3月15日18時の記者会見で、安倍総理がTPP参加を表明した。(動画)
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0315kaiken.html
 この会見の模様は、多くのマスコミが報道しているので割愛するが、私が注目したのは、2人目の東京・中日新聞の古田記者の質問に答えた下記の回答。
抄録1
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130315/plc13031519050013-n1.htm
抄録2
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130315/plc13031519070014-n1.htm
抄録3
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130315/plc13031519150015-n1.htm
抄録4
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130315/plc13031519160016-n1.htm
抄録5
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130315/plc13031519220017-n1.htm

(産経抄録4)
(古田記者)首相はいま国民に対して交渉過程については丁寧に情報提供していくと約束すると述べたが、今後の交渉過程や交渉参加にかかわることについてどのように公表するのか。例えば会見をするとか、定期的に報告を政府として出すとか、どのような形で公表するのか。首相はすでに参加を決めて交渉に入っている国が合意したことはひっくり返せないことが厳然たる事実であることを認めるといったが、こちらが聞いている限りではカナダ、メキシコが交渉参加を決める際には交渉を打ち切る権利は最初の9カ国しか認められない条件を受け入れさせられた。総理は不利な条件に関しては参加することを重視して受け入れざるを得ないと考えているのか。政府としてどのような対応をするか


(安倍総理) 「まずですね、TPPに関する情報提供については、先の訪米において首脳会談後に日米共同声明を発出して、内外記者会見で説明するなどわれわれはできる限りの説明を行ってきました。また与党の関係会合などでTPPに対する安倍政権の基本的な考え方や交渉の進捗(しんちょく)状況について随時、説明をしております。交渉でありますから相手国との関係で公表できることと、できないことがありますが、交渉に参加すれば今よりもだいぶ情報が入手しやすくなると考えています。公開できることは進捗の状況に応じてしっかりと国民の皆様に提供したいと、このように考えています」


 「交渉について、今までの、すでに参加をしている国が決めたルールについて、これを後から入ってきて、すでに決まっていることは、これを蒸し返すことは難しいということは十分に承知の上でありますが、ただ、いままでまだ、例えば、関税などについてはほとんど議論がされていないわけでありまして、これから決めることもたくさんむしろあるといっていいと思いますね。むしろここでですね、ここで交渉に参加しないことはTPPそのものを事実上あきらめなければならない。交渉に全く参加できないのですから。まったく日本はルール作りには参加できないということになってしまっては、そうなってはTPPは参加は国益にかなわないと、よりそういう状況になっていき、その先にRCEP(東アジア包括的経済連携)、FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)という、TPPで決めたことを核に新しい体制ができていく、すべて手放さなくてはならないというところにきているということを認識をしなければならないと思います」


 「その上で報道にてメキシコとカナダに送付されたとされているような念書については、わが国は受け取ってはいません。ですから、それがどうなのかという仮定の質問にはお答えすることはできませんが、可能な限り、早期に正式に交渉に参加をして強い交渉力を持ってわれわれは国益を守っていきたい。こう考えていますし、なんといっても世界第3位の経済力を持つ日本です。その存在感は大きなものがあるはずでありますから、われわれはこの力をフルに活用していきたいと考えています」


 総理は、声明のなかで次のように、ルール作りに参加する機会が今を逃しては手遅れだ、だから参加するのだと、強調している。ルール作りに遅れたら参加しないという理屈も立つ。それが、古田記者への回答だと理解する。


(産経抄録2)
「今がラストチャンスです。この機会を逃すということはすなわち、日本が世界のルールづくりから取り残されることに他なりません。」
「すでに合意されたルールがあれば、遅れて参加した日本がそれをひっくり返すことが難しいのは厳然たる事実です。残されている時間は決して長くありません。だからこそ1日も早く交渉に参加しなければならないと私は考えました。」


