まず最初に、彼らが打ち身や擦り傷で済むことを祈ります・・・。
その時の状況を説明すると、L35にP5走行中のKOBの後ろのP6のHULがピットイン。この前のラップのL34にKOBの直前を走っていたMSCがピットインしており、KOBは、MSCのいなくなってできたスペースで直ちにペースを上げ、ピット作業でMSCの前に出ようとプッシュしました。
が、MSCのタイヤ交換後のタイムは、KOBペースアップタイムより1秒近く速く、先に動いたHULの前に戻らなければ、HULにもやられ、その時点でROSもしくはSENの後ろに戻ってしまう恐れも出たため、チームは急遽、HULに反応する形でピットインを決断。
セクター3走行中だったKOBに、MSCとHULの間、できればMSCの前に戻すつもりで、タイヤを潰してピットで止めることを緊急指示。
KOBは、状況を察してハード・インしたためにタイヤがステアリングとブレーキングに反応せず、オーバーシュート(止まりきれない)状態となって、フロントジャッキ担当クルーと右タイヤ担当クルーに接触してしましました。
この交換作業でのアクシデントで、約12秒程のタイムロスを喫したKOBが、P12でコースに戻った時には、P11のBUTまで9秒弱という大差がついていました。
が、KOBは最終ラップまでにP9のHULを先頭とするSEN、BUTの隊列に追いつき、SENとの争いでコースオフしたHULを最終ラップで追い抜いたものの、0.1秒差でBUTを交わすまでには至らず、残念ながらポイント獲得は叶わないまま、レースを終えることになりました。
一応、スタートから、ピットでのアクシデントまでの流れをおさらいしておくと、まず、KOBはスターティング・グリッドについた時点で懸案を抱えることになっていました。
G17に付いてみたら、後輪の位置がスタート&フィニッシュラインを示すホワイトペイントの真上になっていて、スタート時のホイールスピンは必定という状態でありました。
グリッド上でFIAのオフィシャルに位置のオフセットを依頼しましたが、これは受け入れられずにスタートを迎えることとなり、結果、スタート・ダッシュは良くはありませんでした。
幸い、3台前方のROSと隣のRICがスタートに失敗したので、これに乗じてダッシュの悪さをカバーすることはできましたが・・・。
また、L10にはP3走行中のVETがアンダーカットしてP15で復帰したためP11に浮上。
L11には、MALとPERの脱落でP9に浮上し、HULとのポイント圏内争いになることが確定。
そして、L12にはそのHUL、L13にはSENをパスして、ゴール時のP8のポジションを、後方から追い上げて来ているGRO、ペースの上がらない前方のMSCとで争う事が明快な目標となりました。
後はスタートタイヤとして選択したプライムタイヤの足の長さとゴール時にP5~P10に入りそうなドライバー達とのラップタイムの推移を勘案しながらのレース
・・・になっていた矢先に、前述のピットでのアクシデントが発生した、という状況でした。
全体的なレースとしては、予選直前に予想された雨は降らず、そして、予想外の陽光で路面温度が33度まで上昇し、おそらく、どのドライバーも今回のレース・コンディションに適合されたセッティングでは走れていない状況が推測されました。
もっとも、雨の予選ながら、ドライ側にセッティングを振っていたといっても、路面温度がP3の24度という状態で回収された「ドライ」予想でのセッティングです。
この約10度近い路面温度の差は、想定を超える大きなものだったと言えるでしょう。
実は、データの比較の上では、今回のイギリスGPには興味深いものがあります。
というのも、昨年のレースで唯一、このイギリスGPが「ホット・ブローイング」が禁止されたレースで、エンジンの排気の使い方においては、吹きつけ位置こそ違うものの、今年と酷似したレースだったのです。
その昨年のレースでのファステストラップは優勝したALOの1:34.908でした。
そして、今回は2位になったもののALOは力強いレースをしていて、そのファステストラップは1:35.385でした。
レースのコースコンディションとしても、昨年はスタート直前に雨が降り、インターミディエートタイヤでのスタンディングスタートで、コースが乾いてからドライタイヤに変更してのタイムであり、コースが汚れている「グリーン」な状況は、今回の雨にたたられたコースコンディションとほぼ同等と考えて良いでしょう。
昨年は、レースでの雨が予想されていませんでしたから、予選に向けてのセッティングは「フルドライ」に適合されたセッティングだったわけで、このラップタイムの違い(今年は遅くなっている)が、フルドライのセッティングでは無かったという証左でもあったといっても過言ではないでしょう。
私はDAY2のレポートで、ドライ寄りになったらHAM、BUT、HUL、DIRが活躍するだろうと予想しましたが、それは外れて逆に、リタイヤしたDIRを除いて、苦労したドライバーになってしまっていました。
(ちなみに、ドライになったので、燃費の不安から、彼らは、ラムダドライバは、おそらく、限定的にしか使えなかったものと推測されます。BUTが、最後の数ラップだけ、いきなり速くなったのはそういう理由ではないかと!?)
