皆さんがハワイに行かれる際,多くの方はホノルル空港やワイキキビーチ,そしてダイアモンドヘッドがあるオアフ島に行かれると思います。



ハワイには全部で8つ,人が住める島があるのですが,オアフ島の外にも,「ビッグ・アイランド」のニックネームがある,最も大きく,また火山活動でも有名なハワイ島,クジラなど海の生き物との活動が楽しめるマウイ島,そしてグランドキャニオンに似た大地が広がるカウアイ島などを訪れる方が多いですね。旅行会社のオプショナルツアーでも,オアフ島からこれら3つの島に行くものが設けられています。



ハワイは世界中の方に愛されている場所ですので,多くの方がこれらの島々についてご存じだと思いますが,ハワイの8つの島の中に,「ニイハウ島」という島があることをご存じの方は多くないのではないでしょうか。



「ニイハウ島」は,ハワイの8つの島の中で,一番西にあります。カウアイ島からですと船で渡ることが可能な距離です。



実はこの「ニイハウ島」は,ロビンソンさん一家が所有しており,原則として島にお住まいの方以外の方は,上陸すること自体が許されていないのです(カウアイ島から日帰りでニイハウ島を訪れるツアーがあるのですが,それも訪問場所が人気のないビーチのみで,島にお住まいの方に会うことはできないのです)。







では,どうして「ニイハウ島」ではそのような措置が採られているのか,と申しますと,実はある方の遺言が関係しているのです。



まだハワイがハワイ王国であった頃のことです。1864年に,エリザベスという夫人が,カメハメハ五世から,このニイハウ島を購入しました。



その購入代金は,何と住民付きで1万ドルだったそうです。



ニイハウ島と,その島の住民をとても愛したエリザベスさんでしたが,1893年に亡くなります。でもエリザベスさんは,自分が愛したニイハウ島がいつまでもそのままの姿でいてほしい,と考えて,遺言を残したのです。



それは,「ニイハウ島のハワイアンの生活を変えないように」という遺言でした。



1893年といいますと,ハワイ王国が滅亡した年です。まるでその王国の運命を予見していたような遺言だったわけですね。



そしてエリザベスさんの末裔であるロビンソン家の方々は,その遺言を現代においても守り,ニイハウ島は,島の関係者しか上陸できない島とされているのです。ニイハウ島は,21世紀の現在においても,1893年当時の島のままとなっているわけです。






遺言の効力は,その遺言を残した方が亡くなった後に発生します。つまり,その遺言が法的な効力を有した段階では,その方はこの世には存在しないのです。



でも社会は,その遺言を残された方の思いをかなえようと,喜びと悲しみに満ちた人生を送ってこられた方の,人生における最後の願いを社会として叶えてあげようとするのです。それが遺言ですね。



日本の家庭裁判所で活躍される裁判官を描いたコミック『家栽の人』には,遺言の解釈が争われた事件において,主人公の倉田裁判官が「遺言は,亡くなられた方の,人生における最後の願いなのです。その願いを大切にしてください。」と言われるシーンが登場します。



上述しましたニイハウ島についてのエリザベスさんの遺言もそうですね。エリザベスさんが亡くなられて,もう100年以上が経過しているのです。でも,私達の社会は,エリザベスさんの思いを,柔らかく,包むようにかなえているのです。



でも,私達の社会において遺言がとても大切な存在になっているのは,亡くなられた方の思いとともに,いや,それ以上に,その思いを大切にすることで,今を生きている私達自身が,目には見えないとても大切なものを感じることができるからではないでしょうか。そんな気がしています。