 安倍総理のTPP参加表明を、外国特にP11の国々の状況と重ね合わせて見てみよう。


「米国」
 オバマ政権の最優先課題は、議会からTPAを獲得することだが、下記のように通商交渉を推進し、議会へのロビー活動を行える体制ではない。

1.商務省、USTRなどのトップ人事不透明
 米国の閣僚、大使クラスは、大統領が人選・指名し、上院各委員会の公聴会で喚問し、採決で承認する。まだ、ホワイトハウスは経済・貿易チームの人事を最終的につめている状況で、指名から承認まで約2週間以上かかる。従って、2月28日で退職する予定だったカーク代表は、2週間退職を延期し、3月14日マランティス次席代表を代表代行とし、退職した。
http://www.worldtimes.co.jp/news/bus/kiji/2013-03-13T030144Z_1_TYE92C01M_RTROPTT_0_TK8307434-OBAMA-NOMINATIONS-TRADE.html
http://jp.reuters.com/article/jpUSpolitics/idJPTYE92E02B20130315


 上記記事にもあるように、カークUSTR代表の後任には、ホッチバーグ総裁を含め、行政管理予算局(OMB)のジェフリー・ジエンツ副局長、マイケル・フロマン国際経済担当大統領首席顧問、フランシスコ・サンチェス商務次官、ラエル・ブレイナード財務次官が取り沙汰されている。
前のブログ(TPP米国の事情(2/3)でもこの人事の予測記事を紹介したが、次のホワイトハウスの「大統領輸出評議会」議事録に、大統領がマイケル・フロマンの欧州とのFTA交渉開始にこぎつけた労をねぎらっている。この評議会には、米国の企業のトップや上院議員も参加している。


時事通信
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201303%2F2013031300024&rel=j&g=int
ホワイトハウス発表(3月12日)
http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2013/03/12/remarks-president-meeting-presidents-export-council

What I think has changed is the recognition throughout Europe that it is hard for them to figure out a recipe for growth at this point, in part because of the austerity measures that have been put in place throughout the eurozone, in the absence of a more aggressive trade component. So I think they are hungrier for a deal than they have been in the past.

I think, thanks to the work of good people like Mike Froman, we’ve been able to narrow some of the differences. We’ve identified on the regulatory side, customs side, areas where we can synchronize without hurting either side, but simply lubricating more effective trade between the two countries.


フロマン氏の記事
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20130312/plt1303120710001-n1.htm

USTRの次席以下は、誰が代表になるか気にして士気が上がらないと思うが、日本に対する圧力も米国政府内の考え方の異なるそれぞれの勢力の影響の違いでもある。


2.米議会の動向
 下院歳入委員会、民主党代表のレヴィン議員ら34名の下院議員、上院財政委員会メンバー5名を含む上院議員8名の連名で、「TPPに日本を参加させることについて懸念を示す」書簡を大統領に送付。特に上院財政委員会は、通商交渉の権限、閣僚・大使の人事権を持っているので動向を注視すべきだ。

「The United States and Japan are, and will remain, close and important allies. A flawed, one-way trade agreement that benefits Japan at the expense of the United States businesses and workers will not help strengthen this vital relationship.
米国と日本は密接で重要な同盟国である。 米国企業と労働者の犠牲により日本の利益になる、欠陥のある一方的な貿易協定は、この不可欠な関係を強化することにはならない。」

http://levin.house.gov/press-release/bicameral-group-members-raises-alarm-japan’s-possible-interest-joining-tpp

ロイター報道(日本語版)
http://jp.reuters.com/article/jpUSpolitics/idJPTJE92D01H20130314


3.上院財政委員会公聴会
 3月19日に上院財政委員会公聴会「大統領貿易政策」が開催される。通常USTR代表が喚問されるが、カーク代表は退任したので、マランティス代表代行が対応するはず。この公聴会は、今後のTPP、EU-US-FTAの進め方、TPA獲得の戦略、日本のTPP参加問題などが議論になると考えられ、注目すべき公聴会である。
http://www.finance.senate.gov/hearings/hearing/?id=bf63ffa8-5056-a032-5283-bd347de7362c


