これは、私の若い頃の体験談です。
「先生〜、◯◯くんがいじわるした〜」と3年生のある女の子が私に訴えに来ました。
私は、それまでは、
「◯◯君を連れていらっしゃい!」
と、悪さをした本人を呼んで、直接注意をしていました。しかし、その女の子が来た時、試しにこう言ってみました。
「『◯◯君に止めて』って言った?」
すると、その子は、「ハッ」としたような表情を見せると、その男の子のところにツカツカと歩み寄り、
◯◯くん、もうさっきのようなことはやめてよね!
と、勇ましく言い返していました。
それ以来、その女の子が私のところに訴えに来ることはほとんど無くなりました。おそらく、
自分が『いや』という意思を相手に自分で伝える」というスキルを学び、それ以後そのスキルを使うようになったのだと思います。

   しかし、当の私自身、それまでの自分の対応を反省しました。私がわざわざ当の本人を呼びつけて注意することによって、子ども達の「自分の意思を相手に伝達する」というスキルの学びの場を奪ってしまっていたのです。

   昨今、いじめによる被害が多数報告されていますが、意地悪をされる側の子供達がどれほど自分の意思を相手に「やめて」と伝えることができているだろうか?と不安になります。特に、ある友達から初めての「意地悪」をされた時に、はっきりと意思表示をしないと、その友達は「この子は何も言い返せないな」と学習し、その後も意地悪を続けてくるでしょう。それが常習化すると、本格的な「いじめ」になってくるのです。

   私たち大人は、「いじめはいけません」とは言うけれども、「意地悪をやめて」というスキルを子ども達に身につけさせているでしょうか。いつも、親や先生の力を借りてしか問題解決できない心の弱い子どもでは、大人になった時に自立した生活を送ることができなくなるかもしれませんね。