夏ですので,1つ幽霊にまつわる話をさせていただきます。



2008年5月に,栃木県内の飲食業者が,不動産業者を相手取り,損害賠償を請求する訴訟を裁判所に起こしました。



これは,建物の賃貸借契約を交わした際に,その建物には幽霊が出る,という噂のあったことを説明しなかった,という訴訟だったのです。



この事件の場合,建物内では,人がいないのに足音がしたり,人感センサーが反応したりしたそうです。



実は民法の売買の規定に,売買の目的物に「瑕疵」,つまり隠れた傷のようなその性質を低下させる性質があった場合,そのような瑕疵がないことを前提として決められた売買代金をそのまま買い主に支払わせることは公平を害するので,買い主は売買契約の解除を請求したり,損害賠償を請求したりできる,という規定があります(その規定は賃貸借契約にも準用されているのです。民法559条。)。



そして,その「瑕疵」は,単に目的物に傷があるような物質的なものだけでなく,不動産売買の目的物が殺人現場であったり,自殺の現場であったりすると,それは「心理的瑕疵」として,物質的な瑕疵と同様に,契約の解除や損害賠償を請求できる,と解釈されているのです。



つまり,その目的物件がそのような曰く付きのものであったとすれば,普通の人は買おうとしませんので,それはその不動産に付着した「瑕疵」だ,と考えるのです。



そのような物件だとすると,売り主の不動産業者は,買い主にそれを伝える説明義務を負っている,と解釈することもできるでしょう。



とすると,幽霊が出る,という物件の場合も,民法570条の「瑕疵」に該当するか,が問題となるわけですが,殺人事件がかつて発生した,自殺がかつて発生した,というような客観的に事実が存在している場合に対して,幽霊というのは存在そのものが証明されていないことからすると,なかなか,その請求が認められることは難しいでしょう。



ただ,では絶対に認められないか,というと,例えば不動産業者に「幽霊が出るという噂の物件は,絶対に借りません」と伝えていた場合には,「幽霊が出る噂」が事実として存在していることを証明することで,その契約に動機の錯誤が存在し,無効となるように思えます(民法95条)。幽霊が法律上の効果を生じしめる可能性はありそうですね。



法律を少し忘れて,幽霊から派生する話を2つさせていただきます。



まず,私が敬愛する民俗学者の宮田登教授の放送大学のテキストには,幽霊と妖怪の違いは何か,という話が書かれております。



教授によると,幽霊は恨みを晴らすためにこの世に現れる存在であり,それに対して妖怪は人を驚かせるためにこの世に現れる存在である,とのことです。



だから,幽霊は人が寝静まったうしみつ時に現れるのに対し,妖怪は日暮れ時に現れる。妖怪は人を驚かせるために現れるので,ある程度見える時でないと,見つけてもらえないからだ,とのことです。



もう1つは,幽霊ではなく,民話の話です。



以前仕事で仙台に行った際,翌日の休日を利用して,岩手県の遠野に行ったことがありました。



遠野は,皆さんもご存じのように,民話の里です。駅に着くとさっそく民話を聞きに行きました。



地元の方が地元に伝わる民話を話してくださるのですが,その合間にある話をしてくださいました。



おじいさん,おばあさん,お父さん,お母さんが,自分の孫や子に,「立派な人間になりなさい」「兄弟げんかをしてはいけない」「友達を大切にしなさい」ということを学んでほしいと思い,それを幼い子でも学べるようにお話にして作ったものが,民話なのだそうです。



この世に延々と伝わっているたくさんの民話は,私たちのご先祖様が,私たちの人生を心配して,私たちが辛い思いをしないように,という思いから作ってくださったものなのですね。