個性には、どうしても良い面と悪い面が生まれてしまう。

それを「人としてコイツどうなの?」という道徳的な価値観で「善」と「悪」に分けた時、「善」の個性を「才能」などと世間では広く言われ、個性の良い部分ばかり評価されるが、「悪」の部分は正当に個性として評価されていない気がする。


もっと注目されてもいいと思う。

だから僕は、「悪」の個性に名前をつけてみた。



…「仲山」と。



僕の友人に「中山」という男がいる。

彼は誰に対しても下手で低めな姿勢で、でも、真面目かというと約束は平気で遅れるし、ドジだし、典型的な駄目キャラで、皆から愛されるいじられキャラだった。



だから、誰も彼の本性を見抜けないでいた。



そして、ある日、僕らの知る「中山」が実は「仲山」だったという、そんな事件が起こった。



その日、友人達とファミレスで「最近あった面白い話」などをしていると友人のA君が中山のドジな話をした。



A君「実は中山がさ…」



その話は、A君が提出期限の迫った書類を渡されたが、人数が足りなくて、名前だけ置いとくだけでいいからと言って、サインを中山に求めた。



すると、中山は「いいよぉー」と言いながら笑顔で応じ、その書類をA君が期限ギリギリで提出した。

ところが、その書類には「中山」ではなく「仲山」と書いてあり、受理されず、A君はとんでもなく激怒されながら再び中山に書き直して貰いに、わざわざ中山の最寄り駅まで、中山を追いかけて行ったという話だった。



皆は「やっぱり中山ってバカだなぁー」と笑っていたが、僕は
笑えなかった。




いくらドジでも自分の名前を間違えるだろうか。




バイトとはいえ、社会に出ている人間が名前に「にんべん」をつけるだろうか。




にわかに信じがたい話だと思った。




では、逆に中山が「仲山」と書くメリットは存在するだろうか…?


あらゆる観点から中山を見つめた時、僕は恐ろしい答えに辿り着いた。


僕「中山は本当はわざと書いたんじゃないかな?」


一同「…?」


僕「というのはさ、俺には中山が自分の名前を間違えるようにはどうしても思えないんだよな。」


A君「でも、だからってアイツに得はないだろ。」


僕「いや、一回俺達はその損得の固定観念を捨てる必要があるのかも、中山が損得ではなく、ただただ、性格の糞な奴だとしたらどうだろう?」


一同「…そんな。」


A君「でも、今までも中山は俺達に数々の奇跡…いや、奇行を見せてくれたじゃないか?」

僕「いや、その数々の奇跡…奇行も全てアイツの計算の内だとしたら?」


一同「どういう事だよ?」


僕は気分はシャーロックホームズのテンションで話を進めた。



僕「そもそも、アイツの起こしてきた奇行のおかげで俺達はこれまで散々な迷惑を受けてきた、だが、その度にアイツだけは常に得してきた。」



Y君「…確かに。」



A君「…つまり、アイツは本当は仲山だったという事か!!」



僕「……うん?…どゆこと?」



僕達は一枚のルーズリーフに中山のこれまでの奇行をまとめ。この時、中山はこう思っていたんじゃないか?という中山の心情を考察した。



つまり…僕達は…かなり暇だったのである。



そして、僕達は真実を白日の下にする為、中山を呼び出した。



中山は嫌々やってきた。



僕「今、お前には実は【仲山】だという疑いがある、この資料に目を通して欲しい。」

首をかしげながら資料を見る中山。


中山「…だいたい分かった、でも、ここには俺が【仲山】だという証拠が…ない。」


一同「…」


中山「おい、出してみろよ…俺が【仲山】だという証拠を!!」


僕「証拠なんてないよ…良くできた完全犯罪だよ…でも、教えてくれ、俺はたとえお前が【仲山】だとしても友達だから!!」


A「俺も今回の事は水に流す。」


中山「本当に?」


一同「本当だ。」


それから、中山は静かに語りだした。



事件の全てを。



書類に仲山と書いた時には、もしかしたら慌てるんじゃないかな?と思って故意で仲山と書いたこと。
そして、A君が自分の最寄り駅まで来たとき、可笑しくて思わず吹き出しそうになった事。



仲山「皆…ごめん、友達にこんな事して本当に悪いと思ってる。」


僕「いや、友達じゃないけど?」


仲山「え?」


僕「無理無理無理無理、全然無理ぃーー、こわいもん、めちゃくちゃこわいもんお前ぇーー、」


仲山「話が違うんだけど、イタズラ心じゃん。」


僕「いや、イタズラ心とかそんな生易しいもんじゃないよ、もう想像のキャパ超えたよ!」


A「とりあえず、こないだの往復の電車賃だけは返して。」


仲山「…」



それから、中山がよく話が盛り上がり始めた時に席を立つのは、実は相手を不完全燃焼にさせる嫌がらせだとか、黒板消しをわざとメチャクチャ汚くなるよう消してたりだとか、中山の人として最底辺な部分を知ったが、僕達はこれまで通り中山とは接している。


それが中山の個性なのだから。



【仲山】なのだから。



そして、この話を僕がブログに上げてもよいか許可をとった所、昼飯を奢らされた。

「ここもオチに使えるだろぅー?」と言って。


なんともまぁー。悪い奴なのにどこか憎めない。


そんな個性の持ち主。


もしかしたら、皆さんの周りにも【仲山】はいるのかもしれませんね。


写真はRのレンと♪

※仲山君とは関係ありやせん。