TVでは相変わらず、『お医者さんに相談しよう』的なCMで溢れ、医師をタレントのように扱ったバラエティ番組が溢れている。
ただ、『ドクターX』なる医療ドラマを見ていたが、そこに出てくる大病院の医師達は、皆、官僚的で無能に描かれていてある意味安心して見れたが。
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医療に限らず、大きな組織内で自分のやり方を貫くのは大変である。
先日、対談した開業医の先生の話の中で、その医師が医学教育の問題に触れられていた。
これも、医療に限った話ではないが、医師は自分で考えることより、憶えることばかりやっているということだ。
その先生は、もともと心療内科医を目指したという、被害者からすると、心療内科というのは、もともと敷居の高かった精神科のハードルを下げるための偽りの標榜科という印象しかない。
しかし、本当の意味の心療内科は全く違うという。目指したのは、心と体の両方を全人的に診る、ある意味、内科系医療の最上位に位置付けられるものであったということだ。結局、その医師は、自ら学び研究した医療を実践するために開業を選んでいる。

そもそも、我々は精神科医に何を求めているのだろう?
だれもそのことを真剣に考えてこなかった。何も求めていないのである。いや考えていないという方が正しい。
垂れ流される啓蒙メッセージをそのまま受け止め、何か精神的な不調を覚えればなんの躊躇もなく精神科に足を運び、友人に受診を奨めてきたのである。それでも、もし、様々な選択肢があれば、それを比較することもできただろうが、それ以外の選択肢は用意されていない。
精神科の暴走を許した責任は考えることをしなかった我々にもある。

ここ10年で私が経験したのは、いかに日本人全体が考えない集団であるかということだった。
肝心の司法でさえ考えていないのだから救われない。

今度の選挙で痛感したのは、やはり選択肢がないことである。
みんなが選挙に行かなかったために、自民党はわずか国民の4人に1人の支持で、圧倒的な議席を得た。
国民の半数以上は、原発再稼働に反対だが、着々と再稼働は進んでいく。
特出して増加する医療費はさらに増えて、教育や子育て予算は減らされる。
医療は利権になるが、教育は利権にならないからだろう。
しかし、誰も、それを問題にしていない。ほぼ20年で倍増した医療費にだれも疑問を呈さない。
ここ20年で増えた医療に対する国民の負担は全体で30兆円以上である。
消費税丸ごとの税収の倍くらいが医療に使われている。
では、それだけの恩恵を我々は医療から得てきたか?我々はそれを確認する必要があるが、どころか、まったく考えてさえいない。

精神医療の被害者は、精神医療のことは市民レベルとしては随分と学んできた。
被害者がただの市民と異なるのは、そこに被害という当事者としての視点があることだ。
ほとんどの精神科医自身にはその視点が欠けているから、我々被害者の指摘は、本来なら精神科医にとって建設的なものであり、より活用されるべきものである。事実、改善は全く進まないが、我々の主張は時間とともにその正当性は証明されつつある。

実は、薬物治療のデタラメを確認することについては、私自身ではやり切った感がある。
もちろん、社会的な認知度は低いままなので、啓蒙活動は必要だが、私自身の興味は別の方向に向かってきた。
精神科医の野田正彰氏との交流で得たのは、伝統的な精神病理、それを取り巻く社会病理に対する興味である。現在の日本の精神医学が捨てた精神病理と社会病理である。
こちらは、クスリの勉強ほどハードルは高くなかった。クスリの勉強のように難しい医学用語を憶える必要もないし、私自身が多くの疑似体験を持っているからである。

ビクトル・フランクルの夜と霧やバザーリアの話はしっくりとくる。読めばするすると入ってくる。いちいち調べ物をする必要もない。
ナチの収容所という環境が人間の精神にどういう影響を与えるのか?
精神科病院という閉鎖された環境が人間の精神にどういう影響を与えるのか?
そこには、しっかりとした社会や人間に対する精神科医としての観察眼が存在する。

