昨日の東京勉強会で使用した資料の一部を公開します。

水曜日の仙台講演会でも配布します。
一体、何が問題なのか、理解していただけると思います。
また、後半では、我々市民が取り組むべきオルタナティブな対応についての提案を行います。

当事者、ご家族、医療関係者、福祉関係者、教育関係者、その他ご興味のある皆さまの参加をお待ちしております。
ご興味のある方は、全国の精神医療被害連絡会の勉強会・セミナー・集会
全国のオルタナティブ協議会の勉強会・集会に参加ください。*最後尾にお知らせがあります。

1.1 現在のメンタルヘルス(生物学的精神医学モデル)の問題点

1.1.1 精神症状は何故引き起こされるか
 精神症状がなぜ引き起こされるのか伝統的な精神医学には、大きく分けて2つの考え方があります。一つは、梅毒や糖尿病などの他の疾患の合併症として引き起こされる場合、もしくは先天的な脳の障害または事故や病気の後遺症として脳に障害が起きる場合のように、脳に何らかの生物学的な問題があるとする考え(生物学的精神医学)。もう一つは、精神症状はその人の置かれた環境、抑圧的な人間関係が引き起こす正常な反応とする考えです(社会精神医学)。現在の日本の精神医学は、前者の生物学的精神医学に席巻されています。

1.1.2 精神疾患は薬によって治療できるとする考え
 精神症状が、その人の置かれた環境、抑圧的な人間関係が引き起こす正常な反応だとすれば、問題解決はそのどのようになされるべきでしょうか?生物学的精神医学の元では、精神症状は、他の疾病と同じように、重症の場合は入院治療が行われ、外来でも向精神薬の薬物療法が行われます。医師も患者も、向精神薬を病気の治療薬として信じて使用します。

生物学的精神医学モデルの根幹
1. 脳に生物学的な問題がある(モノアミン仮説)
2. 向精神薬で治療できる

1.1.3 モノアミン仮説の破たん
 モノアミン仮説とは、「うつ病は、セロトニンの不足で起きる」「統合失調症はドーパミンの過剰で起きる」「ADHDはドーパミンやアドレナリンの不足で起きる」といった製薬企業と一部の精神科医によって広げられた仮説に過ぎません。文字通りこれは仮説であって、2015年現在、50年近い研究を経ても未だにその科学的な根拠は確認されていません。否定する研究はあっても、一度も証明に成功した研究は皆無なのです。実際に、公的な文書やネット上の説明文にも必ず「~と言われています」とか(仮説)が付いています。にもかかわらず、現在の精神疾患の治療薬は、その仮説に基づいて開発され、使用されるという非常に危険な状況にあります。
1.1.4 精神疾患は薬で治療できるか
 人間は、単純な化学物質でコントロールできるほど、単純なものでしょうか?薬に出来ることは、病気を治すことではなく、ある特定の症状を抑えること(もしくは活発にすること)です。
 うつ病には、気分を上げる薬を処方し、統合失調症には鎮静剤が処方され、不眠には脳活動を抑える睡眠薬が処方されます。当然のことながら、これら向精神薬は、脳のメカニズムの欠点を修繕してくれるような作用はありません。風邪薬と同様にあくまで対症療法にすぎません。風邪を治すのは、我々の自己回復力であることには異論はないでしょう。しかし、風邪薬は症状が治まったならば風邪薬を飲むのをやめますが、向精神薬はずっと飲まなければいけないとされています。それは本当でしょうか?次章では向精神薬による薬物治療に効果について解説します。
1.1.5 向精神薬による薬物治療は有効か
1.1.5.1 うつ病の自然転帰と薬物治療の転帰
そもそものうつ病の定義は、19世紀末のクレペリンの研究によるものです。それによると、かつてのうつ病の長期的転帰はかなり良好でした。「通常、病的な症状は完全に消失するが、例外的にそうならない場合には、極めて軽微な特有の精神衰弱を発症する」クレペリンの研究によると450人のうつ病患者のうち、60%はうつ病の症状を一回しか経験しておらず、3回以上の症状を経験するのは13%しかいなかった。
クレペリンの後、1960~1970年代の研究者もうつ病の転帰は良好であることを証言しています。「30歳以降に好発し、40~60歳の間に羅漢率がピークを迎え、以後は急速に減少する。」うつ病は1000人に1人未満が発症する稀な病気で、尚且つ入院の必要な患者はほとんど居なかった。また、うつ病は主に中年以降に発症する病気で、初回入院患者の90%以上が35歳以上であった。患者の半数以上が軽快し、症状が慢性化するのは1割であったのです。「うつ病は総じて、治療の有無を問わず最終的には回復に向かう予後が最も良好な精神疾患の一つである」「うつ病の治療では、大半のうつ病が自然寛解に行き着くという事実が常に見方をしてくれる。つまり、多くの症例では、どんな治療をするかに関係なく、患者は最終的に改善に向かうだろう。」19世紀末から1970年代まで、うつ病はこのような病気だったのです。NIMHや有名大学の医師も全員同じ見解でした。
 うつ病の長期転帰の研究結果からは、うつ病とは比較的転帰の良好な病気であり、薬物治療は決して有効ではなく却って病気を長引かせることが判明しています。この欧米での1980年以前の研究対象であるうつ病患者は、現在の水増しされた軽症のうつ病患者や不安症状の患者は含まれておらず、軽症のうつ病患者や不安症の患者はさらに無治療の転帰は良く、薬物治療によって、かえって重症化していることが推測されるのです。

