4月12日のTPP事前交渉の政府合意発表を読むと、日米経済関係交渉を根本的に変えようということに合意したと見なせる。
 マスコミや評論家、政治家、運動家などは、TPPに集中して報道や議論を行っているが、政府合意発表をご覧になっていないのかと思う。

 戦後の日米経済関係の枠組みが、根本的に変わることを意味している。これまで、戦後、日米間には貿易協定(条約)と言えるものがなかった。条約をつくろうという話だ。


その1;TPP交渉と日米二国間交渉は別。ただし、非関税措置については、TPP協定発効時点で実施する。

その2:これまでの日米経済関係交渉は、行政協定あるいはMOU(覚書)であり条約ではない。これからは法的拘束力を持つ協定(条約)を結ぼうという合意。


「日米協議の合意の内容」
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2013/130412_gouibunsyo.pdf
2 この目的のため、日米間でTPP交渉と並行して非関税措置に取り組むことを決定。
 対象分野:保険、透明性/貿易円滑化、投資、規格・基準、衛生植物検疫措置


「日米間の協議結果の確認に関する往復書簡」
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2013/130412_syokan.pdf
(段落3)
この目的のため、両国政府は、TPP交渉と並行して、保険、透明性/貿易円滑化、投資、知的財産権、規格・基準、政府調達、競争政策、急送便及び衛生植物検疫

措置の分野における複数の鍵となる非関税措置に取り組むことを決定しました。これらの非関税措置について達成される成果が、具体的かつ意味のあるものとなるこ

と、また、これらの成果が、法的拘束力を有する協定、書簡の交換、新たな又は改正され法令その他相互に合意する手段を通じて、両国についてTPP協定が発効す

る時点で実施されることを確認します。


「自動車貿易TOR」
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2013/130412_tor.pdf

自動車関税について、米韓FTA以上の扱いにすると合意している。米韓FTAの条件は下記に。

http://www.ustr.gov/uskoreaFTA/autos
安全規格と環境基準は米国基準。車種別税制の是正(日本でいう3,5ナンバーなど)。
関税
米国から韓国への乗用車、条約実施時に8%から4%へ引き下げ、5年後ゼロ
韓国から米国への乗用車、条約実施時から5年間2.5%維持、その後ゼロ
韓国から米国へのトラック、条約実施から8年間25%維持、その後10年かけてゼロ
(以上、日米事前協議合意発表について)


以下は、日米間の経済関係を理解するための資料です。


「4月1日発表の2013年USTR外国貿易障壁報告書(日本部分)」外務省翻訳


  内容的には、この報告書に書かれた米国の希望を満たせば、米国は日本とTPPで交渉することもない。 「日米経済調和対話」でごりごりと要求され、日本側が譲歩していけば、なし崩し的に米国の利益が大きくなっていく。この際、貿易協定(条約)ではなく、日本側の自主的なルール変更を迫れば、TPPのような貿易交渉における米議会の承認は不要であろう。(これまで)


外務省TPPのHP
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/index.html
上記の最下段「その他参考資料」に外国貿易障壁報告書(平成25年4月4日)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/pdfs/tpp20130404.pdf

日米経済関係
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/keizai/index.html

基礎資料
「米国経済と日米経済関係」(平成25年3月)に最新の米国および経済関係がまとめられている。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/keizai/pdfs/j_u_keizai.pdf
「日米経済調和対話」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/24/1/0127_01.html
「日米経済関係年表」 
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/keizai/nenpyo.html

 繊維、鉄鋼、テレビ、牛肉・オレンジ、NTT、自動車、半導体、工作機械、日米包括経済協議、日米規制緩和対話、日米経済協調対話と、一方的に日本が譲歩してきたのではないかと見える。この間、米国(USTR)は、米議会に日本との「貿易交渉協定書(条約)」の承認(批准)を求めたであろうか。つまり日米のこれまでの貿易交渉は、貿易条約ではなく、日本側の自主規制に終わっているのではないかと推察する。


