円 (0.1%)
2Q 13兆9396億円 (- 0.3%)
3Q 13兆91億円 (- 0.2%)
民間企業設備
1Q 74兆3181億円 (1%)
2Q 70兆7509億円 (- 0.7%)
3Q 70兆5986億円 (- 0%)
民間在庫増加
1Q - 5兆5906億円 (- 0.5%)
2Q  - 222億円 (1.2%)
3Q - 2兆9701億円 (- 0.6%)
3Q-2Q= -2兆9479億円

政府消費
1Q 102兆2726億円 (0%)
2Q 102兆2298億円 (0%)
3Q 102兆5661億円 (0.1%)
公的固定資本
1Q 23兆4251億円 (- 0.11%)
2Q 23兆4962億円 (0%)
3Q 24兆33億円  (0.1%)

(公的在庫増加は少額につき省略)

純輸出
1Q  5兆8043億円 (- 0.2%)
2Q  9兆8845億円 (1%)
3Q 10兆4272億円 (0.1%)
3Q-2Q=5427億円


 総額に影響する項目は民間在庫増加であり、2Qが -222億円、3Qが -2兆9701億円と約3兆円(-0.6%)のマイナスになっている。
 この民間在庫の落ち込みを考慮しなければ、全体として、経済はわずかながら上昇していることになる。
 生産+輸入=消費(支出)+在庫+輸出
 生産=消費(支出)+在庫+純輸出(輸出-輸入)
であるから、在庫の落ち込みは、生産と輸入を減らすか、消費と輸出が増加する場合である。しかし、民間支出は、民間消費1兆1100億円増と住宅9305億円減、設備1523億円減で、ほぼ相殺され、わずかに増加している。残るは公的支出が8525億円増、純輸出(輸出-輸入)が5427億円増えている。この公的支出と純輸出の増加分の合計が約1兆4000億円になる。民間在庫の3兆円減少と大きな開きになり、その差、1兆6000億円の生産減少を行ったのであろうか。


 安倍首相は、18日の記者会見で次のように述べた。
「政権発足以来、雇用は100万人以上増えました。今や有効求人倍率は22年ぶりの高水準です。この春、平均2%以上給料がアップしました。」

 総務省統計局の「労働力調査」11月11日発表を見ると、雇用は増えている。。
   正規  非正規  合計    (単位;万人)
1Q  3223  1970  5193
2Q  3303  1922  5225
3Q  3305  1952  5257
http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/4hanki/dt/pdf/2014_3.pdf

求人倍率も2Qから、1.1倍と一定している。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000062651.html

 9月の日銀短観によれば、業況判断は、大企業の製造業は小幅な改善、非製造業および中堅、中小企業は悪化。設備投資計画は規模に関わらず上方修正。
日銀短観(2014年9月調査)
https://www.boj.or.jp/statistics/tk/tankan09a.htm/
日銀短観の解説(みずほ総合研究所)
http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/DI/tankan141001.pdf


 つまり、生産が減少しているとは言えなく、「民間在庫増加」の数字に疑問を感じざるを得ない。多くの経済アナリストも疑問を呈している。


日経 11月18日
在庫急減 かく乱 マイナス成長、民間予測の想定外
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS17H4X_X11C14A1EA2000/
 7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質で2四半期続けてマイナス成長となった。先週末時点ですべてプラス成長としていた民間調査機関の予測とかけ離れ、市場に与えた影響は大きかった。消費税率を上げた後の個人消費は想定よりも冷え込み、在庫の動きもGDP統計をかく乱しており、景気の基調を読みにくくしている。

 「想定を大きく下回る弱い結果」(大和総研の熊谷亮丸氏)、「2四半期続けてのマイナス成長は衝撃的」(農林中金総合研究所の南武志氏)。GDP公表後、民間エコノミストは一様に驚きの表情を隠せなかった。増税前の駆け込み需要の反動減が強く出る4~6月期よりは、7~9月期は良くなるはず。こんなエコノミストの常識をGDP速報値は覆した。誤算は在庫、設備投資、消費の3つだ。

 GDP統計ならではの下振れ要因となったのが在庫だ。GDP全体の伸び率は在庫の取り崩しだけで前期比0.6ポイントも下がった。

 企業が出荷の落ち込みに応じて生産を抑えれば在庫は減り、抑えなければ増える。ただ、理由を問わず、原則として前期より在庫が大幅に増えればGDPを押し上げ、前期より大幅に減ればGDPを押し下げる。仮に在庫変動がなかったとすると、実質成長率は4~6月期は年率マイナス12.1%と速報値(マイナス7.3%)より悪かった。逆に7~9月期はプラス1.0%だった。

 鉱工業生産統計の在庫指数は9月末に6月末と比べて1.1%上がり、多くのエコノミストは在庫の取り崩しがそれほど進んでいないと見ていた。内閣府はGDP速報では製品在庫を91品目別に計算し、統計が出そろっていない原材料や仕掛かり品は過去のデータから予測する。これを民間エコノミストが正確に予測するのは難しかった。

 7~9月期に減ったとはいえ在庫の水準はまだ高い。10~12月期も在庫の調整に時間がかかれば、「生産の回復が一段と遅れるリスクはある」(第一生命経済研究所の新家義貴氏)。