1.1.5.2 双極性障害
 双極性障害とは、1980年のDSM-Ⅲに初めて記載された診断名です。古くは、躁うつ病と呼ばれ、躁病、うつ病、躁と鬱が交互に現れるものも全て含まれていました。双極性と分類されたのは1957年のことです。この頃の双極性障害とは非常に珍しい病気でした。1955年の双極性障害による米国の入院患者(躁、うつ、双極性障害全てを含んだ患者数)は1万2750人で、約1万3000人に1人発症するという非常に稀な病気でした。この年の米国内の精神病院への双極性障害による入院患者は僅か2400人に過ぎませんでした。
 そして、その少数の患者の長期的な転帰はうつ病同様に比較的良好であったのです。
 かつての双極性障害患者(薬物療法前)は、生涯3回以上の症状がでる患者は全体の3分の1でしたが、1960年以降の双極性障害患者は3分の2以上が慢性的(持続的)に症状に見舞われるようになったのです。
 2008年のMINHの研究では、双極性障害患者の不良な転帰の最大の予測因子は、60%もの患者が服用している抗うつ薬の使用であると報告されました。さらに、薬物療法以前の双極性障害患者には認知機能の低下が見られなかったのに対し、薬物療法後の双極性患者は認知機能の低下が見られるようになったのです。それに伴い社会的機能が低下し、双極性障害患者の社会性は大きく低下しました。
2001年(ディッカーソン)、薬物療法を受けている統合失調症患者74人と、薬物療法を受けている双極性障害患者26人を対象に認知機能と社会的機能の41項目を比較した。その結果双極性障害患者と統合失調症患者の間には、似通った認知機能が認められ、社会的機能に関する項目の大半でも同じ結果を示しました。これは、病気の悪化が、2つの精神疾患患者に施されたほぼ似通ったカクテル処方によって引き起こされていることを示すものです。
 
