12月になりました。クリスマスの月ですね。
この「弁護士作花知志のブログ」では,毎年12月に必ずお送りしている記事があります。サンタクロースについての心温まるエピソードです。
私は,12月になると,必ずこのお話を思い出すのです。そしてこのお話には,私がこのブログでお伝えしたいことが凝縮されているように思うからです。
ある少女が,サンタクロースは本当にいるのでしょうか,と新聞社に手紙を書き,それに対して新聞社が発行している新聞の社説で回答をしたことがあります。それは,1897年のアメリカでの出来事でした。
当時8歳だった少女が,新聞社ニューヨーク・サンに手紙を書き,同社はその手紙への返答を,その新聞の社説により行ったのです。
この話は,社説が掲載されてから100年以上経った今でも、クリスマスの時期になると世界中で愛され、語り継がれています。
当時8歳のヴァージニア・オハンロンは,「サンタクロースはいるのかどうか」について友達と話をした際に,サンタクロースはいないという友達がいたことにショックを受けました。
ショックを受けたヴァージニアは,そのことを父親に相談しました。すると父親は,ニューヨーク・サン社に手紙を書いてごらん,ニューヨーク・サン社ならどんなことでも知っているだろうから,と言われたのだそうです。
父親にそう言われたヴァージニアは,本当にニューヨーク・サン社に手紙を書いたのです。その手紙は,今でもニューヨーク・サン社に保管されているそうですよ。その内容を見てみましょう。
編集者さま
私は8歳です。
私の何人かの友だちは,サンタクロースはいないと言います。
パパは「サン新聞が言うことならそのとおりだ」と言います。
どうか私に本当のことを教えてください。
サンタクロースはいるのでしょうか?。
ヴァージニア・オハンロン
115 西95番街
この質問に対し,同社の記者フランシス・チャーチは,「Is there a Santa Claus?」(「サンタクロースはいるのでしょうか?」)という題名で,社説を書きました。
8歳の少女の素朴な疑問に対して社説で回答をするところが,アメリカという国の懐の大きさを示していとともに,将来社会を担う子供達に対する愛情を感じられるように思えて,私はこのエピソードが大変好きなのです。
そして,同社がそのような社説を載せた理由には,同社が行った回答に,手紙を送ったヴァージニアだけでなく,アメリカの,そして世界の社会全体に対して伝えたいメッセージが含まれていたからのように思えます。
ヴァージニアの手紙に対する,同社の回答である社説を,以下でご紹介いたします。
ヴァージニア,あなたの友達は間違っています。
彼らは,疑い深い年齢であり,何でも疑ってしまうところがあるのでしょう。
そのような人達は,目に見える物以外は信じないのです。自分が分からない事などない,と思っているのです。
いいですか,ヴァージニア。
人は,大人も子供も,ちっぽけな存在です。
この偉大な天地万物の中で,人の知恵など,虫やアリのような存在です。
人と,限りの無い世界とを比べたとすれば,その広く,また深い世界を推し量るには,世の中のことの全てを理解し,全てを知ることができるような,大きな,そして深い知恵が必要なのです。
そうです,ヴァージニア。
サンタクロースは確かにいるのです。
彼は,確かに存在するのです。
それは,愛や寛容,そして献身が確かにこの世に存在していて,
あなたも知っているように,多くのそれらが,君の生活に,素晴らしい美しさと喜びを与えてくれるのと同じように,確かなことなのです。
ああ!。もしサンタクロースがいないとしたならば,
世界はなんてつまらない所なのでしょう。
そのつまらなさは,きっとヴァージニアのような可愛い子供たちがいないのと同じくらいなのでしょう。
その世界には,生活をより良いものにしてくれる純真な信仰もなく,詩もなく,ロマンスもないのでしょう。
私達には,見たり触れたりすること以外の楽しみは,なくなってしまうのでしょう。