「米議会調査局(CRS)4月8日報告書」

 「事前協議とは何であろうか」という疑問を感じていたが、下記米議会調査局の報告で疑問が解けてきた。  過去日米間では、様々な分野で貿易摩擦が発生し、その都度、日本側の一方的な譲歩で解決されてきた。TPPは貿易協定(条約)であり、各国の議会での審議・批准が必要である。しかし、日米間の貿易摩擦の解決に議会が審議・批准をしたのであろうか。とふと疑問を感じていた。

 米議会調査局報告で、日米間の貿易摩擦解決は、二国間の合意(行政協定?)かMOU(覚書)で処理されてきたと書かれている。つまり、USTRは、日本に対しては、米議会とは連携して対応したかもしれないが、米国内法に一切影響を与えず、一方的な日本側の譲歩で、米国の利益を守ってきた。USTRからみれば、貿易障壁報告書や日米経済調和対話などに書かれた、対日要求を日本側に認めさせればよいわけで、多国間の交渉のTPPに日本を入れたらどうなるか予想はしているはずだ。
 USTRの本音は、米国内の産業間で日本のTPP参加に賛否両論があり米国内の議論を抑えたいし、11ヶ国の合意が見えて来ている現在、日本の参加が合意形成を引き延ばすだろうとして、高いハードル(日本の全面降伏)を設けていた。一方、欧州とのFTA交渉開始も合意が得られ、2月12日のオバマ一般教書演説で公表した。オバマ政権(USTR)の狙いは、TPA(貿易促進権限)の獲得が最優先課題であり、議会工作が必須だからだ。各議員にTPP、EU-FTAと世界を相手にして、輸出と雇用を増やすから、TPAに賛成せよとアピールするためであろう。


 日本側が、7月に会合を開きたいと言っているが、TPA法案の見通しや日本との事前協議の内容を議会が調査している間、この7月は過ぎてしまうだろう。(後述の米議会の反応を参照)

 「TPPの行方は、米議会がTPAを可決するかどうかにかかっている。」
TPAを可決できなければ、TPP交渉からUSTRは退場しなければならない。


「米議会調査局(CRS)「日本のTPP参加問題」」

CRSの下記タイトルのレポートは、2012年8月24日に公表された。2013年4月8日直近の内容に書き換え、昨年の同一ファイルに上書きされた。CRSで探すと昨年のファイル名のまま、内容が今年4月8日に変わっている。北テキサス大学が昨年の公表記事を保存していた。
題名「Japan’s Possible Entry Into the Trans-Pacific Partnership and Its Implications」
2012年8月24日版(野田首相がという記事) 北テキサス大学保存版
http://digital.library.unt.edu/ark:/67531/metadc122241/
2013年4月8日版(安倍首相がという記事)CRSのHP
http://www.fas.org/sgp/crs/row/R42676.pdf


注目すべき内容があったので、簡単に紹介する。
 1.オバマ政権は、以前のTPA(貿易促進権限)とそのTPAに入っていた90日ルールがあるかのように装っている。
 2.「living agreement」は、合意新しいメンバーを加えて行く仕組み。
 3.これまでの日米間の通商交渉の結果は、合意書かMOUであり法的根拠を持っていない。(条約ではない)

「日本との貿易摩擦の解決の歴史」
Managing the Trade Relationship
(省略)
戦後の日米の経済関係と安全保障の説明のあと、米国が、日本の保護貿易を非関税障壁に集中して攻めたことを説明して。

Certain measures are not covered by WTO agreements and are currently not readily addressed in trade negotiations since they serve nontrade functions.
非貿易機能を取り扱う時から、特定の基準は、WTO合意によりカバーされず、進行中の貿易交渉では対象にされない。

