現在の精神科医のやってることを大まかに捉えると次のようなことである。
DSMのような簡単なチェック項目で精神疾患の診断を下し、なぜそうした精神症状が起きるのかを考慮せず、製薬会社の言う薬の効能を信じ、脳に直接作用する向精神薬を安全として、何の生物学的な根拠もないまま、ただひたすら薬を出す。
ほんの小さな間違いならともかく、これらすべてが間違いである。

DSMは、そもそも、学術的な症状の分類であって、それゆえ米国の精神科医の多数決で決まる。かつてブロイラーが行ったような、丁寧な患者の観察と分析を元に定義されたものとは似ても似つかない代物である。最近では、一般市民にまでこうした手法が流布され、司法判断にまでこのDSMという極めて単純な診断方法が浸透してしまった。こんなもので人の精神がわかると考えてしまうこと自体、馬鹿丸出しである。よく話題になる血液型による性格診断と何ら変わらない。

2010年の精神神経学雑誌に日本精神神経学会の理事が巻頭記事で次のように述べている。
ここで問題として取り上げたいのは,裁判官でも診断できると思い込んでしまう,DSM-Ⅳなどの操作的診断システムの欠陥についてである.Andreasenの指摘(Schizophrenia Bull,2007)を待つまでもなく,精神病理学を放棄し臨床的表現型のみに依拠した診断が個々の症例に対する見立てに基づく治療という精神医学の体系をゆがめてしまったことは重大問題である.また,個々の症状項目数だけからうつ病が診断できるとしてしまうことは,客観的なしゃべるスピード,語彙数,表情や立ち居振る舞い,性格傾向など全体をみて診断すべきであるのに,「木を見て森を見ない」の愚を犯していることにもなる.操作的診断システムが研究対象の均一化に大きな役割を果たしているという期待があるようであるが,実は大変な事態が進行していないかと危惧している.

伝統的な精神病理学では、様々な精神症状はその人に関わる様々な問題に対する正常な反応であったはずだ。
だからこそ、精神症状への対応は、その問題の解決が最優先であり、環境調整や対人関係の見直しが具体的な対処法となるはずである。
そして、薬物投与は、やむを得ない場合にのみ検討されるべきものである
こうした努力を無視して、症状に応じて薬を出すなら、自動販売機で事足りる。

このブログの読者であれば、すでにお気づきのように、向精神薬の効能は最大限に誇張され、リスクは最大限に矮小されている。モノアミン仮説は未だ証明不可能で生物学的な根拠が不確かなまま、その仮説に沿った薬物投与が横行している。
統合失調症は治らない病気であるとか、難治性うつなどという言説は、間違った治療を覆い隠す唯の言い訳に過ぎない。

もしも、精神科医がメンタルヘルスの専門家であるなら、その仕事は、その症状のみならず、その人を取り巻く環境や文化、人間の関係性などに着目し、助言を与えると同時に、具体的な改善策を提示することではないのか?市民が精神科医に与えている尊敬や権限、それ相応の報酬は、こうした仕事に対する対価であるべきである。

かつて、「引きこもり問題」で精神科医の野田正彰氏と話した時に、「引きこもり問題」には、精神科医の関与が必要だと私に力説した。
その後、野田氏の言う精神科医とはどういうものか聞き取っていく過程で、私はブロイラーなどの伝統的な精神病理学の存在を知った。
これは、現在の精神医学の巨大な負の面にかき消された精神医学の良心そのものである。
しかしながら、野田氏は、その後の現役精神科医との面談などを通じて、結局まともな精神科医は居ないと主張を変えた。
それは、精神科医という肩書を持つ野田氏が現在の精神科医への最後の期待を失った瞬間であったと思う。

精神医療には、社会の保安を担わされるという負の側面とは別に、社会的な弱者を助けるという正の側面もあるはずである。
その正の側面を支えるのが、伝統的な精神病理学そのものである。

批判からオルタナティブな実践へ。
野田先生は、精神医学の再生を目指す方向を考えておられたが、それは構想の時点でとん挫した。
再度、意見をお聞きすると、
「ソーシャルワーカー」を中心とした組織作りを目指すべきだと。それはもともと我々が目指してきた形そのものである。
ソーシャルワーカーとは、社会保険福祉士とか精神保健福祉士といった資格者のみを指すのではない。
それぞれの社会問題に真面目に取り組む一般市民のことである。
精神科医を排除する気も毛頭ない。
ただ、我々が精神科医に求めるのは、DSMなどに従った幼稚な診断と治療ではない。
伝統的な精神病理学に基づいた助言と、現在のデタラメに対する反省に基づく謙虚な姿勢である。
その上で、共に問題解決を図る対等な仲間としてお迎えしたい。

9月7日、私の地元の相模大野(神奈川県相模原市)で、2人の精神科医をお迎えして、この問題を議論します。
この問題にご興味のある皆さまの参加をお待ちしております。
精神科医の紐解く現代精神医療問題

その他の精神医療問題勉強会
(*精神医療被害連絡会では、ともにセミナー・勉強会を開催していただける団体、個人を募集しております)

8月17日 定例、精神医療問題勉強会in東京(お茶会)参加費用1000円+お茶代

8月23日 ウイングス京都 13:30~
第8回関西定例勉強会 
子供の薬漬け問題と虐待、DVシェルター、児相問題を取り上げます。

8月24日 きらめきプラザ 13:00~
【主催】精神医療・薬害問題を考える市民勉強会
【共催】精神医療被害連絡会 全国オルタナティブ協議会準備室
第2回精神医療問題勉強会イン岡山
当事者、ご家族、医療者。福祉職の皆様の参加をお待ちしております。
医療者、福祉職、注目です。

8月25日 関西カウンセリングセンター 14:00~
市民と支援者の為の向精神薬の基礎知識 
薬の知識の徹底解説。

10月19日 仙台市民会館
【共催】我が子に会いたい親の会、精神医療被害連絡会
子どもたちへの安易な向精神薬投与の 問題性について考える

その他開催の決定している勉強会・セミナー
10月上旬 沖縄
10月10日 札幌
10月18日 仙台
10月26日 島根