私が担当させていただく予定の憲法訴訟があります。公立女子大学に男性の受験を認めないことが,性別による差別を禁止した憲法14条1項などに違反することが争点となる裁判です。

 


 この裁判については,このブログでもお話いたしましたように,色々な報道機関で紹介していただきました。



その中で,とても印象的だったTV番組があります。TBSの番組「いっぷく!」です。


 

 「いっぷく!」でも,訴訟の意義をさまざまな観点から紹介してくださいました。また,アメリカ連邦最高裁判所が1982年に出した,ミシシッピ州立女子看護学校に男性の出願を認めないことは法の下の平等を定めた憲法に違反する,との判決も紹介されていました。  


 

 そのような中,スタジオにいらっしゃったコメンテイターの方が,とても興味深いコメントを出されたのです。「性的マイノリティの方への配慮という観点が今後は大切になるのではないか」という趣旨のコメントです。  


 

その方がされたコメントを,私なりに敷衍させていただくと,次のような内容になると思います。

 

現在,「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(平成15年(2003年)成立。平成16年(2004年)施行。)が成立しています。

 

そして,同法4条には「性別の取扱いの変更の審判を受けた者は,民法その他の法令の規定の適用については,法律に別段の定めがある場合を除き,その性別につき他の性別に変わったものとみなす。」と規定されているのです。

 

その規定により,性同一性障害者のうち特定の要件を満たす者については,家庭裁判所の審判により,法令上の性別の取扱いと,戸籍上の性別記載を変更することができるのです。

 

その法律を前提にして,性同一性障害の方の場合を念頭に置くと,大学の入学を「男性」「女性」という区別をすることは,難しい問題を生じることになります。

 

例えば,生物上は男性である人(仮にAさんとします)が,「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」により戸籍上女性となり,戸籍上は女性であるとして大学の入学試験の受験を希望した場合,大学は拒否するのか,という問題が1つ。

 

さらに逆の場合も難しい問題が生じます。女子大学への入学時には女性であったものの,その在学中に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法 律」により戸籍上の性別が男性に変わったものとされた人(仮にBさんとします。)は,その女子大学を退学処分となるのか,という問題が2つめです(同法4 条2項には,「前項の規定は、法律に別段の定めがある場合を除き、性別の取扱いの変更の審判前に生じた身分関係及び権利義務に影響を及ぼすものではない。」と規定されています)。

 

上で御紹介した番組のコメンテイターの方のご趣旨は,このような点にあると思われます。




つまり,「性同一性障害者の性別の取扱の特例に関する法律」が成立している現在において,大学の入学者を性別で選別してよいのか,という問題提起です。



これを仮に公立女子大学の受験を希望している男性(仮にCさんとします。)を,男性であるからとして拒否した場合と対比しますと,Aさんとの関係で は,AさんもCさんも生物学的には男性であることに変わりなく,またBさんとCさんは法律上は男性であることに変わりないことになり,矛盾が生じないの か,ということにつながるのです。

 

それはいわば,歴史の変化と法律制度の変化が,「大学」という制度に与える光や意味を変えた,とも言い得ることだと思います。その光の変化は,当然憲法の定める法の下の平等の規定にも,異なる意味を与えることになります。

 

私個人としては,上でも引用しました
「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が成立している21世紀の現代において,大学の入学者を男性か女性かで分けるということは,もはや合理性がないように感じています。


そして,憲法は生きている文章です。憲法は,時代の流れと社会の変化の中で,読み解かれなければならない存在であります。そのことを,この問題を考える上では,忘れてはならないと思います。