今回のようにコンディションが「グリーン」で「路面温度高め」の場合、ドライ路面になってもドライ・セッティングは、うまく機能せず、むしろウェット寄りの方が実践的だった・・・と、いうのは貴重な経験です。
参考までに、昨年のSauberのレースでのファステストラップはPERの1:36.656(KOBは、MSCに追突されて、その後リタイヤしていました。)。
今年のファステストラップはKOBの1:35.478で、対昨年比で1秒以上のラップタイムの向上でした。C30からC31へは基本性能が向上していますが、それ以上に、KOBの選んだウェット寄りセッティングは、今回、的を得ていたと言ってもいいと思います。
もちろん、対昨年比はにはなりません。
が、今回のレースはウェット寄りのセッティングが正解であり、かつ、そういう状況でのC31は戦えるという(おぼろげな)根拠のようなものが見えたような気がします。
実際、ウェット・コンディションとは、現実的には、グリップが低くて視界の悪い状況の事を言います。
今回のレースは、ポイントこそ獲れませんでしたが、ピレリ・タイヤをうまく使うのに、貴重なデータとなったレースと共に、予選さえ前に持っていくことが出来れば、C31は、ほぼ全チームがエアロ・アップデートを投入してきても、まだ戦える可能性を秘めていると再確認できた事がポジティブな面です。
こうしたC31の状況が、レース後のデータ検討で見えてきたともに、このレポートを書いている間に、負傷したメカニック達の全員の無事も確認され、アクシデントはあったモノの、ドライバー2人とチームは、うなだれること無くシルバーストーンを後にすることができています。
個人的な事ですが、今日、負傷を負ったフロントジャッキマンは、トヨタのF1撤退と同時に解雇された人物で、KOBにとっても、私にとっても長きにわたる戦友です。
フロントウィングのエンドプレートが、親指の付け根に当たっていたので、かなり心配していたのですが、メディカルセンターから、分厚い包帯を巻いてガレージに帰ってきたので「戻って来ても大丈夫なのか?」と、声を掛けたら「心配するな!これぐらい平気だ。」と、さっさと、後片付けに復帰して行きました。
今頃、彼はC31を搭載したトランスポーターを運転して、ドーバー海峡を渡っているころでしょう。
相変わらずのタフさには頭が下がります・・・。
そして、チームCEOのモニシャも「ポジティブに行きましょう!」とのこと。
次回、2週間後のホッケンハイム、フォーミュラ・ルノー時代にさかのぼり、KOBのキャリアで事実上もっとも走り込んでいる「ホーム」で、再度、頑張ります!
※レポート内のドライバー略称は以下の通りです。
KOB=小林可夢偉
MSC=ミハエル・シューマッハ
HUL=ニコ・ヒュルケンベルグ
SEN=ブルーノ・セナ
BUT=ジェンソン・バトン
MAL=パストール・マルドナド
PER=セルジオ・ペレス
ALO=フェルナンド・アロンソ
HAM=ルイス・ハミルトン
DIR=ポール・ディ・レスタ



