「オバマ大統領は、2013年内にTPP締結はできない」


 オバマ政権は、合衆国憲法上「通商交渉権限」を議会から付与されていない状態で、TPP交渉を続けてきた。交渉締結に向けて権限を持てるTPA(貿易促進権限)の獲得が必須であり、それがなければ、TPP締結を諦めざるを得ない。(Thune上院議員、Bahtia GE副社長)米国がTPPから離脱することになれば、計り知れないダメージがオバマ政権を襲う。


 そのため、二期目の政権は、発足するとすぐ2月初旬にバイデン副大統領が欧州首脳と会談、並行してUSTRとEUの事務方が協議、2月12日のオバマ一般教書演説で、米欧FTAの交渉開始を表明した。2月22日には、安倍・オバマ共同声明で日本の参加意志と米国の受け入れを発表した。6月6,7日の米中首脳会談に向けて、USTRが昨年中国にTPP参加を呼びかけた、中国が参加検討を行っているとリークされた。


 TPP-P11に加え、欧州、日本、中国がFTAに参加するとしたら、ほぼ全世界を交渉の相手にすることになる。これは、米議会への働きかけで、TPAを獲得する活動だと思えば理解できる行動だ。


 3月19日以降の3回の上院財政委員会公聴会において、TPA問題が協議され、USTR代表人事も明らかになった。ボーカス委員長の声明では、6月にTPA+TAA法案を提出し、数ヶ月で審議を行うと言っているが、フロマンUSTR代表候補の上院承認も遅れている。


 通商協定の締結には、90日前に条文などの必要文書を添えて議会に申請することが求められ、10月5日~7日のAPEC首脳会議を締結の目標にするならば、7月9日に申請が必要となる。そしてその前に、TPA法が成立していなければならない。6月16日時点で、USTR代表も決まっていないし、TPA法案提出も行われていない。
 米政界筋の見解では、TPA法案の審議は6ヶ月以上かかると言われている。今月法案が提出され順調に審議されるとしても、早くて12月の成立なる。それからTPP締結前の申請を行うと90日後の2014年春のTPP締結になる。


 オバマ大統領が希望している年内の締結は、ほぼ消えたように思う。
下院での「情報公開を求めた130名以上の書簡」(2012年)、今月に入り「230人の為替操作問題要求」「新人議員36名の大統領へのTPA付与反対声明」があり、さらに、共和党議員、上院議員の反対や、情報開示を求める行動など、議会内の意見対立が高まっている。
 多くの声明では、TPPの条文開示が前提、それを行わなければ、TPA法案の審議も行わないという議員が多い。さらに、TPA法案審議が延びる材料が増えている。


 USTRのパブリックコメントには、各業界から言いたい放題の要求が日本に向けられている。その最たる声明はUAWのキング会長の要求である。230名の「為替操作問題」を叫んでいる下院議員が、デトロイトを中心とする自動車産業の影響下にあることが理解できるだろう。


「米議会へのロビー活動」


 このような状況をさらに加速させるには、米議員への情報提供が有効な手段であることがわかってきた。日本からの二つの働きかけを紹介する。


 「TPPって何?」のグループが米上院、下院の全議員に「衆院農林水産委員会決議」「自民党決議」の英訳を送付された。(下記の送付先は、5月末の432名となっているが、その後残りの議員にも送信したと聞いている。)
http://notpp.jp/sn.html

さらに、USTRパブリックコメントにも、このグループから送信された。
呼びかけ人: 鈴木宣弘東京大学教授、他4,342筆の署名
http://www.regulations.gov/#!documentDetail;D=USTR-2013-0022-0084


この運動をきっかけに、参院農林水産委員会から決議文を送付することになった。

日本農業新聞(2013/6/13)
http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=21572


TPP決議 米政府・議会に送付へ 参院農水委 日本国会の意思表示

 参院農林水産委員会が、4月に採択したTPP交渉参加問題に関する決議を英訳し、米国の政府や議会に送付することが12日、分かった。TPPなど貿易協定は政府間で合意・締結しても、国会が批准しないと発効しない。決議は、米麦など農林水産分野の重要品目を関税撤廃の対象から除外することなどを政府に要求。こうした日本の国会の意思を、TPP交渉を主導する米政府などに伝えることは重い意味を持ちそうだ。
 決議の英訳版の送付は、同委員会の与野党の理事らが10日に協議し、決めた。衆院農林水産委員会で同様の決議を採択したことも付記することにしている。
 決議は、米麦の他、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などを「除外」または、結論を先送りする「再協議」の対象にするよう政府に要求。これらを確保できないと判断した場合は、「脱退も辞さないものとする」と明記している。こうしたことを、国会の強い意思として米国に明確に伝える必要があると判断した。
 今国会の会期末の26日までに、米通商代表部(USTR)の他、TPPをはじめ米議会で通商交渉を担当する委員会などに送付する方向で調整している。現在、英訳を作成中だ。
 参院農林水産委員会での審議や理事会などで送付を提案したみどりの風の舟山康江政調会長は12日の記者会見で「自己満足で(決議を)出すだけでなく、しっかり日本の国会の意 思を伝える意味は大きい」と語った。
 同委員会の自民党・野村哲郎筆頭理事は「農林水産分野の守るべき聖域を明記しており、主張できる」と意義を強調。民主党の筆頭理事・郡司彰ネクスト農相は「国益を損なわないための布石にしていかなければならない」と指摘する。
 参院農水委の決議は自民、公明、民主、生活、みどりの風の5党が共同提案し、4月18日に採択。衆院農水委は翌19日に決議した。

(以上農業新聞)


 最後に、一部の保守勢力には、TPPを日米同盟の強化とリンクする考え方があるが、USTRが中国にTPP参加を呼びかけたことと中国が検討を始めたことを知れば、関係ないことが理解できるだろう。中野剛志氏が「反官反民」の中で、主張していたことが証明された。USTRパブリックコメントをご覧になれば、各企業・団体の要求であり、日米同盟など、遙かにかけはなれたことだとご理解いただけるだろう。


 米国側の情報はオープンなのだが、日本のマスメディアは、ほとんど報道しない。特にTPA(貿易促進権限)の憲法問題は、情報封鎖をしているとしか考えられない。


 米政界は、これからTPAだけではなく、キーストンXLプロジェクト、オバマ政権の不祥事問題(IRS問題、AP通信通話調査、米軍内性的暴行、ベンガジ問題、CIAの個人情報収集など)、秋の財政の崖問題など、混乱に陥ってくと予想する。2014年になれば、中間選挙モード、自由貿易を隠さなければならない。(米国政治状況終わり)