恋愛禁止をモットーとするアイドルグループのメンバーが,ファンと交際をした,という理由で,アイドルグループが所属している事務所が,そのメンバーと,さらには交際をしたファンを訴えた,というニュースが報道され,話題となっています。



この訴訟については,ネット上でも弁護士の方によるコメントが出されたりして,色々な反応が既に出されているところですが,出されているコメントを大きくまとめると,①事務所が,アイドルグループのメンバーとの間で恋愛をしないという合意を行うこと自体は許されるであろうが,②そのメンバーと交際をしたファンは事務所と契約関係があるわけではないので,ファンに対する損害賠償など認められないであろう,という内容のように思います。



私はこの事件の詳しい事情は存じ上げませんので,あくまでも抽象的な法律論として申しますと,おそらく事務所の主張としては,②ファンの方は,メンバーと事務所の間で恋愛禁止の合意がされていることを知った上で,そのメンバーと交際をしたのであるから,事務所がメンバーに対して有する契約上の権利を故意に侵害した,という,いわゆる講学上の「債権侵害」を根拠にしているのだと思います。



もちろん契約は,契約当事者になる合意の上で相互の債権債務(権利義務)が定められます。逆を申しますと,契約当事者でない人は,その契約上の義務を負うことはなく,契約上の権利に基づいて請求を受けることがないのが原則です。



ただ,例えばA事務所がアーティストBと演劇の出演契約をしており,そのA事務所のライバル企業であるC事務所がそれをじゃましようと考えて,出演当日にBを監禁して出演させなかった,という事案を考えてみますと,C事務所は契約当事者ではないものの,やはりA事務所が契約上有しているBに対する権利を侵害した,と評価できるものです。



裁判所の判例においても,「債権もまた対世的な権利不可侵の効力を持ち,第三者が債務者を教唆し,又は債務者と共同してその債務の全部又は一部の履行を不能ならしめた行為は,不法行為となる。」(大審院大正4年3月10日判決)とされており,第三者が債権を侵害したとされる場合があることが認められているのです。





では,はたして今回報道されている事件ではどうなのか,という点は,詳しい事実関係が分からない私としましては,何とも申すことができません。



ただ,元々アイドル(idle)とは,「偶像」という意味の言葉です。そのことは心の片隅に置いていただきたい,と思っています。