2月22日、日米首脳会談で「TPPに関する共同声明」が発表された。
 この解釈を巡り、安倍総理は「TPP参加」をまもなく発表するだろうというマスコミの情報工作記事、自民党の「即時撤回を求める会」240名を中心とするTPP参加反対派の活動が活発になった。これらの議論は、一方的に日本事情で判断されていて、マスコミも政治家も「米国の政治システムと現況」に関心を寄せていない。以下、米国内の動きを紹介する。


オバマ政権(USTR)は、TPP交渉権を持っていない。

「大統領貿易促進権限(TPA);ファスト・トラック法」
 合衆国憲法立法部第8条第3項に「通商交渉の規則を決める権限が議会にあることが示されている。この第8条全体を見ても、議会が圧倒的な権限を持っていることが理解できるだろう。執行部(大統領府)の大統領の権限は、軍の最高指揮官と行政の指揮、通商協定を除く条約締結、立法における拒否権程度である。
http://aboutusa.japan.usembassy.gov/j/jusaj-constitution.html

 (安倍総理は米国とTPPについて話し合うとすれば、権限を持つ上院財政委員会(ボーカス委員長)と下院歳入委員会(キャンプ委員長)に、天然ガス(シェールガス)の輸出許可は上院エネルギー・天然資源委員会(ワイデン委員長)に会わなければならない。)


 米国は、通商交渉の権限が議会にあり、50年前までは、議会が通商交渉を行っていた。50年前、その窓口業務を通商代表部(USTR)に任せた。USTRは議会の指示で個々の協定交渉の窓口として活動していたが、FTA(自由貿易協定)のように広範囲の分野を交渉する場合、個々の案件を議会にはかるということが不可能に近い。そのため、大統領府(USTR)に、条件付きで交渉の権限を移譲する方法が考えられた。それが、TPA(Trade Promotion Authority)である。クリントン政権の北米自由貿易協定(NAFTA)より、ブッシュ政権の16ヶ国とのFTA交渉は、TPA法の下で実施、締結された。2007年7月1日に失効し、オバマ政権はTPAを付与されていない。


桜美林大滝井教授と外務省のTPA解説はこれまで何度も(最近では下記)紹介しているので、他の解説を紹介する。
http://ameblo.jp/study-houkoku/entry-11462324547.html

JETRO法律翻訳(PDFファイル)
http://www.jetro.go.jp/world/n_america/reports/05000596
青木文鷹氏の解説(概要)
http://togetter.com/li/208440
小野寺議員(現防衛大臣)の2011年10月30日「新報道2001」での指摘
動画が消去されているので文字起こしサイト紹介
http://blog.goo.ne.jp/moja_gd/e/7bbe0f6e68fe46ff9d25b0f2fdfc571c
2011年12月の石原幹事長代表訪米団の森山議員報告(7頁)に、小野寺議員がマランティス次席代表にTPAを確認
http://www.moriyama-hiroshi.jp/sample/media/2/1324622979.pdf


米国内の政治的状況

「米議会調査局(CRS)報告書」
このTPAを付与されていないUSTRの活動を、米議会調査局(CRS)が1月24日の報告書で指摘した。
この報告書は、下記の項目について概説している。(全60頁)
1.TPP交渉の現状、交渉国の状況
2.市場アクセス(商品、サービス、農産物)
3.規則(知的財産権、原産地証明、技術障壁、医薬品サービスの透明性、外資投資、競争原理、救済措置、労働、環境)
4.水平-横断的問題(規制の整合性、国有企業、競争力とサプライチェーン、中小企業)
5.組織的問題(事務局、仲裁機関、Living Agreement、日本、ヌードルボール)
6.議会への対応(包括的高基準の合意交渉、TPA問題、制度問題、多国間システムの関係、貿易政策への影響)
http://www.fas.org/sgp/crs/row/R42694.pdf

日本について
自動車、保険(郵政)、農業などの開放をしなければ、関連する米業界や議員が日本をTPPに参加させてはならないと述べている。安倍総理がTPP参加をいえば、自民党が分裂し、7月の参議院選は敗北するだろう。


TPA問題について
議会が承認したTPAの元で通商交渉を行わなければならないが、2007年7月1日にTPAが失効した後、カークUSTR代表は議会に2009年12月14日(交渉を開始することより前の90日)にTPP国との交渉を始めるという政府の意向を正式に通知した。あたかもTPAが有効であるように振る舞っている。政府が一部の議員や議会スタッフと相談しているとしても、TPAは正式に承認された訳ではない。政府と議会がTPA更新にどう取り組むのか不明である。
Living Agreementのルールのもとで、新しいTPP参加国を迎え入れる場合、議会の対応が問題になる。


