DSM5の作成時のフィールドテストでの大うつ病の診断信頼性は3(診断が一致するまでに必要な患者数)。
つまり、3人に1人しか正しく診断されないということである。DSMⅣの編纂委員長アレン・フランシスの証言。
DSMを使用して場合、診断の時点で33%の信頼性であるということです。

精神医学界は、うつ病には薬の効くうつ病と効かないうつ病があることを認めている。
北里大学の宮岡教授は、自身の著書(うつ病治療の危機)の中で、
「薬が効果があるかどうかだけを取り上げれば、かつての内因性うつ病診断の方が正しい」と認めている。

内因性うつ病ついて、宮岡教授の著書から引用する。
かつて精神医学では。内因性うつ病と神経性うつ病という用語が頻用されていた。典型的な内因性うつ病の症例は「朝に強いゆううつ間、早朝覚醒のパターンを取ることが多い睡眠障害、好きであったことへの関心も失われる興味の喪失、食欲低下、体重減少」などを認め、抗うつ薬が有効であることが多いとされた。原因は何らかの身体面の異常にあるはずであるが、まだ見出されておらず、明らかな体の病気の脳への影響や中毒性物質が体内に入ったことによるものではないし、性格や環境の問題が主な原因ではないと考えられていた。
一方、神経症性うつ病は「内因性うつ病のような症状特徴を持たないうつ状態。苦痛体験に続いて認められる。性格や環境に主な原因がある。不安感を有することが多い」などと考えられていたが、内因性うつ病に比べて輪郭は曖昧であった。引用以上。

これに比べて、現在のDSMで採用されている診断は、症状から診断し、精神症状の原因を考慮せず、症状によっては複数の病名をつけるとしたのである。(これが、抗うつ薬と統合失調症薬の併用などという、有害な処方が蔓延している原因の一つである。)
これは一般市民にはなかなか理解しがたい。
カルテを取り寄せて、市民が驚くのはそこに記載された様々な病名である。自分が何の病気であったのかさっぱりわからない。
(東大の精神科などは、あらかじめ考えうるすべての病名に全てチェックしておくなどという、とんでもないことをしている)
精神科医の中には、精神科に診断は不必要、薬を出して効いたのがその病気と開き直る者さえいる。

野田氏が『うつに非ず』で説明しているのは、この内因性うつ病と神経性症うつ病である。
厚労省の役人と要望書の返答で面談したとき、精神科医である若い技官は教育が違うと述べた。野田氏は教育の段階から間違えていると述べているのだから話は平行線である。

宮岡教授も認めているように薬物治療が有効であるかどうかを判断するためには、DSMの診断によるものより、かつての内因性うつ病診断の方が信頼性が高い。
うつ病を疑ってクリニックを受診すれば、まず抗うつ薬が処方される。
さらにもともと、抗うつ薬は、内因性うつ病の診断の元で有効とされた薬であり、診断が変わったならば、薬の治験を再度やり直す必要がある。
そして、抗うつ薬の開発元、製薬会社の治験においても、抗うつ薬の効果はさほど高くない。
効果のプラセボに寄与するところが大きく、プラセボ効果を除けば、抗うつ薬自体の効果は驚くほど限定的である。
FDAのメタアナリシスにおいても、児童/青年に対する抗うつ薬の効果は、児童でゼロ、青年で8(8人に1人しか効果がない)。

少なくとも宮岡教授と我々の主張が一致するのは、薬を処方するかどうかを決めるのはかつてのうつ病診断の方が優秀だということだ。
PTSDや悲嘆といった理由のある神経症は投薬対象とはされない。

我々、市民が、精神科医に求めている事は明確。
病気なら治してほしいし、有効な治療法があるならそれを施してほしいということである。
そして、もし薬が有効ならば薬を処方して欲しいということである。
逆に、治療できないのなら、さっさと病気ではないと追い返して欲しいのである。
有害な薬など出してほしくない。

しかし、うつ病を疑ってクリニックを受診すれば、まず抗うつ薬が処方される。
抗うつ薬が処方されないまでも、抗不安薬や睡眠薬は出されるだろう。
もし、副作用のない薬があるなら、とりあえずこれ飲んでおいてなんていう処方も許されるかもしれない。
しかし、副作用が最小現に矮小され、意味不明な多剤併用が行われている現状では、このような態度での処方は許されない。
かなり乱暴ではあるが、
正しいうつ病治療を受けられる率は、
0.33(診断の信頼性)*0.12(薬物治療の効果がある割合)=0.0396
精神科を受診した青年の7割が投薬(読売新聞調べ)されている状況を考慮すると、
70*0.0396=2.8
青年100人が精神科を受診したら、正しい治療を受けられる確率は3%にみたないということになる。
薬の不必要な患者が、向精神薬の長期治療を受ければどうなるかは明白ではないか。
向精神薬が、脳に直接作用する薬であるのは明白なのだから。

薬物治療が必要かどうか判断できない診断など捨ててしまえ。

DSMを慎重に使えば良いという意見がある。
しかし、DSMを使えば必ず病名が付けられ、現状では間違いなく薬が処方されるのである。
そういう風に設計されているのである。

宮岡教授の本は、非常に良く書かれていると思う。
しかし、以下の点で不満がある。
ご自身が指摘した問題点により、受けた被害の影響度に言及されていないこと。
本を通じて、精神医学界の未熟さに触れているが、本全体を通じてうつ病治療の必要性を説く内容であること。
この本で提示されているうつ病治療が必要あるとするエビデンスは、薬物治療の転帰であって、自然転帰との比較研究ではない。
うつ病は治療しなければならないという根拠は、薬物治療の失敗を示す研究である。
ちゃんとした精神科医が診れば大丈夫という論調で、本質的な問題に切り込んでいない。

先日、元高知大学の教授の開業したクリニックを訪問したが、デタラメな投薬を目にした。
TMSという未承認機器での治療を行い、操転したら、それは元々本人が双極性障害Ⅰ型だからという。
そのくせ、抗うつ薬の併用処方(リフレックス、ジェイゾロフト)はやめない。
(双極性障害に、抗うつ薬を使うなとガイドラインも言っている)
宮岡教授の言う、まともな精神科医はいったい何処にいるのだろう。

不要な薬物治療がどれだけの不幸を生み出しているか。
ちょっとした不安を訴えて受診した患者の末路を知らないわけではあるまい。
多剤大量処方や不適切処方に警鐘を上げて頂けていることはありがたいが、残念ながら問題はさらに根深い。

多くの医師は、そもそも、ここで論じたDSMさえも使っちゃいないし、添付文書さえまともに読んでいない。
多くの患者は、そもそも元気が出ないと言っただけである。

精神医療は、DSM診断を捨て、内因性うつ病診断に戻るべきだ。薬の犠牲者は激減するし、そのころの方が治療実績も良いのだから当たり前である。

9月7日 相模大野(神奈川)で野田先生をお招きして講演頂きます。
是非参加ください。
精神科医の紐解く現代精神医療問題

精神医療問題セミナーin札幌 うつにあらず
10月10日(金)18:00より
札幌かでる2・7北海道立民活動センター
1050会議室(定員50名、参加費1000円)