村上春樹インタビュー(2008年3月) 上 | 苺猿の咆哮

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2008年3月のインタビューを3回に分けて再録します。

2008年3月30日 信濃毎日新聞に掲載

村上春樹インタビュー 物語は世界共通言語
今や世界的人気作家となった村上春樹さん。
次々に新しい物語を生み出す村上さんに「物語の力」について聞いた。

魂の中に降りていく作業

 「今、次の長編を書いています。長いんです。やたら長いの!」
 村上さんは現在執筆中の長編のことから、話し始めた。
「毎日5、6時間も机に向かい、もう1年2ヶ月ぐらい、ずーと書いている」という。
 昨秋、村上さんは『走ることについて語るときに僕の語ること』を出版した。
フルマラソンのランナーとして、トライアスロンの選手としての自身の体験を書いた本だが、
それは「走ること」と「書くこと」の関係を記した本でもある。
 「『羊をめぐる冒険』(1982年)を書き終えて、すぐに走りだしたんです。
これを書いて、長編小説を書くのは大変なことだなあと思った。
運動して、体をしっかりしていないといけないと思ったのが動機ですね」
 ”原稿用紙にたばこのにおいが染みついている”ほどのヘビースモーカーだったが、
そのたばこも同時にやめてしまった。

■ 一に足腰

 「30代と同じ物語を書いていては駄目で、
一作ごとに新しい可能性を広げていかないと物語というのは発展していかないんです。
そのためには何か広げていく力というのが必要。それが走ることなんです。
毎日長い時間座って考え、書くことは大変です。『一に足腰、二に文体』ですよ」
 夜は早く寝て深夜起きて、2時か3時ぐらいから朝まで小説を書き、
そして走るという日々。その村上さんの小説は今、世界で読まれている。
 日本でも出す本がすべてベストセラーになる超人気作家だが、
海外での人気ぶりを分かりやすい目安で示すと、村上さんの年収は海外分が、
既に国内分を上回っている。
「そういう事態になった時は、僕もすごく驚いた。(マネージメントをする)事務所の人たちの
仕事量も今は3分の2は外国とのものです」
 これほどの人気作家は日本文学史上初めてのことだ。
本人は世界的人気の理由をどのように考えているのだろうか。
 「理由ははっきりとはわからないですね。
でも物語の面白さと文体が割とユニバーサルな浸透力を持っていたからではないかと思います」
 「物語」と「文体」についてさらに聞くと。
 「物語は世界の共通言語ですよ。面白い物語は誰でも読む。
例えばディケンズの物語が面白ければ、どこの国の人でも読むんですよ。
僕の文体は日本語の日本語性みたいなものに、あまり寄りかからない文体です。
だから翻訳過程で失われるものが、比較的少ないのではないかと思います。」

■ 同じ世界

 どうして物語は世界共通言語となるのだろう。
 「物語を書いていくことは、自分の魂の中に降りていく作業です。
そこは真っ暗な世界。生とも死とも不確かで混沌としている。
言葉もなければ、善悪の基準もない世界」
 人々が生活する社会では各国で言葉も違う。環境も違う。思想も違う。
 「でも魂の世界まで降りていくと、そこは同じ世界なんですよ。
それゆえに物語がいろいろな文化の差を超えて、理解し合えるのだと思う」
 さらに加えて、村上さんは「だからこそ、世界中、これだけ文化が違っているのに、
神話というのは、似通った部分がすごくあるのだと思いますよ」と語った。

つづく



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