いつもお声をかけてくださっている弁護士ドットコムで,「喫煙シーンのある映画『成人指定に』WHOが勧告 『表現の自由』の侵害ではないのか?」の問題について,コメントを担当させていただきました。



弁護士ドットコム/喫煙シーンのある映画「成人指定に」WHOが勧告  


ヤフーニュース/喫煙シーンのある映画「成人指定に」WHOが勧告  





これは,喫煙シーンがある映画を見た未成年者の方が,その映画を見たことが喫煙をするきっかけとなっているのではないか,という報告を元に,喫煙シーンのある映画を成人指定にして未成年者は見られないようにすべきだ,という勧告をWHOが出したことと,表現の自由を保障した憲法との適合性の問題です。



表現の自由は,「傷つきやすい権利」である,と表現されます。表現の自由は民主制のプロセスを支える権利であり,さまざまな手段で容易に制限される人権だからです。



さらに申すと,表現の自由は制限の対象となりやすい人権でもあります。例えば権力を有する者を批判する表現があれば,その表現を禁止する動機が生まれるからです。



とすると,当然表現の自由は,権力を有する者からすると,色々と理由をつけて制限しようとされやすい人権である,と表現できることになります。私達としては表現の自由への規制理由がいかなるものであれ,制限そのものに対する憲法適合性を厳格に審査する必要があるわけです。



アメリカの連邦最高裁長官をされているジョン・ロバーツ判事は,ある表現の自由が問題とされた事件の個別意見で「表現の自由はパワフルな権利である。それは,人の心を揺さぶり,涙を流させることもできる。でもだからこそ私達は,表現の自由の行使に対して刑罰を持って対峙してはならないのだ。」と述べられています。



表現には表現で。問題があると考えられる表現であっても,それへの対策が表現で行えるならば,決して表現そのものを制限してはならない,というのが表現の自由の保障の趣旨だと思います。以下で引用させていただく弁護士ドットコムでのコメントも,そのような趣旨でまとめたものです。




(以下,弁護士ドットコムでのコメントを引用させていただきます)



喫煙シーンのある映画「成人指定に」WHOが勧告 「表現の自由」の侵害ではないのか?



世界保健機関(WHO)は2月1日、「喫煙シーンが含まれる映画やドラマは、若者を喫煙に誘導する効果が高い」と指摘する報告書を発表し、「成人向け」に指定する措置をとるよう、各国政府に勧告した。



WHOは、登場人物や役者の行動に影響されやすい若者が、まねして喫煙を始めるケースが多いと指摘している。また、アメリカでは、新たに喫煙者となった青少年のうち、映画やドラマが直接的なきっかけとなって吸い始めた人の割合が37%にのぼるとの調査結果を紹介している。



日本がWHOの勧告にしたがって規制を設けた場合、「表現の自由」の観点から問題が生じる可能性はないのだろうか。憲法問題に詳しい作花知志弁護士に聞いた。



●「必要最小限度の制約」といえるのか



「WHOの勧告は、それ自体に法的拘束力があるわけではありません。ただ、私は、国際条約組織による勧告は、条約締約国の国内法の解釈に事実上の影響を与える存在だと考えています。それをふまえて、この問題を考えたいと思います」



作花弁護士はこのように前置きした上で、解説を始めた。



「仮に、WHOの勧告を受けて日本政府が、喫煙シーンが含まれる映画やドラマを『成人向け』に指定する措置をとったとします。それは当然、映画がドラマを発表する表現の自由に対する制約であり、憲法適合性が問題となります。



表現の自由は民主制の基盤を支える人権です。それに対する制約は(1)規制の目的と、(2)規制手段について、それぞれ厳格な審査がされなければなりません。



規制目的に合理性がなく、手段が目的達成のために必要最小限度であると言えない場合は、規制は人権侵害として憲法違反になります。



今回のケースでみると、(1)規制目的については、未成年者の健康保護にあり、合理性は肯定されるかもしれません。

ただ、(2)規制手段が必要最小限か、という点が問題だと考えます。



そもそも、WHOの根拠とする『登場人物や役者の行動に影響されやすい若者が、まねして喫煙を始めるケースが多い』という点は、どのような科学的根拠があるのかが問題です。



仮にそのような関係にあるとしても、たとえば、喫煙シーンのある映画やドラマについては、喫煙の危険性を伝えるメッセージを冒頭で流すなどすれば、表現そのものを制限しなくても未成年者の健康を保護するという目的を実現できるのではないかと考えられるからです。



こうしたことから考えると、今回の勧告に沿った規制が日本で実施された場合、憲法違反と判断される可能性はあると思います」



●子どもの「知る権利」も制約することになる



「さらに、映画やドラマの制作者など、『発表する側』の表現の自由だけでなく、それを見る未成年者の『知る権利』に対する制限にもあたる可能性があります。



未成年者は感受性が強く、影響を受けやすいという面はあります。そのため、性的な表現や暴力的な表現については、『R-15』(15歳未満禁止)、『R-18』(18歳未満禁止)などのレイティングが定められています」



ただ、「R-15」「R-18」は、業界が自主的な基準だ。業界が自主的に規制を設けている場合でも、憲法問題になるのだろうか。



「いいえ、憲法は、原則として『国』と『国民』の関係を定めた法です。業界がレイティングを定めているからといって、未成年者は当然に『知る権利の侵害だ』と主張できるわけではありません。



一方で、規制を国が法律で規制されたとしたら、やはり表現の自由の観点から問題となるでしょう。



性的な表現や暴力的な表現は、一度見てしまうと、その影響を取り除くことが難しいといった側面があります。一方で、喫煙シーンは、さきほど述べたように喫煙の危険性を伝えるメッセージなどを流すことで、その影響を抑えることができる可能性があります。



喫煙シーンのある映画について、国が年齢規制を設けた場合、子どもの『知る権利』に対する必要最小限の規制と言えず、憲法違反と判断される可能性はあると思います」



【取材協力弁護士】

作花 知志(さっか・ともし)弁護士

岡山弁護士会、日弁連国際人権問題委員会、国際人権法学会、日本航空宇宙学会などに所属。

所在エリア:岡山岡山市北区

事務所名:作花法律事務所

事務所URL:http://sakka-law-office.jp/