ここ数日、ソフトバンクの孫社長が、「自然エネルギー協議会」の設立と「電田プロジェクト」の促進を訴えている。
http://news.livedoor.com/article/detail/5514784/?p=1
http://minnade-ganbaro.jp/res/presentation/2011/0422.pdf
http://minnade-ganbaro.jp/res/presentation/2011/0523_sangiin.pdf

資料の検証をしてみよう。
「電田プロジェクト」は、耕作放棄地(34万ha)と休耕田(20万ha)の20%の農地に太陽光発電パネル50GW(5000万kW)を設置する計画。
この場合の発電能力は、0.5GW/ha = 500kW/10,000m2 = 0.05kW/m2である。関東以西の太平洋側では、平均3時間 x 365日=1,095時間であるから年間発電量は、54.75kWh/m2となる。
全量買取として、単価40円/kWhの場合は、年2,190円/m2の収入になる。

一方農地として利用した場合の年間収入は、経済産業研究所、山下一仁上席研究員の下記レポートより
農地を貸す場合の地代;10アール当たり平均1万4000円 = 14円/m2
作付け+戸別所得補償;10アール当たり4万1000円 = 41円/m2
http://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/yamashita/64.html
http://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/yamashita/71.html

太陽光発電の売電単価40円/kWh、20年単純償却を試算してみよう。
1kWの発電機は、40円/kWh x 1kW x 1095h x 20y =876,000円稼ぐ。
初期投資は、パネル、コントローラ、設置費など合計500,000~600,000円/kW程度。
土地代は、産業用地として、10,000円/m2とすれば、1kWの発電エリアは20m2であるから、200,000円となる。
この他、維持費(保守、修理)が必要なので、利益が見込めない。盗難、落雷、台風などの被害を考えたら前向きな気持ちになれない。

産業用土地価格
http://www.smrj.go.jp/sy-navi/
路線価
http://www.rosenka.nta.go.jp/

孫社長の狙いは、この土地代を農地貸借料で払おうとする意図であろう。14円/m2 x 20m2/kW x 20年 =5,600円/kWで済むからである。日本では、電力買取金額40円/kWhとしても、土地を購入して太陽光発電事業を推進することが困難であろう。既に所有している土地内、建物や空き地、遊休地を利用すればよいが、新規購入すると採算性が悪い。

森林を切り開く方法もあるが、立木伐採などの費用もかかる。森林法、自然公園法の法規制も厳しく、簡単ではない。

耕作放棄地と休耕田は、農地法と農業委員会で守られていて、転用が困難である。また、農家としては、所有する農地を転用後、売却することを考えているので、農地の状態で借地にすることは望まないだろう。
耕作放棄地の多くは、他人の耕作地の間に点在し、所有者を捜すだけでも苦労する土地である。農業委員会と他人の同意、所有者との契約を取り付けるまで、かなりの労力が必要である。

孫社長が地方自治体に呼びかけているのは、土地借地契約までの業務を代行してもらうためと考えられる。
就農のため菅原文太氏の北杜市で不在地主と契約するまでの経緯を聞くと、どれだけ困難か理解出来るだろう。
また、周囲の農家が点在する放棄地を集約して大規模農地に改良する場合、太陽光発電が障害になる。

私は、太陽光発電の売電(Feed in tariff ; FIT)に反対であるし、農地転用も反対である。
FITの費用負担は、消費者電力料金に上乗せされ、多くの投資をできない人から、投資をした人に寄付をすることになるからである。富めるものが貧しいものに金を寄付させる行為である。

孫社長は、福島原発事故を契機として自然エネルギーへ目を向けることになり、太陽光発電の電力を電力会社が買い取れと主張している。FITが、他人に迷惑をかけることも、良く考えて欲しい。
多くの資産を持っている方は、他人に迷惑をかけずに、自社あるいは自宅で、発電・消費を完結する自家消費型発電システムを導入すべきだろう。

耕作放棄地については、昨年私のブログで紹介したように、農業の再生、食料自給から輸出への展望があるときに、少ない耕地をさらに減少させることは許し難いことである。前記RIETIの山下研究員のレポートにあるように、今後、米の輸出が大いに期待できるのである。全ての休耕田、耕作放棄地を活用しても不足すると考えられるほどの米の生産が見込まれる。
http://ameblo.jp/study-houkoku/theme6-10019698498.html#main

なお、孫社長の太陽光発電などの再生可能エネルギー、フィードインタリフに関する調査は不十分で、どれだけ社会に歪みをもたらすか、また系統安定化(バックアップなど)について、理解していない。
EU、特にスペイン、ドイツ、チェコなどで起きているFITの破綻について、もう少し突っ込んだ調査をされたい。

電力系統内に多くに自然エネルギーが接続されると天候急変に対するバックアップ(火力、蓄電など)が必要となり、さらに設備費用が増大することも理解されたい。
また、農業事情にも疎く、農地に太陽光発電を設置する計画は、かなりの困難が予想される。