ナチの収容所、精神病院の閉鎖病棟での精神病理を知った時、
これは、程度の差こそあれ、この日本社会のあちこちで起きていることだと理解した。
横並び、画一化を強要する学校教育。
個性をよしとしない大企業文化。
弱者をいじめる文化。自死を誘発する文化。
そこでの病理は共通している。それはそうした環境が人間を考えさせない存在にするという病理だ。
精神科病院の中だけではなく、我々自身が、日本という大きな収容所の中で暮らしており、その社会病理のまっただ中に居るということだ。
引きこもりには引きこもり特有の精神病理があるが、その背後にはそれを引き起こした家族の病理、さらにはそれを取り巻く社会病理があるはずだ。
虐待についても同様である。それらを語らずに解決するなどあり得ない。

薬物治療の暴走は、世界的な現象だが、この国の状況は突出して悪い。
その象徴は、間違いなく減らぬ入院患者とクスリの大量処方である。
日本だけで起きているなら、そこにはこの日本特有の社会病理が存在するはずである。
もしきちんとした精神病理を精神科医自身が自ら学び、考える存在であるなら、それらは起きるべくもないのである。
精神科病院で威張る精神科医やサドな看護師が存在することは、フランクルがナチの収容所で観察した精神病理そのままだ。
そして、廃人同様の重症患者を非人間的に扱った看護師はイタリアの精神病院にも居たのである。
現在の精神科医もまた、様々な社会病理に毒されたひとりの人間にすぎないということだ。
収容政策をやめることが、改善の策であるのは明白だ。
これは、ナチの収容所で起きたことと同様に閉鎖された環境で引き起こされる避けられない病理が精神科病院にはある。

ちなみに、精神科医がよく言う精神療法(認知行動療法など)とこの精神病理の話は全く違う。
薬物治療と認知行動療法は、精神症状を生物学的な病気とみなすことにおいてなにも変わらないし、最大の欠点は、そもそもの社会病理を問わず、逆にそれに従わせるものだからだ。

バザーリアが示したのは、精神症状の改善は、社会の中で人間同士の関係性の中でのみ得られるというものである。
関わりのあった事例で気が付いたのは、
精神症状は、閉鎖された病室で改善することはないこと、
限られた人間関係の中でも改善することはないこと、
(家庭内だけでは解決しない)
改善には、開かれたコミュニティの中で、ともに生活し、ともに働き、失った社会性を取り戻す過程が必要なこと、
問題解決は、対話と実践の中でしか生まれないこと。

もし、これが正しければ、我々が精神科医に望むことはおのずと限られてくる。
少なくとも、此処20年で水増しされた精神疾患患者に対しては精神科医は不要である。
役割は、急性期の患者に対する、ほんとの意味での保護と
一番の仕事は、その症状が内因性か心因性であるかの区別(診断)を下すこと。
精神症状が、いかなる原因で起きうるのか、
身体的な問題なのか、環境要因なのか、対人関係を起因とするのか?
(内因性なのか心因性なのか)
この判断をするには、膨大な社会病理の理解と個別の精神病理の理解が不可欠であるが、現在の精神科医にそれを望むべくもない。
画一化された教育の中で育った現在の精神科医には、こうした視点そのものが欠けており、自ら考えることを放棄する限り、会話すら成り立たないのである。

しかし、同時にバザーリアは、その解決策も提示してくれている。
救われるのは、その解決策は、医師免許を持たない市民にも実践可能なものであることだ。
いや、逆に市民でなければできないことである。
市民が主体的に問題解決を図り、必要に応じて精神科医の助けを求めるぐらいで丁度よい。

問題解決のための対話には、当事者や家族のみならず、支援者や医療者の参加が不可欠である。
皆の参加する対話の中で、初めてそれぞれの役割が明確化されていくのだろう。
そして、その対話と実践こそが治療に他ならないと最近思うようになった。

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精神科薬物治療の転帰の解説。解決策としてのオルタナティブ活動の提案。
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