東日本大震災により被害を受けられた皆様に,心からお見舞いを申し上げます。





ドイツの連邦議会は,2011年5月26日に,「乳幼児・児童保育施設及び児童遊戯施設から発生する子どもの騒音への特権付与法」を可決しました(ジュリスト1424号(有斐閣,2011年)87頁)。



それは,騒音被害につき,現行ドイツ法上,周辺の土地から発生する騒音により本質的な被害を被った場合には,損害賠償請求を行うことが認められているのに対し,今回成立した法律は,子ども達が発する音についてはこれを特別扱いとし,そのような音を理由として損害賠償請求がなされることがないようにした特別法なのです。



このような法律の制定が求められた背景には,子ども達が発する音を理由として,児童保育施設等を相手取った訴訟が,ドイツでは相次いでいる,ということがあるそうです。そのような訴訟では,多くの場合,子ども達の音に対して寛大な判決が下されているものの,保育施設の運営者や子どもを持つ親は法的に不安定な状態に置かれていることに変わりがない,ということがあったそうなのです。



なお,法律の理由書によりますと,「子どもから発生する音」とは,子どもが発するあらゆる大声(話し声,歌声,笑い声,泣き声,叫び声など)の他,遊戯,かけっこ,跳躍,踊りなどの身体的活動による音や,遊具や楽器による音,そして,子ども自身による音だけでなく,保育施設等の場合には,そこに勤務し,子どもの世話に従事している職員が発する音も含まれる,とされているそうです。







このドイツの法律についての記事を読んだ時,私は,高校時代の英語の教科書に書かれていた,以下のような話を思い出しました。



あるホテルの部屋に夫婦が滞在していたところ,隣の部屋からピアノの音が聞こえてきたそうです。そしてその音は,止みそうにありません。



夫婦はホテルのフロントに行き,「隣の部屋からピアノの音が聞こえてうるさい。隣の部屋に泊まっている人に,ピアノの演奏を止めるように言ってほしい。」と苦情を言ったそうです。



するとフロントの係の方が,「実はあの部屋には,著名なピアニストの方が現在宿泊されているのです。近々行われるコンサートの練習のために,特別に部屋にピアノを持ち込まれて,熱心にコンサートで弾く予定の曲を練習されているのです。」と言ったそうです。



その話を聞いた夫婦は,「そうだったのか」と言って,すぐに自分たちの部屋に戻り,その後は隣から聞こえてくるピアノの音色を楽しまれた,ということでした。








子ども達の出す音も,同じではないでしょうか。



私達が,生まれた直後はずっと泣き続けて,しばらくした後も少し悲しいことがあったり,不満があったりすると,すぐに泣いていたのが,少しずつ大人になるに従って,泣くことを我慢できるようになったこと。



私達が小さい頃,欲しい物があったり,したいことがあったりすると,それを実現するために大きな声で泣いて,おじいさんやおばあさん,お父さんやお母さん,そして学校の先生方を困らせたこと。



そのような私達自身の子ども時代の思い出を通して,子ども達の出す音に耳を傾けると,きっと違う音色に聞こえるような気がするのです。