Examples of such measures include
その基準の例

- domestic taxes on car purchases and other regulations said to discriminate against sales of imported vehicles;
 車購入の場合の国内税制や輸入車販売に対する差別的規制
- a government contract bidding system that favors certain domestic providers of construction services;
 建設サービスにおける特定の国内供給者を支援する政府契約 
- zoning regulations that discourage the establishment of large retail stores that are more likely to sell imported products than the smaller stores the regulations are designed to protect;
 大規模小売店の地域規制
- government health insurance reimbursement regulations that discourage the purchase of newer, leading-edge pharmaceuticals and medical devices,

many of which are imported; and
 新しく先端的な医薬品と医療装置の購入をはばむ健康保険償還規則
- government subsidies for the production of semiconductors.
 半導体産業への補助金

To address these non-tariff barriers Japan and the United States employed, largely at the latter’s instigation, special bilateral frameworks and agreements to conduct their government to government economic relations.
これらの非関税障壁を対象とするため、日本と米国は、特に米国は、政府間の経済関係に結びつける二国間の枠組みと合意を使用した。

These arrangements included
これらの協定

- the Market-Oriented Sector-Specific (MOSS) talks started in 1985;
 1985年からのMOSS協議
- the Structural Impediments Initiative (SII), begun in March 1989;
 1989年5月からの日米構造協議(SII)
- the United States-Japan Framework for a New Economic Partnership, begun in 1993;
 1993年からの日米包括経済協議
- the Enhanced Initiative on Deregulation and Competition Policy (the Enhanced Initiative), begun in 1997;
 1997年からの日米規制緩和対話
- the U.S.-Japan Economic Partnership for Growth (The Economic Partnership) begun in 2001; and
 2001年 成長のための日米経済パートナーシップ
- the United States-Japan Economic Harmonization Initiative, launched in 2010, which now operates as the primary bilateral forum for bilateral discussions.
 2010年 日米経済調和対話

The two countries also concluded bilateral agreements or memoranda of understanding (MOUs),whereby Japan agreed to address U.S. concerns about its trading practices for specific products, including autos and semiconductors.
二ヶ国は、二国間合意またはMOUを締結した。それによって、日本は、米国の特別の製品-自動車と半導体-に関する懸念に対処することに合意した。

These arrangements varied in their approaches. However, they shared some basic characteristics: they were bilateral; were designed to remedy U.S. - Japan trade problems by focusing on regulations and other fundamental barriers; and were typically initiated by the United States.
これらの協定は、二ヶ国の取り組み時に変化した。しかし、それらは相互的であった。いくつかの基本的特性を共有した。規制と他の基本的な障壁に集中することに
より米日の貿易問題を修正するよう計画されていた。そして、特に米国から始められた。

However, these arrangements were only of limited success, judging by the fact that many of the issues they were supposed to address remain.
しかし、これらの合意は限定的な成功でしかなかった。このことは、対処すべきと思われた多くの問題が残っている事実により判断される。

上記のように、CRSと外務省の年表は一致していて、「bilateral agreements or memoranda of understanding (MOUs)」であり、法的拘束力がない、つまり議会で批准されたものではない。


「日米事前協議合意発表に関する米国の反応」

ロイター報道
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPJT832930220130412


2013年4月12日「日本のTPP参加問題、米議会の通商交渉権限を持つ上院、下院の委員会声明」

 米議会は、米国の利益になるなら賛成、日本は米国の輸出に対する障壁を取り除け、TPP交渉を遅らせるな。と厳しい。
キャンプ委員長(共和)、レヴィン議員(民主)も支持母体が自動車産業であるから、自動車関税引き下げを最大限延長したとしても、反対せざるを得ない。90日ルールの審議は、各議員の立場の違いが明確になり、審議における議員の対立が見えている。議員から、日本のガードを下げさせよという要求が出て、日本の官僚がなし崩し的に譲歩し、USTRが最初に言っていた「無条件で全てをテーブルにのせ、ハイスタンダードの合意を目指そう」という状態になる可能性がある。つまり、日本が無条件降伏をすれば、90日ルールで参加承認、TPA(貿易促進権限)も可決の可能性はある。しかし、下院歳入委員会での90日ルールの審議は混乱が予想され、日本の7月の参加も全く見通しがなく、最後の9月の参加ですら困難と思われる。


