『憲法と家族』(日本加除出版,2016年)は,著名な憲法学者である辻村みよ子先生がつい最近(平成28年4月)出されたばかりの研究書です。



昨年(平成27年)12月16日に最高裁判所大法廷で出された2つの判決(女性の再婚禁止期間違憲訴訟と夫婦同姓制度違憲訴訟)のそれぞれの判決についての本格的な評論などが掲載されているだけでなく,近時出されている「家族」に関する重要な最高裁判所の判例についてもまとめられた著書です。その意味で,最高裁判所が考える「家族」とは何か,という問題意識でまとめられた,とても興味深い本であります。



実は,この「憲法が考える『家族』とは何か」という問題は,私自身が女性の再婚禁止期間違憲訴訟の最高裁判所大法廷における弁論で,主張を行ったテーマでもあります。



実は,おそらく多くの方が意外に思われることと思いますが,そもそも民法が保護しようとする「家族」とは,「血のつながり」そのものではないのです。



この点については,実は近時出された最高裁判所の判断において示唆されていることなのです。まず,性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律に基づき女性から男性へと性別を変えた方について,その妻が生んだ子との間に嫡出推定が及ぶかが問題とされた最高裁第三小法廷平成25年12月10日決定です。その問題を肯定した最高裁決定は,民法の規定する嫡出推定制度が,「血のつながり」を守るための制度ではなく,早期の父子関係の確立により子の福祉を保護しようとするための制度であることを示しています。



さらに,最高裁第一小法廷平成26年7月17日判決では,法律上の父子がDNA鑑定で99%他人の子であるとされたとしても,その父子間には嫡出推定が及ぶ,と判示されています。その最高裁判決の立場も,民法の規定する嫡出推定制度は,「血のつながり」を守る制度ではなく,早期の父子関係の確立により子の福祉を保護しようとする制度であることを示しています。


養子縁組制度もそうですね。実は,民法が保護しようとしている「家族」とは,「血のつながりとしての家族」ではなく,「法律上のつながりとしての家族」である,と言えるのかもしれません。



この点につき,平成27年12月16日の最高裁判所大法廷における女性の再婚禁止期間違憲判決により,国会で現在法改正が進められているところですが,国会では①離婚した女性が妊娠していないという医師の診断書を添付すれば,すぐに再婚ができる,②離婚した女性が妊娠している場合は,再婚禁止期間100日が今までどおり課されるものとする,という内容の法改正が予定されています。



でも,実はこの国会における法改正は,上で御紹介した最高裁判所による近時の「家族」についての解釈を前提とすると,矛盾する内容のようにも思えるのです。と申しますと,上で申しましたように,法律が守ろうとしている「家族」とは,イコール「血のつながり」ではない,と言えるからです。



実は,ドイツでは再婚禁止期間が平成10年(1998年)に廃止され,離婚後婚姻中に出生した子の父は母の後婚の夫とする出生主義を採用しています(甲27号証6頁及び乙3号証658頁)。その立法は,上のイ及びウで指摘した最高裁判例と矛盾せず,むしろ親和的なのです。






さて,冒頭で御紹介しましたように,辻村みよ子先生の『憲法と家族』には,女性の再婚禁止期間違憲訴訟の最高裁判所大法廷による違憲判決の解説が掲載されているのですが,その解説の箇所には,私が最高裁判所大法廷で行った弁論の内容を引用してくださったり,その弁論をダウンロードできる作花法律事務所のHPも引用してくださるなどしてくださっています。



さらには,私が最高裁判所大法廷の弁論で申した「憲法は生きている文書であり,時代の変化に則して読み解かなければならない」という文章も引用してくださっています。それはこの事件を通して私が最も訴えたかった,最高裁判所大法廷に伝えたかった言葉です。取り上げてくださったことを感謝しています。



法の解釈とは,水に石を投げてできる水紋のような存在です。原告の女性と訴訟代理人弁護士の私の二人三脚でいただいた違憲判決を,このように研究書で取り上げてくださり,その結果,また今後行われるであろう憲法裁判に何らかのお役に立てれば法律家としてこの上ない幸せです。



「日本の社会における家族と何か」という問題についてご関心をお持ちの方は,ぜひ『憲法と家族』をお読みいただければと思います。