この問題を取り上げていると良く言われるのが、
「良くなった人もいる」「必要な人もいる」
という反論だ。

それを聞くたびにがっかりする。
薬害とはそういうものではない。

100万人のうつ病患者に、0.1%の自死の副作用がある薬を投与したとしよう。
100万人の内99.9万人にメリットがあって、残りの0.1万人(1千人)に副作用が出たとする。

この1千人の人たちは、立派な薬の副作用被害者である。

たまたま運が悪かったから仕方がない。
副作用が無い薬は無いから必要悪だ。

文頭のような発言をする人はそんなふうに考えていないだろうか?
(だとしても、副作用を引き受けることになった1000人は当然ながら社会的救済を受ける権利がある。)

交通事故の被害者を考えてみよう。
交通事故の死者は年間7000人、一時の交通事故の死者は3万人を超えていたが、様々な規制やシートベルト着用義務化やエアーバックの標準装備などにより、7000人まで減らすことに成功した。当然ながら交通事故被害者は、決して0にはならないが、自動車は被害者が出ることを前提に社会的に容認されているということだ。

こんな風に考えると精神薬も容認されるべきだとすることに一理あるように思える。

しかし、交通事故被害者は、自賠責保険と加入率の高い任意保険によりいくらかの保証は得られるようになっていて、警察もきちんと事故原因を調査するルールが確立している。それに比べて、精神医療被害に対してはその調査さえ行われない。そもそも車を運転するリスクや交通事故に遭うリスクを国民は知っているが、向精神薬のリスクは国民に正しく伝えられていない。

精神医療被害者は、ただ社会から放置されているのだ。
何故亡くなったのかの調査さえ行われていない。

社会がその被害を容認するためには、その社会がその被害を最小にする努力を怠らず、絶えずその努力がなされていること、またそのリスクが国民に知らされていることが大前提である。

「良くなった人がいる」「必要な人もいる」といった反論もまたそうした前提ならまだわかる。

しかしながら事態はそれどころではない。

平成22年度の警察庁の自殺動機の調査では、3万2千人の内、9000人が精神疾患を患っていたとある。この統計をみると、うつ病と統合失調症が分類されて計上されている。ということはこの9000人は、医師により診断を受けていたということだろう。うつ病ならともかく統合失調症などと警察に分類は出来ないからだ。
ただこの警察の調査は、薬の服用者の全てをカバーしているとは思えない。20~40代で自死者の4割という数字は低い数字ではないが、本当はもっと高いと思う。

この数字(9000人)だけで、交通事故死者を超えている。
10代以下で118人、20代で1149人、30代で1796人、40代で1730人が精神科の治療中に亡くなっている。
国や医療界には、この死をきちんと調査する義務がある。

少なくともこの9000人の共通項は、向精神薬を飲んでいるということだ。
なぜ調査しない。

死者はこれだけではない。
これに、精神科病院死亡退院者年間1万8千人中の被害者、
不審死者17万人のうちの精神科治療中であった被害者
を加えねばならない。

今現在我々市民が目に出来る資料から推測できるのはここまでである。


国立精神神経自殺促進センターの先生たちは、自死遺族連絡会の自死者の7割が精神科受診中であったという事実に対して、「うつ病の患者は、癌患者と同じで、治療中に死ぬのは当たり前」と仰る。

だが、FDAの抗うつ剤の治験結果のメタアナリシスでは、60人~100人にひとりが余計に自殺リスクにさらされると明確に示されている。
100万人の抗うつ剤投与者の内、少なくとも1万人から1万6000人は抗うつ剤の自殺リスクにさらされていることである。

これは全年代の平均で、自殺リスクは、40を中心に高齢者は減少し、若年者は増加する。若年層のリスクは2倍から3倍である。
(30代は1.5倍、20代は2倍、それ以下は3倍である。)

もちろん自殺副作用は、抗うつ剤のアクティベーションシンドロームだけではない。
自殺副作用は向精神薬全般に存在する。
またジプレキサの自殺誘発副作用は治験史上最悪である。
さらに、向精神薬の副作用に苦しみ、精神的、身体的、社会的に追い込まれる自死も多い。
ODなどは、せん妄で引き起こされる場合もある。

何より、日本の精神医療は、抗うつ剤、抗不安薬、睡眠薬、抗精神病薬の併用を当たり前のようにやる。それにより自殺リスクがどれほど高まるかは誰も知らない。

自死予備軍は、自死者の10倍はいると言われる。
判明している9000人の10倍は9万人。

本当は数十万人の高リスク者がいるのではないか?

調査はちっとも難しくない。
調べるのは、自死者の精神科受診の有無と受診前に自殺関連行動(念慮、準備、企図)があったかどうかだけである。


さらに恐ろしいのは、先のFDAの抗うつ剤の治験の効果である。
しつこいがもう一度触れさせてもらう。
皆さんにこのデータの衝撃度がどうも伝わって居ないようなので。

抗うつ剤

1.大うつ病

児童に対する効果(試験者数539)0人
青年に対する効果(試験者数1691)8人に1人だけ効果がある。

2.強迫性障害

児童に対する効果(試験者数294)5人に1人だけ効果がある。
青年に対する効果(試験者数235)6人に1人だけ効果がある。

3.不安障害

児童に対する効果(試験者数176)4人に1人だけ効果がある。
青年に対する効果(試験者数341)3人に1人だけ効果がある。

「良くなった人もいる」「必要な人もいる」のは、たったこれだけである。
(逆に公平を期すために書いておくが、高齢者には効果がある)

まとめるとこういう事である。

青年のうつ病では、8人に1人しか効かない薬を飲んで、30人に1人が自殺リスクにさらされている。
こどものうつ病では、全く効かない薬を飲んで、20人に1人が自殺リスクにさらされている。



さらにDSM4の大うつ病の診断のフィールドテストの信頼度はわずか30%である。

抗うつ剤でさえこうなのである。
うつ病に抗精神病薬などさらに効かないのは当たり前である。

さらに、抗うつ剤を長く飲むと、その逆説的副作用で本当に精神疾患になる。
http://seishiniryohigai.web.fc2.com/seishiniryo/renrakukai/seminer1-2.pdf
の14~15Pを参照されたい。

若年層で言えば、精神科で「良くなった人もいる」というのは、ほんの僅かで、あとはただ効果がないか悪くなっているだけである。
こうした事実を知って上で、使いたい人だけが使うのなら文句はない。
かつてうつ病は中年病だった。
かつての精神医療における抗うつ剤の使用は適正であったのかも知れない。
だが、SSRI発売以降の抗うつ剤の若年層への安易な適応拡大は明らかに間違いだ。

もう議論など必要ありません。これが結論です。

これを言わせるために私は生かされているのだと本気で思います。

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http://ameblo.jp/sting-n/entry-11361649852.html
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