前回の記事 の続きです。
森の民としてカピラ達と共に暮らし、平穏な日々が続くかに思われたのですが、ある日事件が起きたのです。
その日、彼女は突然長老に呼び出されたそうです。
何だろうと思っていると、長老の口から驚くべき言葉が発せられたそうです。
長老はこう言ったそうです。
「これからここに巨大な鷲が飛んでくる。あなたは、子供達と子供のカピラを連れて、山の国に向かいなさい。」
わけもわからぬまま、旅の支度をさせられ、森の国を後にすることになったそうです。
連れて行くのは、6人の子供達(8歳~9歳だったそうです。)と、10匹の子供のカピラだったそうです。
彼女は、ずっとここにいてもいいかな、と思い始めていたところだったため、森の国を後にするのは非常に残念だったそうです。
一番嫌がるだろうと思われた子供達は、誰一人拒否したりぐずったりする者はいなかったそうです。
子供のカピラ達も、親カピラと別れるのが辛いだろうと思っていたのですが、全くそんな様子は見受けられなかったそうです。
何故だろうと不思議に思いましたが、村の人達から早く出発しろと、とにかく急かされたため、
すぐに森の国を出発したそうです。
森の国を出る際に、長老から、決して後ろを振り返ってはいけない、と強く言われたそうです。
その言いつけを守り、一行は後ろを振り返ることなく、山の国に向かって歩き続けたそうです。
山の国への道はカピラがテレパシーで教えてくれたそうです。
数時間ほど歩いていると、突然強い風を感じたそうです。
そこで、風が吹いてきた方向を見上げると、はるか遠くに、非常に大きな鷲の群れが見えたそうです。
数時間歩き続けたため、かなり離れていたそうですが、それでも黒い鷲だということがはっきりわかったそうです。
徒歩で数時間かかるほど離れた距離から、鷲であると識別できるほどの大きさだということです。
そんな怪鳥が10羽ほど見えたそうです。
突然感じた風は、怪鳥の群れが羽ばたくことで生まれた突風だったのです。
あれに襲われたら、おそらく森の国の人々やカピラ達はひとたまりもなかったでしょう。
彼女は、恐怖と怒りが込み上げてきて、どうしていいかわからなくなってしまったそうです。
すると子供のカピラがテレパシーを送ってきたそうです。
こういう内容だったそうです。
「これは、ずっと昔から100年ごとに繰り返されてきたことなんだ。あの大きなワシは、100年に一度、森の国や周辺の国を襲って、人や動物を食べるんだ。でも、それは悪いことではないんだよ。それもバランスを保つための自然のサイクルの一部なんだ。でも、本当はあのワシは2羽しか生まれないはずなんだ。それがあんなにたくさん飛んでくるというのは、どういうことかわかるかい?
世界のバランスが崩れかかっているというサインなんだ。僕らがこうやって旅をしているのは、この世界の重要なポイントに僕らカピラを配置することで、エネルギーを調和させて、狂ったバランスを正常に戻すためなんだ。さあ先を急ごう。落ち込んでいる暇はないよ。」
彼女は、自分の親が鳥に食べられてしまったというのに全く動じず、自らの使命を果たそうとする小さなカピラに、非常に勇気づけられたそうです。
勇気と冷静さを取り戻した彼女は、一行を引き連れ、再び歩きだしました。
深い森を抜けると、大きな平原が続いており、遥か先に非常に高い山が見えたそうです。
どうやらあれが山の国がある山のようです。
朝と昼は歩き、夜は休むというサイクルで山をめざし、一月ほどで、山のふもとに到着したそうです。
山の麓から頂上を見上げると、上のほうは雪が積もっていたそうです。
冬の富士山のような感じだったそうです。
どうやら山の国はこの山の頂上にあるようです。
意を決して登り始めました。
ゴツゴツした岩場が多く、上るのは一苦労でしたが、半日ほどかけてやっと頂上に辿り着きました。
頂上はかなり広く、平坦な土地が広がっていました。
とても雪深く、吹雪も吹き荒れており、じっとしていると凍えてしまいそうな寒さだったそうです。
そこで、山の国の住民に会うべく、辺りを探してみようということになったそうです。
手分けして、人が住んでいるところはないか探していると、突然類人猿のような外見の集団が襲ってきたそうです。
もの凄い剣幕で追いかけてきたそうで、一行は川沿いを走って、必死に逃げたそうです。
川沿いを走って逃げていると、途中で川の真ん中で溺れている小猿を見つけたそうです。
すると彼女は何を思ったか、仲間に先に逃げるように言うと、小猿を助けるために川に飛び込んだそうです。
無事に溺れていた小猿は助け出したものの、極寒の水に入ったため、動けなくなってしまったそうです。
こんな状態では子供達とカピラを守れない!どうしよう、と思ったそうですが、後の祭りでした。
小猿が溺れているのを見たら、反射的に体が動いてしまったそうです。
類人猿が迫ってきます!
