米国では、食中毒で、年間48百万人が病気にかかり、12万8千人が病院で手当てを受け、3千人が亡くなっている。これを防ぐため法を制定した。
 原則として全ての食品は食品医薬品局(FDA)の認証を受けた食品関連施設を経由しなければならない。さらに食品の検査、認可食品の登録がなされる。この手続きを行っていない食品は流通できないという法律である。
 この法律の問題点は、家族経営農業や有機栽培などの小規模事業者の事業が成り立たなくなり、農業の大企業への集中につながり、多くの離職者の発生が予想されること。米国内だけでなく、輸入相手国に対して食品の認証を通して支配力を持つことになる。米国に輸出しなければよいと言うわけではなく、このような法律の適用を外国に求める可能性がある。TPP交渉においては警戒すべき事項になる。

 その概要と問題点について紹介する。
紹介ブログ; http://ameblo.jp/komipati/day-20111208.html
このブログは、2010年11月の上院採決より前の米国の方々の意見が紹介されている。上院S510法案という記載があるが、下記FDAのHPのFull textを参照されたい。

 Food Safty Modernization Act(FSMA) は、下院HR2749(2009年7月可決)、上院S510(2010年11月可決)、オバマ大統領署名(2011年1月4日)の手続きを踏み成立、現在食品医療品局(FDA)が詳細規定を策定中、2012年7月4日から施行予定
ジェトロ解説 http://www.jetro.go.jp/world/n_america/us/reports/07000726
農畜産業振興機構解説 http://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_000289.html
 ジェトロは輸出(米国側の輸入)に重点を置いている。次の高橋元国連食糧農業機関日本事務所長の要約は全体を網羅している。
http://www.ab.auone-net.jp/~ttt/USAlaw2011.html
 
 食品医療品局(FDA)のHPを紹介するが、膨大な法律の英文で読み解くのが困難である。上記の解説などは概要なので、詳細を理解したい場合は、FDAのHPの該当する箇所(特にFull text)を読んでいただければ明らかになる。
FDA資料 http://www.fda.gov/Food/FoodSafety/FSMA/
  概要 Food Safety Modernization Act: Focus on Prevention Presentation (PPT, 9.5MB)
  条文(Full text) http://www.fda.gov/Food/FoodSafety/FSMA/ucm247548.htm

「目的」
既知あるいは合理的に予見可能な危害(生物学的、化学的、物理的および放射線の危害、自然界の毒、殺虫剤、薬物残留、腐敗、寄生虫、アレルゲン、および未承認食品・色素添加物)、自然発生ないし意図せずにもたらされる危害、そして意図的にもたらされる危害に対し、最小限に抑えられ、予防されること、そして食品が意図的に汚染され、不正表示されないことを保証するための予防管理措置(重要管理点があれば、そこにおける予防管理を含む)を確認・実施することを目的として法律を制定している。
 食中毒やアレルギーだけではなく「意図的に汚染(バイオテロ)」も含まれる。(2002年ブッシュ政権時のバイオテロ法施行をさらに強化)
バイオテロ法解説
ジェトロ解説 http://www.jetro.go.jp/world/n_america/us/bioterrorism/
外務省解説 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/keizai/bio_erro.html

「手段」
全ての食品関連施設のFDAへの登録(102条)とHACCP手法の義務づけ(103条)、輸入業者に対する安全検証の義務づけ(301~303条)など。
HACCP解説
厚労省 http://www.mhlw.go.jp/topics/haccp/
農水省 http://www.maff.go.jp/j/shokusan/sanki/haccp/h_about/index.html
日本食品衛生協会
http://www.n-shokuei.jp/food_safety_information_shokuei2/food_hygienic/haccp/index.html