子供時代に世界を満たしている不思議な光も消え失せてしまうのでしょう。
サンタクロースを信じないんですって!。
妖精も信じないのでしょうか?。
パパに頼んで,サンタクロースを見つけるために人を雇って,クリスマスイブに,全部の煙突を見張らせることもできるでしょう。
そうすると,ひょっとしたらサンタクロースを捕まえることができるかもしれませんよ。
でも,例え煙突から降りてくるサンタクロースの姿が見えないとしても,それが何の証拠になると言うのでしょう?。
誰も,サンタクロースを見たことがないというのは,サンタクロースがいないということじゃないのです。
世界で一番本当のことは,子供にも,大人にも見えにくいのです。
あなたは,芝生の上で妖精がダンスをするのを見たことがありますか。
もちろん,ないでしょう。
でもそれは,妖精がいない証拠とはならないのです。
誰もが,世界にある,目に見えなかったり,見えなくなることができる,不思議なことのすべてを,想像したり,心に描いたりすることはできないのです。
あなたは,赤ちゃんのガラガラを壊して,何が音を出しているのか見る事ができるでしょう。
でも,目に見えない世界を覆っているベールは,どんなに力持ちの男でも,世界中の力持ちの男の力をあわせても,決して引き裂くことはできないのです。
信仰や空想,詩,そしてロマンスだけが,その覆い隠しているものを押しのけて,その向こうにある,天上の美と栄光を眺めて,それを心に描くことができるのです。
本当かですって!?。
ええ,ヴァージニア。
世界の中で,本当で,変わることがないのは,それだけなのですよ。
サンタクロースがいないですって!。
とてもうれしいことに,彼は生きていて,永遠に生き続けるのです。
今から千年経っても。
ヴァージニア,それどころか千年の十倍たっても,彼は子供達を喜ばせ続けるんですよ。
サン新聞編集者から。 1897年9月21日。
(社説の原文は,以下のサイトで見ることができます)
YES,VIGINIA,THERE IS A SANTA CLAUS
次のお話も,以前このブログ記事でお伝えしたことですね。サン=テクジュペリは,子供達がクリスマスに読むことができる本を書いてほしいと言われて執筆した『星の王子さま』(新潮文庫,2006年)で,次のようなメッセージを残されています。
サン=テクジュペリ『星の王子さま』(新潮文庫,2006年)117頁以下
「それから王子さまは眠ってしまったので,僕はそっと抱きあげて,また歩きだした。
僕は胸がいっぱいだった。自分が,壊れやすい宝物を抱いているような気がした。
地球の上に,これ以上壊れやすい宝物はないような気さえした。
月の光のなかで,僕はその白い額を,閉じた目を,風に震える髪の房を,見つめた。
そして思った。『こうして今見ているものも,表面の部分でしかないんだ。いちばん大事なものは,目には見えない。』・・
『地球の人たちって』と王子さまが言った。『ひとつの庭園に,五千もバラを植えているよ。それなのに,さがしているものを見つけられない。』
『見つけられないね』僕は答えた。
『だけどそれは,たった一輪のバラや,ほんの少しの水のなかに,あるのかもしれないよね。』
『ほんとうだね』僕は答えた。
王子さまは言いたした。
『でも目では見えないんだ。心でさがさなくちゃ。』」
ニューヨーク・サン社がヴァージニアに対して,そして社会の人々に伝えたかったこと。サン=テクジュペリが子供達に,そして大人の読者の方々にも伝えたかったこと。
それは,この世で大切なもの,この社会で大切なもの,それは目に見えるものではなく,目には見えないもの,それは私達の心の中にあるものなんだ,ということですね。
クリスマスツリーは,人々の人生の喜びと悲しみを照らすかのように,とても暖かい光を放っています。
私達が普段の慌ただしい日々を送る中で,ふと忘れてしまいそうになることを,もう一度思い出せるような,そんな素敵な12月を,そしてクリスマスを,皆さんが送られることをお祈りしています。