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生業である映画を中心に酒、プロレスのことなど。

アル中一歩手前の小僧による記憶喪失日記。

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犬童一心監督でなければおそらく見なかったと思う。『メゾン・ド・ヒミコ』に続いての犬童作品2連戦。



長澤まさみ演じる朝倉南と、双子の兄弟和也と達也の青春アイドル映画。

80年代の角川アイドル映画を見ているような感覚に陥る。


秀逸だったのは、和也が挑む地区大会決勝当日の朝に南と達也と3人でするキャッチボール。

原作があまりに有名なため、観客はこの後和也が死んでしまうのをほとんどの人が認識していたはず。

その、観客が持つ勝手な悲壮感の中でのキャッチボール。


「昔、こうやってずっとキャッチボールしてたよな。何が楽しかったんだろう・・・」


そこにいて当たり前の人が、当たり前にいる日常。

キャッチボールは相手の捕りやすいところに捕りやすい球を投げる思いやりの行為。

3人は球ではなくて、それぞれに対する優しさと想いを交差させる。

この後起こる悲劇を知っているだけに切なさが増す。


観客がストーリーを知っていることを逆手にとった演出。

うまいなぁと思った。



あとは、和也の死をみんなが乗り越えていく話。

原作の構造上仕方がないのだが、ここからが少し急ぎ足だったか。。。


原作では和也の死を物語の根底にそっと流しながら、南と達也の行ったり来たりする気持ちの揺れを丹念に描いていたが、流石に2時間前後の映画ではそれは無理だった。



和也の死そのものがあまりにスキャンダラスなために、映画の最大の盛り上がりの置き所が非常に難しい作品だったと思う。

しかし、全体に原作のイメージを残しながら、しっかりとした青春映画に仕上がっていて、犬童監督の演出力に改めて感心。