以前このブログでも御紹介しましたが,7月9日(土)の午後に,三重短期大学で,シンポジュウム「地域から『家族』を考える」が行われました。



当日は,三重短期大学で憲法を教えていらっしゃる三宅裕一郎先生,慶應義塾大学で民法を教えていらっしゃる田髙寛貴先生,そして弁護士として女性の再婚禁止期間違憲訴訟を担当した私の3名で,「家族とは何か」について考えた3時間となりました。



私の方からは,昨年(平成27年)12月16日に出された最高裁判所大法廷による違憲判決と,今年(平成28年)6月1日に国会で行われた法改正についての報告に加え,そこから「憲法や民法が守ろうとしている『家族』とは何だろう」というお話をさせていただきました。



個別の報告が終わったところで,担当者3名と会場にいらしてくださっている参加者の方々との質疑応答が行われました。そこでは主として,女性の再婚禁止期間が国会で改正された際に,「3年後をめどに女性の再婚禁止期間そのものを見直す」という決議が付されていることが取り上げられ,「仮に女性の再婚禁止期間が離婚の際に妊娠している女性についても撤廃された場合,父子関係の推定規定はどのようなものへと変化するのか」というテーマで,とても興味深い議論が行われました。



当日は,民法の田髙先生により,最近出された最高裁判所による「嫡出推定」の判例の立場が報告されたのですが,民法の規定では単に「推定する」としか規定されていない父子関係が,あまりに強い推定になっていること,容易には推定が及ばない場合が認められないことが,いわゆる無戸籍児を生む大きな原因となっているように改めて感じました。



それは既に学説でも指摘されていたところです。例えば,国立国会図書館「民法上の親子関係を考える―嫡出推定・無戸籍問題・DNA検査・代理出産―」(2015年)9頁にも,以下のような指摘が行われています。



 「Ⅲ 嫡出推定をめぐる議論 子の法的身分の安定,養育者の確保等の観点から,嫡出推定制度は今日もな重要な意義を有する。しかし,推定範囲が社会の実情に合っていないとの批判や,嫡出否認権者が夫に限られることから生じる問題等の指摘が以前からなされてきた。



例えば,離婚後300日問題は,『法律婚における父子関係の強すぎる推定が,妻が産んだ子を夫の嫡出子に取り込むことで引き起こす問題』であると言われることがある。こうした問題への対処としては,嫡出推定の緩和と嫡出否認の容易化を議論する動きがある。・・



2 嫡出否認の容易化  ・・判例・学説は,嫡出推定の及ばない子という概念を生み出し,親子関係不存在確認の訴えにより母や子が親子関係の存否を争うことができる場合を認めてきた。しかし,現実に可能となるのは,外観説の要件が満たされるケース等の例外的な場合に限られる。



その不都合を解消するため,法改正による嫡出否認の容易化を求める議論がある。具体的には,嫡出否認権を母又は子にも認めることが提唱されている。母や子が提起する嫡出否認の訴えにあっては,前夫の関与が必ずしも必要とされないことも考えられ,そうすれば前夫がDV加害者であるようなケースであっても嫡出否認権の行使が保障され得る。」



シンポジュウムに参加させていただき,本来ならば,子の保護,子の福祉のために存在しているはずの嫡出推定規定が,逆に無戸籍児を生み出しているのではないか,という思いを強くしました。



仮にその法適用状態が,憲法が国際人権条約の理念に反するのであれば,当然救済が図られなければならないはずだ,とも思いました。



このブログでも御紹介しましたが,私は無戸籍児問題の解決を目指す,嫡出否認違憲訴訟を担当させていただく予定です。



今回のシンポジュウムでの経験は,きっとその新しい憲法訴訟において,活かされることだと考えております。