1.1.5.3 統合失調症の自然転帰と薬物治療の転帰
 現在の統合失調症の概念を確立した精神科医オイゲン・ブロイラーの研究を紹介します。彼の行った統合失調症患者の観察研究を超える研究は存在せず、これは統合失調症の治療における基本中の基本です。15年前までは精神医学の教科書にも記載された内容です。
統合失調症の発生頻度
〇40歳までに人口の1%が発症する
〇あらゆる文化において、どの時代においても発症している
〇苦難や戦争の時期の方が平和な時期に較べて発生頻度は高くならない
統合失調症の発症時期
〇統合失調症の大部分は思春期と40歳代の初期の間に顕症となる。思春期前に明らかになるのは全患者の1%以下と稀、30歳以降の羅病率は低下する
〇女性では、閉経期に発生頻度がわずかに上昇する
〇40歳代以後に発症した統合失調症では慢性の経過を辿るパラノイア型が多い
発症前
感受性が強く、引きこもりがち、個人的な関係および関心を持たなくなり、昔、僅かに接触した抽象的知識を弄び、訳の分からない心気症的観念を作り出し、自分の仕事や家庭内で果たすべき義務において段々と失敗するようになる。彼らは神経症の場合に出現するような多彩な症状を示す。
統合失調症の経過
1.単純な経過
・急性発作から重症慢性状態へ ほとんど無い
・慢性から重症慢性状態へ 5-10%
・急性から軽症慢性状態へ 5%(程度)
・慢性から軽症慢性状態へ 15-25%
2.波状経過
・波型から重症慢性状態へ 5%を超えない
・波型から軽症慢性状態へ 20-25%
・波型経過の後治癒 35-40%
3.その他の経過 5%
E.ブロイラー 内因性精神障害と心因性精神障害(精神医学書Ⅲ)より

これらが、ブロイラーの観察した統合失調症の全体像です。統合失調症は、癌などの進行性の病と違い、その多くは良性の転帰を辿る病であるということです。当然のことながら、薬物治療もまたこうした基本転帰を念頭に置いて検討されるべきです。
 ブロイラーの研究の正しさは、他の研究によっても証明されています。1946年~1950年(薬物療法が無い時代)にNIMHが実施した研究において、統合失調症患者の転帰を示すデータが示されています。
統合失調症の自然の転帰
1946年~49年ウォレン州立病院(ペンシルバニア)
統合失調症を初めて発症した患者の62%が1年以内に退院。3年目の終りには73%が退院。*1
1948年~50年デラウエア州立病院
統合失調症患者216人の研究。85%が5年以内に退院、また70%が地域社会で問題なく生活 *2
ビルサイド病院(ニューヨーク)
1950年に退院した87人の追跡調査、半数強が4年以内の再発が無かった。*3
こうした研究でわかるのは、やはり7割以上の統合失調症患者が比較的短期(1年~3年以内)に退院し、その多くが就労し、何らかの社会的な役割を得ていたということです。さらにこの時期の統合失調症の定義は、現在より重篤な患者であったことに留意いただきたい。
統合失調症の薬物治療まとめ
*MINHの研究者カーペンターとマクグラシャン
一旦、薬物療法を始めれば、神経遮断薬を続ける限り再発しにくいことは疑いない。だが、そもそも最初から薬を使わず治療すればどうなったのか?・・・一部の統合失調症患者は、抗精神病薬の使用により、自然な経緯を辿った場合と比べ将来的に再発しやすくなる可能性があることを、我々はここに指摘する。
 新規統合失調症患者の約半数は、薬物を使用しないでも快復し、長期的な転帰も良好、薬物が必要な患者はごく少数に限られる。これは、統合失調症における薬物治療の長期的な転帰の研究で確認されたものです。方や、薬物治療を推進する側の提示する根拠は、短期間での個別の症状の緩和を示すもの(病気の治癒ではない)に限られています。しかも、これらの転帰研究は、現在の日本で行われている統合失調症診断よりも遥かに厳しい診断基準のもとで行われた研究であることを忘れてはなりません。
 さらに、統合失調症の薬物治療が再発しやすいという事実は、最近の流行であるうつ病や双極性障害に安易に抗精神病薬を使用することで、患者が新たな医原性の病気となっていることも示唆しています。
1.1.6 うつ病患者の激増とにわか専門家の急増
 現在のメンタルヘルスの最大の問題は、「心の問題が、当事者の病気の問題とされる」ことにあります。20世紀末に盛んに流された『うつは心の風邪』というキャンペーンは、製薬会社による病気喧伝キャンペーン*1でした。同時に診断の標準化の目的で、DSMというチェックシート形式の診断基準が利用され始めました。わずか9項目の質問により『うつ病』が診断され、抗うつ剤の投与が行われるようになってきたのです。さらには、向精神薬の効果は最大限に誇張され、その弊害は最大限に矮小されてきたのです。そのために、単に不安を口にするだけで、抗うつ薬を処方する医師も現れました。ついには、防止に役立つとまで主張するまでになっています。この金儲けキャンペーンは、見事に成功し、いまや約20人に1人がこうした向精神薬を恒常的に服用するまでに至ったのです。そもそも、こうして軽症の気分障害患者が大量に作り出されるまで、精神科医はそうした患者を診たことはなかったのです。日本うつ病学会でさえ、わずか10年の歴史しか持たたない急造の学会なのです。

