◎カーク・ウェイラムとジョン・スタッダートの「真実の瞬間」 | 吉岡正晴のソウル・サーチン

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◎カーク・ウェイラムとジョン・スタッダートの「真実の瞬間」

【Kirk Whalum & John Stoddart: Moment Of Truth】

瞬間。

クロード・マックナイトのライヴの最終日(2013年4月24日)を見に行ったが、ここで歌われたジョン・スタッダートの「エンジェル」とカークの「アイル・オールウェイズ・ラヴ・ユー」があまりに素晴らしかったので記憶の片隅にとどめる意味で少し書いておきたい。

クロードのライヴ、セットリストの中でカークとジョンにそれぞれ一曲ずつ場所が与えられている。

カークがマイクで話し始める。だいたいこんな趣旨だったと思う。「僕は映画『ボディーガード』の『アイル・オールウェイズ・ラヴ・ユー』でサックスを吹いた。実際映画の撮影でもライヴで吹いていた。ただカーテンの後ろで演奏していたので姿は映ってないんだけどね。でも、僕はそれだけで十分だ。この曲で聴かれるサックス・ソロは、他のどのヒット曲のサックス・ソロよりも聴かれている。それだけで本当に謙虚に嬉しく思っている。ウイットニーは『オールウェイズ(いつも)』愛を与える人だった。『サムタイム(ときどき)』ではなくてね」

カークがゆっくり話している間中、ジョンが静かにキーボードでしっとりとしたBGMをさりげなくつけている。これがまたいい雰囲気だ。カークが続ける。「大震災の後、日本の人々はみな『ラヴァーズ(お互い愛する人たち)』になったと思う。みなさんはみなさんを愛している。思いやりをシェアし、被災者に祈り、愛を与えた。そうした日本のカルチャーに敬意を表したい。きっとアメリカでは(あなたたち)日本のように『ラヴァーズ』になれないのではないだろうか」(拍手)

そして、ゆっくりとステージを降り、客席に入り、彼はあのイントロのサックスをしっとりと吹き出した。もうそんな曲ふりをされてから流れてくるサックスの響きのなんと美しいことよ。いっぺんにカーク・ウェイラムは僕のナンバーワン・フェヴァリット・サックス・プレイヤーになってしまったではないか。(笑) たった一人でゆっくり客席を歩きながらサックスを吹くカークに一本のスポットライトが当たる。サックス一本で観客全員を虜にしている。徐々にバンド演奏が加わり、曲の半分以上を客席で吹き、最後、一瞬の間からドラム・リフが入ってエンディングへ。曲を終えると大きな拍手が巻き起こった。

正念場。

続いてカークの紹介でジョンがキーボードの弾き語りで歌いはじめる。この日は初日二日目で歌った「ホエン・ウィ・ダンス」ではなく、前日「ソウル・サーチン・レイディオ」でもかけていた「エンジェル」を歌いだした。

ジョンの歌声が入ると、今度はカークがところどころサックスを入れる。ピアノの弾き語りにちょっとだけ入るカークのサックスがさりげなく引き立てる。二人のコンビネーションはそれぞれの曲で見事だ。

この「エンジェル」はショーストッパーだった。CDではいくつもの楽器が入っているが、このライヴでは本人の弾き語り、プラス・カークのサックスのみ。完全にステージとオーディエンスはジョンによって支配されていた。

これも曲も、またメッセージもよい。コーラスの部分の歌詞はこうだ。

You sent me an angel. Oh oh
Oh what an angel, yea yea
Someone to touch my very soul
Sing to my heart
So you sent me an angel oh oh
My very own angel, yea
Just what I needed….. an angel

ジョンに前日ラジオでかけたこと、「大変感動した」ことを告げ、なぜこの日はこれを歌ったのかと聞くと、「カークと話をしていて、彼がサジェスチョンしてくれたんで、やってみた」という。ひょっとするとカークが話すこと(震災のことなど)をあらかじめ決めていて、その流れにあう「エンジェル」を提案していたのかもしれない。

このカークとジョンの2曲は、この日のライヴですべてもっていってしまったという印象だ。まさに「モーメント・オブ・トゥルース」(真実の瞬間、決定的瞬間、正念場)を垣間見た。こういう瞬間って毎回起こるわけではなく、いくつかの要素がまざりあってケミストリーが起こる。この日はカークのトークの内容、そして、ジョンが歌った「エンジェル」のメッセージなどがうまくからみあって起こったのだと思う。たまたまその場にいて目撃できたことはとてもラッキーだった。これぞライヴに足繁く通うことの醍醐味だ。

一緒に見ていた北山さん、よう・いんひょく(呂寅赫)君(例の『スリラー』『アイ・ウィッシュ』の一人多重録音ユーチューブで大ブレイク中)らもすっかり打ちのめされた様子。

6年前の二人のライヴは、二人だけの軽いライヴだったが、バンドを含めたジョンとカークのライヴをもう一度じっくり見てみたいと思った。そして次回はジョンとカークにゆっくり話を聞いてみよう。

~~

moment of truth
《the ~》正念場、決定的瞬間、最後の審判の瞬間

正念場= 〔名〕歌舞伎・浄瑠璃などで、一曲一場の大事な見せ場。主人公になった役者がその役の真髄的な性格を十分に見せる、最も重要な場面。「寺子屋」の首実検など。しょうねば

■ John Stoddart - Angel
http://youtu.be/sM8Y_wzt3q0



■ Kirk Whalum-I Will Always Love You
(audience shot)

http://youtu.be/RE1ShZHJ0Lw




■ カーク・ウェイラムとジョン・スタッダートのライヴ評 (2007年)

2007年11月24日(土)
【カーク・ウェイラム&ジョン・スタッダート・ライヴ】
http://ameblo.jp/soulsearchin/entry-10057082050.html

■ カーク・ウェイラム~ダニー・ハサウェイ・カヴァー集

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■ ジョン・スタッダート~「エンジェル」収録

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ENT>LIVE>Whalum, Kirk / Stoddart, John / McKnight, Claude