 設備投資は民間が前期比1%程度の増加と見ていたが、結果は0.2%減だった。日銀短観などで企業が強気の設備投資計画を保っていることを考えると、「想定外」の一つだ。

 企業がどれだけの設備投資をしたかが分かる法人企業統計は7~9月分が12月1日の公表で、GDP速報値には間に合わない。このため速報値では鉱工業品のうち設備投資に使われる製品の出荷の指標などを使って推計する。

 設備投資の一致指標とされる輸送機械を除く資本財出荷は7~9月に前期比0.1%増。この指標だけ見れば設備投資は横ばいだが、内閣府は品目ごとに細かく推計をする。企業の計画から考えると2四半期続けて設備投資が減るとは考えにくい。こんな考えから設備投資が増加と見たエコノミストは多かった。このため法人企業統計を反映して推計されるGDP改定値では「設備投資は上方修正される可能性がある」(熊谷氏)との見方は多い。
(以下省略)


産経11月17日
民間予測、なぜ外れた 在庫減、設備投資を読み誤る
http://www.sankei.com/economy/news/141117/ecn1411170048-n1.html
 内閣府が発表した平成26年7~9月期国内総生産(GDP)速報値は実質年率1・6%減で、事前の民間予測平均の実質年率2・47%増を大幅に下回った。民間予測と政府の統計がこれほど食い違うのは珍しい。多くのエコノミストが驚きを隠さない「予測外れ」の背景には、消費税増税後という特殊な経済状況下で、企業の在庫調整の影響や設備投資の回復を読み誤ったことがあるようだ。

 「在庫の減少が成長率のマイナスに寄与するとは思っていたが、これほどとは思わなかった」。7~9月期の実質GDPを年率で前期比2・2%増と予測していた日本総研の下田裕介副主任研究員は、予測が大きく外れた理由をこう説明した。

  在庫の減少にはさまざまな要因が考えられるが、GDPの統計上はマイナスに働く。7~9月期は結果として成長率を前期比0・6ポイント、年率換算だと2ポイント以上押し下げた。下田氏は前期比0・2ポイント程度の押し下げとみていたという。

 ただ、在庫の減少は先行き、景気にプラスに働く可能性もある。個人消費の低迷で4~6月期に積み上がった在庫の削減が終われば、消費の回復とともに「生産の増加が期待される」(下田氏)ためだ。

 今回、もう1つ事前予測と速報値が大きく異なったのが設備投資だ。民間予測は、先行指標とされる機械受注統計や日銀の全国企業短期経済観測調査(短観)の底堅さから、設備投資はプラスに転じるとの見方が強かった。想定外の2四半期連続減の結果について、農林中金総合研究所の南武志主席研究員は「非整合的な内容」と首をかしげる。

 また、明治安田生命保険の小玉祐一チーフエコノミストは、そもそも「GDP速報値段階は基礎統計がそろっておらず予測は非常に難しい」とこぼす。

 一方、内閣府は今回の速報値に、設備投資の動向を示す7~9月期の法人企業統計などを加味した改定値を12月8日に発表する。在庫調整が、企業の投資意欲につながれば速報値段階よりもGDPが改善する可能性もある。
(以上 産経)


 7-9月GPP速報値の疑念は、企業からの統計データを入手していない状況で、推定値を書き込むこと、つまり、意図を持った数字を書き込むことも可能だ。12月1日発表の法人企業統計を織り込んだ第2次速報値が12月8日に発表されるが、民間在庫と設備投資などは、大幅に変わる可能性もある。全体としてはプラス成長になる可能性もある。(今回の民間予測はプラスである。)


 もし、意図的な数字の操作を行ったのならば、安倍首相の判断を誤らせ、解散総選挙に誘導した犯人がいることになる。
 安倍首相は、景気弾力条項無しで2017年4月消費税10%、そして軽減税率を自公で協議する(3点セット)と発表した。3点セットの確定を国民に認めさせることが今回の総選挙の目的だと考えざるを得ない。野田政権以来、増税プロパガンダを推進し、増税法案が通過すると、軽減税率を求めたマスコミ、その背後にそのプロパガンダを行わせた真犯人がいる。


 11月2日に放送された「たかじんのそこまで言って委員会」(読売TV:関西)で、飯島勲内閣参与が「12月2日に衆議院解散、14日に投開票」と発言。既に、この時点で、シナリオができていたか、この動きを知った真犯人達が、実施時期を譲歩して、消費税増税の3点セットを選挙公約に盛り込むことを画策したとも考えられる。


 民間在庫や設備投資などの推定値を意図的に設定することは容易にできることであり、官僚にとって後で確定値に置き換えることは何らやましいことではない。


 製造業に従事していた経験では、生産側から見れば、在庫減少は、今後の生産拡大を行わざるを得ないというプラス要因であって、経済成長が期待できるのである。(産経記事、下田氏も)


 真犯人の姿が浮かんできた。夕刊フジのインタビューに安倍首相は次のように答えた。
 「正直、予想より悪い数字だった。大きなマイナス要因は企業の在庫の減少だ。本来、在庫が減ることはいいことだが、GDP統計では在庫が増えるとプラス、在庫が減るとマイナスになる。ただ、その要素を除外してもプラス0・9%と良くなかった
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20141120/plt1411200830001-n1.htm


内閣府の12月8日(8時50分)第2次速報を期待して待ちたい。
その速報値で疑念が晴れるのであれば、我々は、トリックにはめられたのだと思わざるを得ない。