(この「愛着の話」は精神科医の岡田尊司氏を中心に、各専門家の文献を、内容や趣旨はそのままに、私が読みやすい文章に書き換えたものです)


※今回の投稿が愛着理論の心臓部です。愛着を形成することが、なぜ対人関係や知的好奇心や知的発達等、様々な面でプラスの影響を及ぼすのかが分かります。キーワードは、「安全基地」(があるので)「安心」(して、様々な)「探索行動」(に)「自立性」(に取り組める)の4つです。
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   愛着が形成されると、子どもは母親といることに安心感を持つだけでなく、次第に、母親が側にいなくても安心していられるようになります。愛着が形成されることは、その子の安全が確保され、安心感が守られるということでもあります。愛着のこうした働きのことを、ある研究者は、「安全基地」(safe base)という言葉で表現しました。子どもは、愛の絆で結ばれた母親という安全基地がちゃんと確保されている時、自分がまだ経験していないことでも冒険しようという意欲をもつことができます。なぜなら、もし何かあったらすぐにお母さんという安全基地に戻ればいいいということを子どもが分かっているからです。逆に、母親との愛着が未形成で安全基地を持てない時、子どもは安心して冒険を行うことができません。その結果、知的好奇心や対人関係においても、無関心になったり、消極的になったりしやすいのです。
   母親によって「守られている」と感じている子どもほど安心して活動できるので、好奇心旺盛で活発に行動し、何事にも自立的・積極的なのです。幼い子どもが母親の元を離れて石ころや葉っぱを探しに行ったり自分から絵本を眺めたり、更にもう少し大きくなると、同じ年頃の子どもと関わりを持とうとしたりするのも愛着が形成されている証拠です。愛着という安全基地をベースキャンプにして、子どもは冒険(「探索行動」)を行うのです。さらに、愛着が形成されていると、子どもは冒険に積極的になるため、新しい経験の機会を増やしていく中で、様々な知識も身につけます。つまり愛着は、情緒や社会性の面でなく、知的発達をも促してくれるのです。
   赤ちゃんには、様々な危険や事件(お漏らしをした、おなかがすいた等)が次々と迫ります。そんな時にもすぐに避難できる安全基地が必要です。「困った時には自分が泣けば必ずお母さんがすぐに来て助けてくれる」という信頼できる安全基地ができることを「お母さんに対する愛着が形成された」とか、「お母さんとの『愛の絆』ができた」と言います。
   なお、「『愛着の話』No.1」で、「愛情とはお金品や躾ではない」という話をしましたが、真の意味での「愛情」(または単に「愛」)とは、子どもとの間に「愛の絆」つまり「愛着」を形成してあげることだと私は考えています。