これは、私が神奈川にある国立特別支援教育総合研究所に長期研修に参加していた時の話です。 

   ある日の夕方、私が山手線に乗っていたら、学校の帰りだったのでしょう、制服を着た二人の小学生(中学年くらい)が乗ってきて、私のすぐ隣に座りました。ところが、ほどなく、その小学生たちはペチャクチャおしゃべりを始めました。それも、周囲の人の存在など気にしていないと思われるような大きな声です。周囲の大人たちもその二人をみて迷惑そうな表情をしていました。
   そこで、私は、私のすぐ隣に座っていた子どもの肩をチョンチョンとつついて、子どもたちがこちらを見た時に、ニコッ」と微笑んで人差し指を立てて口に当て、「しー。」という合図を送りました。すると、二人は私の意図に気が付いたようで、すぐに話す声を小さくしました。
   しかし、しばらくすると私のすぐ隣に座っていた子どもの声がまた大きくなってきました。すると、向こう側に座っていたもう一人の子どもが、私のポーズをまねて「シー。」と友達への合図を送りました。かわいらしかったのは、その瞬間、その子がチラッと私の方を見たのです。ぼく、ちゃんとできてるよ。ともだちにもおしえてるよ。」と私に気付いてもらいたかったのでしょう。
   私は、この二人に注意した時に、始めに「ニコッ」と微笑みました。つまり、子どもたちの失敗を「受容」したのです。もしも、怖い顔をして「静かにしなさい。」と注意していたら、彼らは、たくさんの人が乗っている電車の中で恥ずかしい思いをさせられ、ふさぎ込んでいたことでしょう。場合によっては、逆に反抗的な態度を示していたかもしれません。
   子どもは失敗する生き物なのです。叱るのは、一度受容しても直らなかった時で全く遅くはありません。