2005年12月。私は都内某所にて生涯忘れられない出逢いを果たしました。何の革かを確認しなかったので詳細は解りませんが、兎に角革で出来たトレンチコート。襟元にはラクーンの本毛皮を贅沢に使っていました(勿論着脱自由)。


 その華やかさは然ることながら、圧倒的な存在感を目の前にして、私は暫し目を離せませんでした。見るからに高級なその芸術品に手を触れて良いものかと躊躇しながら、値札を見て手の届かないものと知り、さり気なく触った生地のその手触りにまた衝撃を受けたのでした。もうどうしようもなく手に入らないそれを、こんな通りすがった客なんていう希薄な関係で終わらせたくなくて、私はブランドネームを確認しました。


 其処には「MARCO TAGLIAFERRI」と記されていました。


 私はその名前を覚え、その日から暇を見つけては毎回そのコートをちょっと遠くから眺めていました。今思えば、試着くらいすれば良かった。どう考えても手に入らない値段だったから、気後れして一度も袖を通さなかった。今、非常に後悔しています。きっと凄く心地良い着心地だったんだろうな……。


 通い、通い続け、ずっと売れ残っているそのコートを見て、密かに安堵していたのは言うまでもありません。誰かの手に渡ってしまう位なら、いっそ身の破滅を覚悟して買ってしまおうか、と倒錯してしまう位思いつめていました。通う回を重ねるにつれ、毎回出逢う度、これはきっと私のものになるんだろうなー、なんて絵空事を呑気に空想したり、したものでした……。


 そのうち、冬のセールの時期が訪れ、恐れていた事態が訪れました。セール初日、寝坊で数時間遅れで都内某所のショップに駆け込みました。


 ない。いつもあった所にない。


 否、と思い直します。今までだって、場所が移動されたことがあった。だから、きっとある。


 逸る思いを押さえ、探すと、……奴はいました。お店の奥でセール対象にもならず、しかし堂々とした面持ちでハンガーに掛けられていました。奇蹟にも似た再会に胸をときめかせながら、やはり手には入らない彼を、セール対象外である彼を確認すると、私は半分安心、半分無念を残してその場を去りました。


 そして、セール最終日。暇を持て余していた私はそのお店にいる「彼」に会いに行きました。が、その時には売れてしまったのか、もうお店の何処を探しても、あのコートはありませんでした……。店員さんにこそ確認をとっていませんが、もう、間違いなく、誰かのものになってしまったのでした。


 悲しみに暮れ、失意に落ち込みながら、いつか必ず、このブランドの作品を身につける、と誓いました。


 それから半年が経って、今日2006年5月13日。私は漸くその夢を叶えました。


MARCO TAGLIAFERRI / DGBAG


 MARCO TAGLIAFERRIの2way バッグです。革はゴート(山羊)を使用。山羊革の特徴としては「耐摩擦性に優れている」「比較的型崩れしない」「丈夫」等と、鞄にとってはとても重要な(と個人的に思っている)条件をクリアしています。


 またこのバッグ、凄く薄いです。それになんと言っても、革であるのに非常に軽い。革製だとは思えないくらい軽い。常に携帯するものであるし、バッグというからには勿論中身が重くなっていくことは不可避の確定未来だから、バッグ自体が軽量化されていることは嬉しい。ゴートの特徴として先に挙げたように、「丈夫」である為、これだけ薄くても、ある程度の負荷には耐えられるようです。


 また視覚的特徴としては、これは購入する重大な要因だったのですが、その色彩です。革製品でこの色味は見たことがありません。写メでは確認できないと思いますが、ダークグリーンです。遠めからしっかり見れば黒っぽいけど何色だろう? と疑える程度の緑色。非常に繊細な色彩です。これより緑が濃くてもダメだったろうし、逆もまた然りです。この色彩はレザーを得意としているMARCO TAGLIAFERRIならでは、というところでしょうか。兎に角そのセンスに脱帽です。


MARCO TAGLIAFERRI / DGBAGP


 また、デザインに関して言及すれば、もの凄くシンプルな構成。全体像の映った写メを見て頂ければその全貌は見えるはずです。あえて文章にすれば、フロント部分に並ぶポケット。拡大画像を見て頂ければご理解いただけると思いますが、この装飾が色彩に次いで、このバッグの雰囲気を決めています。シルバーが映えています。使い込んでいけば、このポケットも良い味を出してくれることでしょう。今から楽しみです。


MARCO TAGLIAFERRI / DGBAGU


 また、上部から見つめると、二箇所にジッパーがついていて、どちらからでも内部にアクセス出来ます。使い勝手から見れば、ちょっと不思議な配置ですが、デザインの側面から見れば、成る程この構成がしっくり来る。一箇所だったら買っていなかったかもしれない。


 これ、私は粗ショルダーにして使うと思うのですが、お尻にバッグが来るように掛けるのが素敵。まだ中に物を入れていないのですが、そうしてもこのシルエットの良さは不変でしょう。


 10年以上は使うつもりですから、この位シンプルなものの方が飽きが来ないだろうと踏んでいます。とはいっても、やはり何処か前衛的w


 これは良いものを買いました。因みに、新宿のバーニーズにて購入。


 以下ちょっと私信。一時間以上悩み抜いた際、横で付き合って下さった店員さん、本当にご迷惑をお掛けしました。エスカレーターで私が見えなくなるまで見送って下さったことをしっかり背中で感じております。また、着こなしのアドバイス等頂けて嬉しかったです。絶対にこのメッセージを見てはいただけないと思いますが……。


 長く付き合いたいと思えるアイテムに出逢える幸運。常にこの喜びを忘れず、日々大切に使いたいと思います。