温室効果ガス削減のため、再生可能エネルギーの普及を勧めているが、その助成に問題がある。
 経済原則を無視した政策いわゆるフィードインタリフについて、ドイツの例があるので紹介する。
1991年に制定された「再生可能エネルギー法」は、幾度の改正を経て、2002年には原子力発電所の閉鎖を決め、2004年に次の目標を法律にした。
 総電力に占める再生可能エネルギーの電力の比率を、2010年に12.5%、2020年に20%とする。

 ドイツ環境・自然保護・原子力省の報告によると、2009年の累積設置量は、16.1%を超えた。最近の増加率は、年率1%である。

方谷先生に学ぶのブログ

http://www.bmu.de/files/pdfs/allgemein/application/pdf/ee_in_deutschland_graf_tab_2009_en.pdf

 2013年より早く目標を達成する可能性がある。
 ドイツ政府は、今年1月に、フィードインタリフ(FIT)を4月から16%減額すると発表、太陽光発電(PV)業界が「倒産が続出すると」反発した。
この反対に押されて、実施時期を7月1日とした。このため、駆け込み需要が拡大している。

参考報道
http://seekingalpha.com/instablog/618851-aaron-chew/63377-germany-no-longer-critical-to-growth-in-the-solar-pv-market
http://www.spiegel.de/international/germany/0,1518,690297,00.html

年   セントユーロ/kWh 低減率
2005  54.53       
2006  51.80       5%
2007  49.21       5%
2008  46.75       5%
2009  43.01       8%
2010.7 36.12       16%
2011  30.34       16%

ドイツのPVの導入量は、2007年1,200MW、2008年1,900MW、2009年3,000MWであり、2010年も3,000MWを超える予想である。
2009年におけるPVの発電量は、再生可能エネルギーの6.6%であり、総電力の1.1%に過ぎない。
2008年、2009年の再生可能エネルギーの発電量は、ほぼ変わらないので、2009年も2008年のFIT購入金額90.2億ユーロ(1兆2千億円)と同じとする。
このうち、PVの比率が約40%であるから、総電力の1.1%のPVの電力買取に、36億ユーロ(4800億円)を支払っている。もちろん電力料金に上乗せされているから国民が支払っている。
その上乗せは、2円/kWh相当と言われている。これが2010年6.4円/kWh、2020年8.2円/kWhになると予想されている。
FITの上乗せがなければ、家庭用で18.5セントユーロ(24円)/kWhである。ほぼ日本と同じ。

PVに対する補助金は、ドイツのPV関連業界8万人の雇用と中国・台湾の新規参入組のPV製造会社の急成長を実現した。
中国勢の価格攻勢により、ドイツメーカーのシェアが15%に落としたとの報道もある。
しかも、2006年からドイツの設備メーカが中国・台湾に納入した設備で生産されたPVがドイツに向かった。

スペインは、いち早くFITの問題に気が付き、2008年導入量が2,600MWであったが、2009年1月より、年間導入を500MWを上限とし、FITの大幅減額が予定されている。40%減額との報道もある。
もちろん、ギリシア、ポルトガル、アイルランドと同様の信用不安の問題、失業率20%超の問題などあり、FIT政策の続行すら危ぶまれる。

「5月2日追記」
ブルームバーグ4月30日に、スペインにおいて、電力供給者への債務が160億ユーロ(2兆円)に達したとの情報が掲載されている。

http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601130&sid=aW5YTcDgqGLc

経済産業省の欧州調査報告より

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http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g100128a05j.pdf

2009年のスペインショックでPV業界は、大変な需要減に陥り、PV工場の稼働率半減と価格暴落が続いた。
その結果として世界一位のドイツのQ-Cellsが、2009年の決算で、1000億円の売上、1700億円の赤字という惨憺たる報告を行った。
中国、台湾のメーカも同様である。中国の場合は、地方政府などの支援があるのでQ-Cellsのような発表にはならない。

それでは、あと数年後に目標を達成するドイツでは、どのような「祭りの終わり」を迎えるのであろうか。
PV8万人を含む再生可能エネルギーに従事する30万人の大半が職を失うであろう。
ドイツ以外の国々が、再生可能エネルギー機器をドイツから購入するであろうか。
日本、米国、中国にPVや風力発電のメーカーが数多く存在し、米国、中国に至っては、自国民の雇用を優先する政策を採っている。

日本においては、「地球温暖化防止対策基本法案」の基本計画を経済産業省と環境省が別々にPVに関する案を審議している。
FIT補助政策の経済性や「祭りの終わり方」を十分審議しているのだろうか。

ドイツにおいてもFITは誤りであったと言う報告がなされている。
日本語抄訳
http://www.engy-sqr.com/watashinoiken/iken_htm/feed_in_tarif_ono100328.pdf
ドイツRWI報告書
http://www.instituteforenergyresearch.org/germany/Germany_Study_-_FINAL.pdf

次回、経済産業省の資料「次世代送配電ネットワーク研究会」について。