もうダメだ!と思い、恐怖のあまり目を閉じたそうですが、いつまでたっても類人猿は攻撃してこなかったそうです。
おそるおそる目を開けると、目の前に優しい顔をした類人猿が立っていたそうです。
そして、類人猿はこう言ったそうです。
「おまえ、わたしの娘助けた。悪いやつじゃない。そのままだと凍えて死んでしまう。わたしたちの村へ来い。」
そして、彼らの村へと案内してくれたそうです。
石でできた、かまくらのような家だったそうです。
中に入ると、部屋の真ん中にルビーのような赤い水晶玉が置かれており、それが熱を発していたそうです。
そこで暖まるように言われ、しばらくその前でじっとしていたそうです。
カピラ達は彼女を心配して、10匹全員彼女の側を離れなかったそうです。
子供達は他の家に案内されたそうです。
あまり一つの家が大きくなかったからだそうです。
先ほど助けた小猿は、どうやらこの類人猿の長の娘だったらしく、それで歓迎してくれたようです。
しばらくゆっくりしていると、長老が入ってきて話をしてくれたそうです。
彼らは、山の国に住む山の民で間違いないそうです。
風の噂で大鷲が出たと聴いて、とても警戒していたのだそうです。
そこへよそものが来たため、混乱に乗じた侵略者ではないかと思ったそうです。
「すまない。お前らは家族だ。ゆっくりしていくといい。」
長老はそういうとにっこり笑って出て行ったそうです。
ここに辿り着くまでに、子供達もカピラも相当体力を消耗していたので、非常にありがたい申し出でした。
数日で出発する予定だったそうですが、吹雪が酷く、出発出来る天気ではなかったそうです。
結局吹雪が止むまで待っていたら3週間経っていたそうです。
吹雪が止み、さあ出発だという時に、子供が二人(男の子一人、女の子一人だったそうです。)、ここに残ると言い出したそうです。
なぜ?と訊くと、森の民の長老から、山の国に残り、カピラを世話して、カピラを増やすように言われたからだ、と言ったそうです。
彼女はとても寂しく感じたそうですが、彼ら二人は自分の使命であるとそれを受け入れていたため、むしろ喜ばしいことだと感じているように見えたそうです。
彼女は、その様子を見て、カピラも森の民も、自然と調和し生きている存在は、死生観や人生観が我々とは違うのかもしれない、と感じたそうです。
カピラも、雄と雌を一匹ずつ、彼らに預けたそうです。
カピラは、一番寒さに強そうなぽっちゃりしたカピラを二匹選んだそうです。
やはりカピラ自身も、この地に残ることになるのを最初から知っていたそうです。
別れを惜しみつつ(と言っても、寂しそうにしていたのは彼女だけだったそうですが。)、山の国を出発したそうです。
次の目的地は、砂漠のど真ん中にあるという火の国に決まったそうです。
カピラが、非物質の世界から情報をキャッチし、彼女に行くべき場所を教えてくれたそうです。
「パラレルワールド 後編」へ続きます。
読んでいただき、ありがとうございます。
ps.最初にこの話を書き始めた時には、前編後編で書くつもりだったのですが、あまりにも話が長いため、前編中編後編の三つに分けることにしました。
このことを彼女に伝えると、
「10年間の体験をたった二つの記事で書ききるのは、そりゃあ無理だよ。」
と笑われました。
やはり、実際にパラレルを体験してきた本人からすると、壮大な物語だったようです。
しかし、彼女が体験してきた10年は、こちらの世界ではわずか6時間しか経っていなかったのです。
本当に不思議ですよね。
時間というものは、直線的で絶対的なものではなく、伸び縮みするゴムのようなものかもしれませんね。
彼女は、パラレルから戻ってきてから、まず最初にご飯を食べたそうですが、涙が出るほどおいしかったそうです。
10年ぶりの味噌汁だ~!と感動したそうです笑
私たちも、気付いていないだけで、寝ている間にパラレルに行っていることもあると思います。
そう考えると、今日会う人や食べるものは数百年ぶりかもしれません。
そうだとすると、なんだかものすごく大切なもののような気がしてきますね。
当たり前のものというのは何一つ存在しないのかもしれませんね。