上院財政委員会ボーカス委員長(モンタナ州選出、ビーフのセールスで昨年夏来日)
http://www.finance.senate.gov/newsroom/chairman/release/?id=6c837017-1862-4cb7-83ab-c396d372592c
 これは大きなニュースだ。日本のTPP参加は、アメリカの商品とサービスに巨大な市場を開く絶好の機会である。アメリカの製造業、ビジネス、農業に多くの活力を与える。モンタナと全米により多くの仕事を増やす。
 TPPはハイスタンダードでなければならない、日本はこの基準を満たさなければならない。日本は、米国産牛肉輸入の拡大を受け入れることによって、その意志を示した。我々は、アメリカの企業、牧場主、農民、労働者にとって、TPPの仕事を確実にするため、政府と密接に前進し、仕事をする高い基準を設定した。


下院歳入委員会
http://waysandmeans.house.gov/news/documentsingle.aspx?DocumentID=328612

キャンプ委員長
 私は、TPP合意に関して政府との集中的な協議を続けるつもりだ。肝心な点は、アメリカへの輸出に対する長年の関税と非関税障壁に関して日本が対応しなければならないこと。 特に自動車、保険と農業に関して。日本のTPP交渉参加が、これらのTPP交渉の包括的で野心的な特質も減らさない、今年交渉を終わるゴールも遅らせないという完璧な保証がない限り、日本の参加を支持しない。


Nunes貿易小委員長
 日本の参加は、米国の企業、労働者、農民、牧場主に大きな利益になる。ただし、日本は、米国の輸出、特に農業分野に対する障壁に対し対応が必要。私は、このプロセス継続をUSTRと密接に行う。日本は、交渉を遅らせることなく、TPPの野心的で包括的な義務を果たす用意ができていなければならない。


下院歳入委員会民主党トップ(副委員長相当)のレヴィン議員の声明
http://levin.house.gov/press-release/us-announcement-japan-and-tpp
 自動車の貿易障壁を外せ、米国への輸入関税の維持、通貨介入に反対と主張。最後に、90日ルールの審議で、これらの問題の追求を行うと声明。


USTR声明
http://www.ustr.gov/about-us/press-office/press-releases/2013/april/amb-marantis-japan-tpp
 日本の参加は、現在の交渉国の総意で決められる。
合意内容
http://www.ustr.gov/sites/default/files/04132013%20Japan%20OVERVIEW%20factsheet%20FINAL_1.pdf


「4月12日政府記者会見」
 日本政府は、どこまで譲歩したか、12日の記者会見、特に正木靖外務省経済局参事官、宗像直子経産省通商機構部長の回答は、信じがたい。


 甘利大臣は、交渉参加問題について「日本は条約を結ぶのは政府の専権事項、米国は政府から議会に事前通知して90日ルールで承認をもらう」と、頼りない説明をしていた。合衆国憲法における通商交渉権限とTPA問題について、ご存じないのか、ご存じならばごまかしているような回答だった。

 この記者会見の後、正木参事官、宗像部長との質疑のビデオ。
日米二国間交渉とTPP交渉は、それぞれ別でもあるし、同一でもあるような回答を正木参事官が繰り返し行っていた。記者の質問も90日ルールに入る時期は何時か、条件は何かと聞いていたが、回答は曖昧。TPA(貿易促進権限)を質問した記者はいない。正木参事官、宗像部長の回答も、明確ではなかったが、本当のことが言えないという微妙なニュアンスが伝わってくる。
IWJの動画
http://www.ustream.tv/recorded/31335619#/recorded/31335619