ばあちゃんワズマイン | スティルマイン

ばあちゃんワズマイン

幼い頃、私には吃音があった。賢かったからだと思う。
直接的な原因は全く些細なことだったのだがどうにも治らずしばらく田舎に預けられることになった。

母親も一緒だったがそこは天国、そこには私の自由があった。世界と人気は私のものだ。
はしゃいだり甘えたりすることが苦手だった筈なのだが順調に増長、じいちゃんやばあちゃんに甘えまくる。泣けば構って貰える、こっそりお菓子も貰える。ねだればオモチャも手に入るし、なんだか良く分からないロボットのプラモデルも何個も買って貰えた。

ばあちゃんとはよくトランプをした。お互いババ抜きしか知らず何度も繰り返した。
幼い私はババ抜きの「ババ」とばあちゃんの「婆」の一致に気付きもの凄い発見をした気になり大喜び、トランプをしながら気が触れたように爆笑しまくっていた。やはり阿呆だったのだろう。
そしてそのテンションのままおもちゃのバットを振り回しばあちゃんの横っ面をクリーンヒット、眼鏡をふっとばし木っ端微塵に。怪我は無かったものの叔父にこっぴどく叱られる。
そこでの唯一の敵はその厳しい叔父だった。恐れてはいたが「叔父の言うことは筋が通っている」と子供ながら理解していた為、上手く愛情表現こそできなかったが好いてはいた。

親戚の子たちとどちらがばあちゃんと寝るかで喧嘩したりしつつ毎日ばあちゃんに甘えまくり、その子らとたまに仲良く遊ぶ時も意味無くばあちゃんの部屋だった。

そんな生活をしている内、吃音はすぐ治った。田舎的な自由な雰囲気の中甘えまくり、泣きまくれたからだと思う。
私としては東京の幼稚園に帰りたくなかったが居る理由が無い以上帰らねばならない。治ってしまったことを後悔した。

その家は今はもう無いが、間取りまでちゃんと覚えている。仏壇の線香の匂いと台所の醤油の焦げる匂い、今でも当時のことをたまに思い出す。