「シンガポールTPP16ラウンド」



3月4日から13日までシンガポールでTPP-P11の交渉が行われた。

USTRからシンガポール16ラウンドの報告が発表された。
http://www.ustr.gov/about-us/press-office/press-releases/2013/march/tpp-negotiations-higher-gear
(抜粋)
U.S. Chief Negotiator and Assistant U.S. Trade Representative Barbara Weisel reports that building on the consensus the TPP countries have already achieved on a significant number of the issues under negotiation, during this round the 11 delegations intensified their drive to find mutually-acceptable paths forward on the remaining issues in the legal texts of the agreement.
 TPP交渉国が既に達成した交渉で多くの問題のコンセンサスを作り上げ、このラウンドの間、11の交渉団は、協定の法的テキストにおける残った問題において、相互に許容できる経路を見つけるために、前向きに推進した。


As a result of active intersessional engagement, and the pragmatism and flexibility shown by all countries during this round, the delegations succeeded in finding solutions to many issues in a wide range of areas such as customs, telecommunications, investment, services, technical barriers to trade, sanitary and phytosanitary measures, intellectual property, regulatory coherence, development, and other issues.
 代表団は、関税、通信、投資、サービス、TBT(技術的障害)、衛生植物検疫措置、知的財産権、規制制度の調和、開発、その他の広い範囲の多くの問題の解決法を捜し出すことに成功した。


With this progress, some negotiating groups, including customs, telecommunications, regulatory coherence, and development will not meet again to discuss the legal texts in future rounds and any remaining work in these areas will be taken up in late-stage rounds as the agreement is finalized.
 この進展で、関税、通信、規制制度の調和、そして開発を含むいくつかの交渉グループは、法的テキストについての議論を次のラウンドで再開しない、そして、この領域の残った仕事は、合意が終結する最終段階で再開される。

(終わったルールメイキングの議論は再び行わない。ということだと理解する。)

This will allow the TPP countries to concentrate their efforts on resolving the most challenging issues that remain, including related to intellectual property, competition, and environment.
 知財、競争、環境に関連する残った問題を解決することに集中する。

regulatory coherence;規制制度の調和(科学に依拠し、国際的に基準と認識されるルール;例、牛BSEの基準)
(以上USTR報告)


シンガポール通産省のTPP16ラウンド交渉終了後の公式発表

(USTRの報告と一致、むしろこちらの方が簡潔で分かり易い。ほぼ終了した分野については、協定最終段階で調整が残る程度。)
http://www.mti.gov.sg/NewsRoom/Documents/MTI%20Press%20Release_End%20of%20TPP%20Round%2016%20in%20Singapore.pdf

1.P11交渉国から600人以上の代表が衛生植物検疫措置参加し10日間の集中的交渉が終わった。
2.関税、通信、規制制度の調和、開発のワーキンググループ(WG)で進展が見られ、これらの残った仕事は最終合意の時に再開する。サービス、電子商取引、衛生植物検疫措置、TBT(技術障害)、政府調達について本格的に交渉を続ける。
3.非公式のWGで交渉したことが進展を助けた。
4.交渉国は、知財、管球、競争、労働の挑戦的領域が残ることを認める。投資と政府調達において、交渉者は、野心的で包括的な市場参入パッケージを開発する努力を続けた。それは、TPP交渉国の利益になる地域貿易協定として新しい機会とTPPの可能性を最大にする。
5.民間部門、市民団体、労働グループ、学会から300人の地元および国際的なステークホルダーから聴取することができた。
6.17ラウンド交渉は、5月15日から24日の間、ペルーで開催される。TPP交渉国の大臣は、4月20日21日のAPEC貿易担当大臣会合にあわせて会合を持つ予定。


シンガポールTPP16ラウンド記者会見の報道(ANN→ニコ動)

カナダのヒルマン交渉官は「交渉を遅らせない、蒸し返さないということは、ここにいる他の参加国と合意している」と述べた。岸田外相も米国から提示されていたことを明らかにしている。 議長役を務めたシンガポールのウン・ビーキム首席交渉官は「(5月にペルーで開催される)次の会合に日本の参加を想定していない。日本は交渉参加前に参加国と個別協議を行う必要がある。」と述べた。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm20328567


