私が担当させていただいている戸籍法上の夫婦別姓を目指す訴訟(東京地裁)とは別に,民法上の夫婦別姓を目指す訴訟が,5月10日に提起されました。夫婦別姓という共通の憲法上の問題について,異なる視点からの2つの訴訟が同時係属して進行していくということは,日本の裁判の歴史でもなかったことです。相互の訴訟が互いに影響を与え合って,思わぬ効果が生まれることも期待できます。私も民法上の夫婦別姓訴訟を,応援している1人です。

 

 

 

 

私自身は,その民法上の夫婦別姓訴訟の弁護団には入っていないことから,訴訟における主張がどのように展開されていくのかは,全く分からない状態です。ただ,法律家として思いますのは,民法上の夫婦別姓が成功するかどうかのカギは,「民法上の夫婦別姓が認められた後の婚姻制度はどうなるか」を,憲法訴訟の主張において,具体的な法改正案として提示できるかどうかではないか,ということです。

 

 

 

 

といいますと,当然その訴訟で国側の反論として主張されることが予想されますが,民法上の夫婦別姓制度のウイークポイントに,「婚姻制度が複雑になり,またそれに対応して,必要な法改正も複雑になる」という指摘がされているのです。

 

 

 

 

仮に,民法上の夫婦別姓が実現した場合,婚姻を行う際には,以下の合意が必要となるはずです。

 

 

 

 

1 民法上の夫婦の氏を選ぶ婚姻の場合→現在と同じ

 

 

 

 

2 民法上の夫婦の氏を選ばず,それぞれの氏で婚姻をする場合→①夫婦のいずれが戸籍筆頭者の戸籍に,もう一方が入るのかの合意,②子供の氏をいずれの氏にするかの合意

 

 

 

 

現在の民法750条は1でありまして,民法上の夫婦別姓が実現された場合には、2が追加されることになります。そしてそれは,民法上別姓で婚姻する,ということだけでなく,さらに上で書きました①と②の合意を行った上での婚姻届の提出,ということになるはずです。

 

 

 

 

としますと,民法上の夫婦別姓を実現するためには,民法と戸籍法の改正と,さらには婚姻届の書式の改正が必要となってきます。しかもそれは,夫婦についての規定,親子についての規定,さらには子についての規定に影響を与えることになります。法改正を検討しなければならない範囲が広いのです。

 

 

 

 

すると,これから始まる民法上の夫婦別姓訴訟において,単に「民法750条は憲法違反だ」と主張をして,それが認められた場合の外の法改正は国会に委ねます,というような主張では,裁判所としては不安で違憲判決を出しにくいのではないか,と思います。そこで求められるのは,訴訟の原告側,弁護団側で,いかに上の諸点についての法改正案を具体的に訴訟の主張の中に組み入れることができるかだと思うのです。それがまさに,「腕の見せ所」となるはずだと思います。

 

 

 

 

その成功こそが,訴訟の成功をもたらすように思います。裁判所が立法を行うわけでなく,裁判所が違憲判決を出した後の立法的な手当は,あくまでも国会が行うわけですから,裁判所が違憲判決を出した後,国会がその裁判所のメッセージを,「このように法律を変えればいいのだ」と具体的に受け止めることができるような違憲判決を導き出すことが,民法上の夫婦別姓訴訟では求められるように思うのです。逆に,それを具体的に提示することができれば,おのずと成功が見えてくるのではないでしょうか。

 

 

 

 

その主張の成功は,私が担当させていただいている戸籍法上の夫婦別姓訴訟にも大きな影響を与えてくれることと思います。いずれにせよ,2つの異なる訴訟が,夫婦別姓問題に違う光を当てて,それを解決に結び付けることができるように,精一杯の訴訟活動を行いたいと考えています。