1.1.7 向精神薬副作用の軽視と適応外使用の乱用
 また、DSMや製薬会社の病気喧伝キャンペーンにより、病気の敷居が下げられ、人間が普通に暮らしていて当たり前に遭遇する、困難に伴う苦痛や不安、悲しみ、かつての神経症(ノイローゼ)などが抗うつ剤による薬物治療の対象とされるようになってきました。そこで特に問題となるのは、安易に向精神薬を投与された場合の副作用で、薬剤性の精神疾患患者が生み出されることです。
現代精神医学の引き起こす弊害
拡大された疾病概念による患者の激増
過剰な投薬による薬剤性精神疾患患者の激増
薬物治療による患者の重症化・長期化
問題を本人の病気の責任とし、本来の問題が解決されないという危険→社会の自浄作用を奪う
 さらに、認知症や知的障害者などに対しても、鎮静目的(治療目的ではない)の投薬が増加しています。
 子供に対する向精神薬の使用に置いては、ADHD症状を呈す子供には脳の器質的障害があるとし、コンサータやストラテラといった覚醒剤が投与され、さらにかつては子供には発症しないとされた気分障害(うつ病や双極性障害)や統合失調症が発症するとして、子供への安全性の確認されていない抗うつ剤や統合失調症薬、気分調整薬が投与されています(適応外)。

1.1.8 問題は本人が病気のためとする危険な考え
現在のメンタルヘルスモデル(生物学的精神医学モデル)には致命的な弊害があります。最大の弊害は、精神症状が本人の持つ病気のためとされることにより、その精神症状を引き起こしたそもそもの問題が問われないことになることです。会社でのストレスから精神症状を呈したお父さん、学校で虐めにあう子供たちが薬物治療を受け、そもそも彼らを追い込んだ環境の問題や人間関係を放置することになりかねないということです。薬物治療以外の方法で治療を行ったとしても、生物学的な病気概念で精神症状を捉える限り、同様の危険が存在するのです。

*精神医療被害連絡会の勉強会・集会のお知らせ
各地での参加の皆さんありがとうございました。

2月25日 仙台

2015年 (平成27年)  こころ と いのち を考える連続講座
精神医療被害連絡会 中川聡代表
時間:18時30分~20時00分  会場:エルソーラ仙台(アエル28階)研修室
参加費は無料です
この講座は どんな方でも聞いて頂けます
開催時間は 18時30分 からです
平日開催ですが、お仕事帰りの方も是非ご来場下さい
詳しくは 022-717-5066 田中 までお問い合わせください
3月5日 姫路 精神医療問題を考える会
3月6日 大阪本町 関西定例勉強会&お茶会
3月8日 名古屋 名古屋定例勉強会&お茶会*8日に変更になっていますお気を付けください。
3月19日 熊本オルタナティブ協議会(予定)
3月20日 久留米 福岡オルタナティブ協議会 定例勉強会&お茶会(予定)
3月21日 熊本(予定)
3月23日 広島(予定)
3月24日 岡山定例勉強会&お茶会
4月5日 横浜 神奈川オルタナティブ協議会【オルかな】主催
-なるべく減薬したいから、生活の中で出来ること-