「食品」
(1)FDAの定義の「食品」は下記であり、認証後登録される。
 ① 果実、野菜、魚類、乳製品、殻付き卵
 ② 食品もしくはその構成物として使用される未加工の農産品
 ③ (ペットフードも含めた)動物飼料食品および飼料の成分
 ④ 食品および飼料の添加物
 ⑤ 栄養補助食品・栄養成分
 ⑥ 乳児用ミルク
 ⑦ (アルコール飲料やボトル詰め飲料水も含めた)飲料品
 ⑧ 生きている食用動物
 ⑨ パン・菓子類、スナック食品、砂糖菓子、チューインガム
 ⑩ 缶詰食品
 ⑪ 食品医薬品化粧品法第409条(h)(6)で定義されている食品接触物質(例えば、食品包装)

バイオテロ法の登録が必要となる「食品」は、上記(1)の「食品」から食品接触物質(food contact substances)である。農薬が除外されている。

(2)USDA管轄食品
 農務省(USDA)の排他的管轄にある食肉、家きん肉、卵製品(液卵、乾燥卵など)はFDAの「食品」の定義から除外されている。USDAは1998年より食肉処理工場などの施設にHACCPを義務化した。
USDA管轄の農産物の扱いについて現行法の運用で行うとしているが、農務省との調整が行われる。(108条、109条、403条)

注;403条の食品関連法(FDAとUSDAなどの管轄定義)
 農業マーケティング法1946(7 USC1621頁)、連邦食品医薬品化粧品法(21 USC301頁)、公衆衛生サービス法(42 USC301頁)、連邦食肉検査法(21 USC601頁)、家禽製品検査法(21 USC451頁)、卵製品検査法(21 USC1031頁)米国穀物基準法(7 USC71頁)、パッカーズとストックヤード法(1921 7 USC 181頁)、米国倉庫法(7 USC241頁)、農業マーケティング1946(7 USC1621頁)、農業調整法(7 USC601頁)など

(3)FSMA例外規定
 多額の投資が必要な「食品関連施設」を持てない小規模業者(小農家や個人経営業者)が流通経路を絶たれるため、法案審議中に多くの抗議があり救済のため修正条項を加えた。
 275マイル以内の消費者に直接食品を販売し、過去3年間年間の売上げが50万ドル以下の小規模農家や加工業者は、同法の適用除外となり、食品安全に係る監督権限は州などの地方自治体となる。なお、これら業者が食中毒を起こした場合は、同法の除外規定は適用されないこととなる。FDAに、再検査料、リコール費用、輸入業者の登録料などを徴収する権限が付与される。

「懸念」
1.FSMAの適用で、個人が自由に食料を生産できるのか。(米国の方々の懸念)

2.自家採種の種を使用できないのか、政府機関での検査・認証が必要なのか。
 FSMAのFull textに「穀物」「種」の言葉がない。あるのは403条の法律名だけ。
 種子の独占につながるおそれがある。

3.食するため未登録の食品を保有していたらどのような罰をうけるのか
 バイオテロ法の外務省説明HPには非商用ならば米国に持ち込めると書いているが、今回のFSMAの適用はどうなるのか。

4.275マイル以内、売上50万ドル以下の農家が一旦事故を起こしたら廃業せざるを得ないのか
  事故(食中毒など)が発生すれば多額の処理費用がかかる。加えて「食品関連施設」や再検査に費用がかかる。

5.結論的には、この法律は大企業の寡占化を助長し、多くの小規模事業者を廃業させ貧困に追いやることにならないだろうか。
 
1998年HACCP義務化では、中小の食肉処理業者が淘汰され畜産農家の価格交渉力が落ちたとする事例が伝えられている。

6,FDAの計画によれば、輸入相手国に事務所を開き、啓蒙や認定の窓口になるようだ。
 これらの活動は米国の法律を教えるだけではなく、その国にも実行を迫る場面がでてくる。FTAやTPP等の多国間貿易協定においてこの法の網をかぶせてこないか。

 FBIの報告によれば、2008年の銃による死亡者は約3万人、うち自殺が半数、殺人が1万人弱である。これらの死者を減らすための銃規制はなかなか進まない。3千人を助けるために、国家管理を強化し認定や監視の役人を増やし、十数億ドルの追加予算を請求するFSMAの費用対効果に疑問が残る。

今年7月4日施行後、具体的な事例が明確になるだろう。