「CRS報告書の解説」
廣宮孝信氏のブログ
http://grandpalais1975.blog104.fc2.com/blog-entry-577.html
 TPP参加推進は自民の参院選敗北、自民分裂を招くだろう。オバマ政権はTPAを持たされていない。交渉各国はちゃぶ台をひっくり返される可能性あり。関税ルールは「Noodle Bowl ヌードル・ボウル」状態でしっちゃかめっちゃか。ISDは米国の主権を侵す。資金移動の規制緩和は金融危機の増幅の恐れ。
結論:much of its substance and its future remains undecided. その実体とその将来の多くは未決のままである。achieving such an agreement may be difficult. このような協定の達成は困難かもしれない。
http://grandpalais1975.blog104.fc2.com/blog-entry-578.html


WNDのJerome Corsi氏投稿
http://www.wnd.com/2013/02/obama-skirting-congress-in-globalist-plan/
 TPPから大西洋FTAに拡大するという一般教書の発表は、議会の浮動票に制限を加える計画である。それは、貿易促進権限(TPA)を議会に要求する圧力である。TPA(ファストトラック法)の目的は、調印まで交渉期間中に議会の影響を受けないことを交渉国に保証すること。
 USTRはTPAがあるように振る舞っているが、1月24日のCRS報告は、USTRに正式な交渉権限がないことを指摘。議会は、新しい交渉メンバーが追加されるとき、交渉妥結前に介入するかも知れない。これまで、オバマ政権は、正式な議会承認を得ていない。
 TPP条約案のリークによれば、第15章の投資仲裁について、米国の主権を侵すものであることを示している。それによれば、仲裁機関が米国法に基づいて決定を下すことにはなっていない。


「オバマ大統領一般教書演説」2月12日(下記投稿参照)
http://ameblo.jp/study-houkoku/entry-11470754549.html


「安倍総理訪米、共同声明」2月22日
外務省HP、日米首脳会談(概要)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_abe2/vti_1302/us.html
 この頁の下の「日米共同声明」が正式な文章である。これをどう解釈するかで、マスコミや反対派の多い自民党議員の対応が分かれる。
 三つのセンテンスの最初は、「TPPに参加する場合には、・・・2011年11月12日のアウトラインを認める」、仮定の話(場合)なのだから参加することを表明したわけではない。
 二つ目は、「聖域なきという前提で交渉するのではなく、交渉の中でセンシティブな分野を交渉国それぞれが追求する。米国にも自動車という製品がある」。
 三つ目は、「日米間で事前交渉を行う。自動車、保険などの米国要求について協議を進める。」ことである。すなわち昨年11月となんら変わっていないことと「聖域なき・・・」条件で交渉を始めないことを確認した。


「日米の共同声明」
 両政府は,日本が環太平洋パートナーシップ(TPP)交渉に参加する場合には、全ての物品が交渉の対象とされること,及び,日本が他の交渉参加国とともに,2011年11月12日にTPP首脳によって表明された「TPPの輪郭(アウトライン)」において示された包括的で高い水準の協定を達成していくことになることを確認する。

 

 日本には一定の農産品,米国には一定の工業製品というように,両国ともに二国間貿易上のセンシティビティが存在することを認識しつつ,両政府は,最終的な結果は交渉の中で決まっていくものであることから,TPP交渉参加に際し,一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではないことを確認する。


 両政府は,TPP参加への日本のあり得べき関心についての二国間協議を継続する。これらの協議は進展を見せているが,自動車部門や保険部門に関する残された懸案事項に対処し,その他の非関税措置に対処し,及びTPPの高い水準を満たすことについて作業を完了することを含め,なされるべき更なる作業が残されている。


「ロイター記事」(2月22日)
サンダー ・レヴィン下院議員(歳入委員会、民主党委員のトップ)が、日本の農業と自動車市場を開放しない限り、いかなる協定も議会を通さないと警告。
http://www.reuters.com/article/2013/02/22/us-usa-japan-abe-trade-idUSBRE91L1A920130222
Ranking memberとは、多数派(共和党)が委員長、少数派の民主党のトップのこと(日本では副委員長に相当)。
http://democrats.waysandmeans.house.gov/about/chair
レヴィン議員の声明文
http://democrats.waysandmeans.house.gov/press-release/levin-statement-joint-us-japan-tpp-statement


「USTRの2013年年次報告」3月1日
http://www.ustr.gov/about-us/press-office/reports-and-publications/2013/2013-tpa-2012-ar
この ChapterⅠ The President’s 2013 Trade Policy Agenda の1頁に次のように、TPAを獲得する方針を表明している。
To facilitate the conclusion, approval, and implementation of market-opening negotiating efforts, we will also work with Congress on Trade Promotion

Authority. Such authority will guide current and future negotiations, and will thus support a jobs-focused trade agenda moving forward.


これを報道したのが、3月1日ロイター
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE92006120130301