(参考)
NGOの一員として参加された「内田聖子氏」の報告
IWJ岩上氏がインタビュー
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/67229
山崎まや前衆院議員のまとめ
http://maya-net.jp/blog/3016.html


「まとめ」
 3月7日、東京新聞が報じた「カナダ、メキシコの参加条件」は、シンガポール16ラウンド終了時(3月13日)の記者会見でカナダ交渉官が事実であることを証言した。安倍総理も15日記者会見で「すでに決まっていることは、これを蒸し返すことは難しいということは十分に承知の上であります」と認めた。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2013030702000237.html

 3月8日の衆院予算委員会で笠井議員の質問において話題になった「民主党政権の平成24年3月1日に発表した下記資料」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/pdfs/tpp01_13.pdf
新規交渉参加国に求める共通の条件
・包括的で質の高い協定への約束
・合意済みの部分をそのまま受け入れ,議論を蒸し返さないこと
・交渉の進展を遅らせないこと
ただし「交渉参加の条件として9カ国で合意したものではない」「そうした事態(議論を蒸し返すこと)は避けたいが,重大な判断を要する事項はこれまで合意されていない」と岸田外相が読み上げた。


 3月11日、衆院予算委員会で、民主党前原議員が民主党政権時代の事前交渉内容を暴露した。安倍総理からは「守秘義務」があるとたしらめられた。しかし国益の問題が重要と突っぱねた。その暴露の内容。(下記衆院TV、3時間15分30秒から)
http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=42476&media_type=fp

 前原議員「我々が最後まで交渉参加表明をできなかったのはなぜかというと、我々与党だったからよくわかっていた。米国の要求、事前協議の中身が余りにも不公平ということだった。トラック、車については関税を直ぐにはゼロにしない猶予期間を設けるべきだというだった。安全基準については米韓FTAと同じように枠を設けるべきだということだった。保険については、始めはがん保険等の保険だけだと思ったら学資保険の中身を変えることについても色々と言い出した。つまり、中身について事前交渉でこれをとにかく武装解除しなければ米国議会に通告しないと。しかしこういう中身について我々は不公平であると、本来であれば、自動車の関税の猶予なんてことは本交渉でやる話であって、我々は農産物と相対して妥協しなかった。これ、妥協してまさか交渉参加表明するなんてことはないですよね。我々は交渉参加表明したいと模索したが、この条件ではあまりにも日本に不公平だということで我々は非対称的だということで交渉参加表明をしなかった。」

 安倍総理「前原さんも民主党も政府として交渉に当たってきた。米国との交渉においては、中身においては皆さんに守秘義務が課されているはずです。交渉中のことをいちいち外に出せば交渉にならない。今回の共同声明において、米国側に自動車についてセンシティビティがあると認め、日本の農業ついても認めさせた。」


 15日の記者会見で、安倍総理は事前交渉については触れていない。国内および米国議会への配慮と考えられるが、牛肉、自動車、保険の問題は、米議会が譲れない問題だとして声明を出している。国内向けにがんばると言えば、米議会が日本の参加を認めないし、米議会に迎合すれば、それこそ参院選で自民党が支持を失う。
 それよりも、オバマ大統領がTPAを獲得できるかが最重要課題で、失敗すれば、米国の通商交渉が全く信用を失う。TPAは、民主党議員の考えによる。今回の自動車産業に配慮し、日本の参加を牽制している42名の民主党議員は、米自動車産業の保護者である。オバマ大統領の輸出増大で雇用創出には賛成するが、その逆は反対なのだ。今後、FTA、TPPがオフショアを推進するという事実が理解できていけば、自由貿易主義は追いやられて行くだろう。オバマ大統領がTPAを獲得するのは、非常に困難だ。3月19日の上院財政委員会公聴会を見れば、ある程度の予測ができるだろう。


(これを書いていたら、21時から安倍総理が出演するNHKの報道を見逃してしまった。明日収録動画を探してみよう。)