私達が住んでいるこの宇宙について,とても興味深い記載を目にしました。最近読んだ,荒船良孝さんの著書『5つの謎からわかる宇宙』(平凡社新書,2013年)に記載されている,宇宙物理学者村山斉さんの,「誕生したばかりの宇宙の姿」についてのお話です(『同書』197頁以下)。



同書には次のような記載があったのです。



「ただし,今,研究が進められている誕生したばかりの宇宙は,僕らが暮らしている世界とは,物理法則などが大きく過かけ離れていたはずだ。



その世界で起きていることを明らかにするためには,新しい言葉が必要になるかもしれない。物理的な現象を書き表す場合,使われる言葉,それは『数学』だ。・・



村山先生は数学者と連携することの重要性を,『宇宙や素粒子の世界で起こっている出来事を正確に記述するためには,豊かな言葉が必要だけれど,私たちには明らかにボキャブラリーが不足している。それを補ってくれるのが,数学なんだ。



数学物の力を借りることで,物理学者は今までいおうと思ってもいえなかったことが表現でき,理論をつくり,実験につなげることができるようになる。



数学者も,既にある数学の体系を物理学に使っていくことで,より大きな体系にしていくことができる。・・



人類は,生まれたばかりの宇宙でどんなことが起きたのかということに,だんだんと迫れるようになってきた。でも,同時にまだまだわからないことも多い。



帰り際,僕はカブリIPMUの中の大きなホールのような場所を通った。そこには,何やら不思議な言葉が書かれている大きな柱が立っていた。



どんなことが書いてあるのか村山先生に聞いたところ,『宇宙は数学という言葉で書かれている』という意味の古いイタリア語だよと教えてくれた。これはガリレオ・ガリレイがいった言葉だそうだ。」





元々数の誕生は,文明が起こる以前の遡ります。狩猟や採取,さらには生活の維持のために,計算が必要となっていったのです。



数学の本には,世界各地における「不思議な数の数え方」が書かれていることが多いですが,それも,人が生活する上で,数学が必然的に必要であったこと,そのために編み出された道具が数学だったことを意味しています。



そしてその道具である数は,「0」(ゼロ)が編み出されたことにより,飛躍的に発展を遂げたのです。



そのように,本来は人が生活する上での道具として編み出された数ですが,上で御紹介したように,村山先生は,私達が暮らすこの宇宙の誕生の姿を説明するには,私達が普段使う言葉ではとても説明しきれない(「ボキャブラリーが不足している」),その足りない部分を説明するには,数学が必要である,と言われるのです。



このお話は,数という道具を編み出したはずの人類が,さらに工夫を重ねて編み出した現在の科学技術と言葉では説明・表現することができないものがこの宇宙には存在することを意味しています。



それはきっと,人類の有する能力や技術が決して完全なものではないことを意味すると同時に,宇宙という空間(スペース)が謎に満ちあふれた存在であることを,私達に教えてくれているのだと思います。



考えてみますと,数学とは,神が創ったとされたこの世界の調和を証明するために編み出された学問です。


宇宙に端はあるのか,宇宙の外はあるのかなど,無限に広がる宇宙空間とその謎を解く鍵は,まさに神が創った世界の証明のようなものなのかもしれませんね。





ガリレオ・ガリレイ(1562-1642)はイタリアで活躍した数学者・物理学者です。ピサの斜塔で落下の実験を行ったこと,さらには望遠鏡を使った検証の結果地動説を唱えたことを理由に,有罪判決を受けたことで知られた方ですね。



今の科学技術と比較するととても性能が低かったであろう望遠鏡を使っていたガリレオは,それでも現在の物理学者が到達したような,宇宙の不思議な姿を目にしていたのでしょうか。



仮にガリレオの残した言葉が,村山先生が言われた言葉と重なるのならば,その能力と好奇心にただ驚嘆するばかりです。でもその一方で,人はどんな状況においても,情熱を持ってすれば真理に近づけるのだ,ということをも,そのガリレオの言葉は教えてくれているように思います。



1989年にNASAが打ち上げた宇宙衛星には,「ガリレオ」の名前が付けられています。実際の宇宙空間でその「ガリレオ」はどんな世界を見たのでしょうか。その姿を天国のガリレオは,きっと目を細めながら,見守っていたことと思うのです。