有斐閣から発行されている著名な判例解説シリーズに『判例百選シリーズ』があります。法学部の方々など,これから法律を学ぼうとされている方を念頭においた書籍である一方,法律実務家にとっても,主要な判例を学ぶとてもよい素材となるシリーズです(憲法・民法・刑法などの,各法律における主要かつ重要な判例を100,もしくは200選び,それぞれに解説が付けられているのです)。



私も,法学部で法律を学んでいた当時,さらには司法試験を受験していた当時,この『判例百選シリーズ』を教科書とともに繰り返し読んだことを覚えています。特に受験生の際に読んだものには,思い出とともに思い入れが込められています。



日本は英米のような判例法国ではありませんが,紙に書かれた活字である法律に意味が与えられ,法律が生き生きと動き出す姿は,やはり具体的な事件を通して生まれる判例を通じてでないと学べません。



私も弁護士として司法権,そしてその司法作用に関わっているわけですが,その司法作用を社会が求めている方向に進めていくためにはどうするべきかは,これまで司法権が生み出してきた判例から「感覚」として学ぶべきものであり,えてして貴重なヒントを,とても古い判例から得ることもあるのです。






さて,そのような重要な書籍である『判例百選シリーズ』の内,憲法の最新版が,この度発行元である有斐閣から出版されました(第6版になります)。



その最新版で,「女性の再婚禁止期間の合理性」について解説を担当されたのが,現在東北大学で憲法を教えられている糠塚康江先生です。



このブログでもお伝えしておりますように,私は現在,その女性の再婚禁止期間が法の下の平等を定めた憲法に違反するのではないかを問う訴訟を担当させていただいており,その訴訟は最高裁判所に係属しております。



糠塚先生が上の解説を書かれるに際して,私の方で現在担当しているその女性の再婚禁止期間訴訟,さらには,これも私が担当させていただいた,その女性の再婚禁止期間の表裏の問題である300日規定問題(前夫との離婚後300日以内に女性が生んだ子は前夫の子と推定する民法772条2項の存在により,無戸籍児が生じている問題です)について,私の方で情報をお伝えしたり,貴重な御意見を伺ったりしました。



すると,この度発行された『憲法判例百選Ⅰ(第6版)』の「女性の再婚禁止期間の合理性」の解説において,その300日規定訴訟を取り上げてくださったのです(同書64頁)。



私がその300日規定訴訟を担当させていただくことにした際には,形式的な法と,さらには硬直的なその法の運用により,毎年3000人もの無戸籍児が生まれている現状と,国会においてその法改正が進まない現状を,人権救済機関である司法権において,何か影響を与えて,変化させることができないか,という思いで一杯でした。



この度『憲法判例百選Ⅰ(第6版)』でその300日規定訴訟について解説で取り上げてくださり,コメントもいただいたことで,その訴訟を必死になって闘っていた当時の気持ちを思い出すことができたのです。



300日規定の問題。女性の再婚禁止期間の問題。私達の社会は多くの問題を抱えています。



でもその問題に対して,情熱を持って向かっていく人々の気持ちが絶えることさえなければ,きっといつか,人は夢を叶えることができる。理想の社会を実現することができる。



弁護士は,そのような人々の夢を叶え,理想の社会を実現するための一翼を担う存在です。今回の真新しい『憲法判例百選Ⅰ(第6版)』を拝見して,「辛い思いをしている人を救いたいという情熱を忘れないで。『弁護士になりたい』と思った時の気持ちを忘れないで」と,語りかけられているような,応援されているような,そんな気持ちになりました。