■★ソウル・サックスマン、キング・カーティスが歌謡曲を吹いていた | 吉岡正晴のソウル・サーチン

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■★ ソウル・サックスマン、キング・カーティスが歌謡曲を吹いていた

【Revealed: Funky King Curtis Recorded J-Pop Songs】

(昨日の「パイレーツ・ロック」の折田さんの話の続き)

歌謡ソウル。

キング・カーティスといえば、アトランティック・ソウルで欠かせないソウル・サックス奏者。アトランティックだけでなく東海岸ニューヨーク近辺のソウル、ジャズ・セッションに1950年代終盤から1960年代、1970年代初期までもっともお呼びがかかったファンキー・ソウル・サックス奏者だ。日本でも一部で熱狂的なファンもいる。

キング・カーティスは1934年2月7日生まれ。テキサスに育った。ライオネル・ハンプトン・バンドに参加したあと、1952年、18歳でニューヨークへ。ここでセッション・ミュージシャンとして活動を始める。そんな中、コースターズの「ヤケティー・ヤック」(1958年)などのサックス・プレイが評判となり、アーティストとしてインディ・レーベルと契約。自身名義で「ソウル・ツイスト」(1962年)、「ソウル・セレナーデ」(1964年)などのヒットをだし、1965年にはアトランティックと契約。以後も「メンフィス・ソウル・シチュー」(1967年)など多数の作品を生み出した。

The Coasters - Yakety Yak
http://youtu.be/-cHB3Rbz1OI



King Curtis - Memphis Soul Stew
http://youtu.be/ukOs3am7CtE



カーティスはアトランティックのプロデューサー、ジェリー・ウェクスラーとひんぱんに仕事をしていたが、1970年、アリーサ・フランクリンの名盤『アリーサ・ライヴ・アット・フィルモア・イースト』、さらに『フィルモア・ウェスト』にも参加。サックス奏者としての名声を決定付ける。テレビ番組『ソウル・トレイン』の初代のテーマ曲もキング・カーティスの「ホット・ポテートス」だ。ソウルでもジャズでも実にファンキーな味を出すサックスで当時はレコーディングにもライヴにも引っ張りだこだった。

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そんなサックス奏者として超人気だったカーティスだが、1960年代後期には日本でもサム・テイラー、ブーツ・ランドルフなどのサックス奏者が人気だった。

そこで、折田さんは名サックス奏者、キング・カーティスを日本で売ろうと、彼に1967年頃の日本の歌謡曲ヒットをカヴァーさせるアルバムを企画した。選曲して音源を送り、キング・カーティスは録音を了承。ニューヨークの超一流どころを集めて1968年2月、3日間にわたってニューヨークで制作された。

期待されたこのアルバムだが、日本でリリースされても、結局2000枚も売れずに、アトランティックのボス、ネスヒ・アーティガンにこっぴどく叱られた、という。この日本盤は折田さん本人も持っておらず、アルバムのタイトルさえも覚えていない、という。

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■「真赤な太陽」などを録音

歌謡曲。

ということでさっそくその作品を調べてみたら、アルバムそのもののタイトルやレコード番号などはでてこなかったが、レコーディング・データがでてきた。

データは次の通り。メンバーと曲名、録音日が書かれている。日本語のタイトルが想像できるものを書いてみた。

King Curtis Octet

George Dessinger (flute, bassoon) King Curtis (tenor saxophone, alto saxophone) Paul Griffin (piano) Billy Butler (guitar) Al Chernet (guitar, mandolin) Ron Carter (bass) Bobby Donaldson (drums) Jack Jennings (percussion)
NYC, February 5, 1968

13859 Hallelujah Atlantic unissued
13860 Koyubi No Omoide -
13861 Futari No Shiokaze -
13862 Please Take Me

13859 「恋のハレルヤ」?(黛ジュン)
13860 「小指の思い出」(1967年、伊東ゆかり)、
13861「潮風のふたり」(伊東ゆかり)、
13862 ?

(左側の5桁の数字はマトリックス・ナンバーといってレコーディングした楽曲それぞれに付けられた番号。レコード番号とは別のもの。だいたい録音した順に番号付けされる)-

King Curtis Octet

Romeo Penque (flute, oboe) King Curtis (tenor saxophone, alto saxophone) Paul Griffin (piano) Billy Butler, Al Chernet (guitar) Richard Davis (bass) Bobby Donaldson (drums) George Devens (percussion)
NYC, February 6, 1968

13863 In A Lonesome City Atlantic unissued
13864 Mona Lisa's Smile -
13865 Azura No Arukayiri -
13866 Aiwa Oshiminaku

13863 「寂しい街で~」「悲しみの街角」とかそういうのか。これはちょっと思いつかない。
13864「モナリザの微笑み」(タイガーズ)
13865「青空のある限り」?(ワイルド・ワンズ)、oがぬけ、gがyと打ち間違えられているとみられる
13866「愛は惜しみなく」(園まり)

King Curtis Octet

Romeo Penque (flute, oboe) King Curtis (tenor saxophone, alto saxophone) Ernie Hayes (organ, piano, electric piano) Billy Butler, Al Chernet (guitar) Richard Davis (bass) Bobby Donaldson (drums) George Devens (percussion)
NYC, February 7, 1968

13867 Makka Na Taiyo
13868 Love Only For You -
13869 I Really Don't Want To Know -
13870 Danny Boy -
13871 Land Of 1000 Dances -

13867「真赤な太陽」(美空ひばり、1967年)、
13868「君だけに愛を」? (タイガーズ、1967年)
13869「知りたくないの」?(菅原洋一、1967年)
13870「ダニー・ボーイ」(アイルランド民謡、アンディー・ウィリアムスなど)
13871「ダンス天国」(ウィルソン・ピケット)

これによると1968年2月5日から7日にかけて3日間で13曲録音し、いずれも未発売とある。おそらく、このうちの何曲かが1枚のアルバムとなり日本ではでたが、アメリカでは出なかったということだ。

折田さんはレコーディングには立ち会えなかったそうだ。「そんな、当時はなかなか行かせてくれないよ。ジャケットも(アメリカ盤はないから)こっちで『あり写真』を適当に使って作ったんだよ」と言う。

折田さんが日本に受けるだろうと選曲してアメリカにリクエストして録音してもらったというこのアルバム、いやあ、聴いてみたいなあ。もちろんCD化などされていない。まずは、このアナログ盤を探さないと。(笑) アメリカにマスターテープは残ってないのでしょうか。

~~~

急死。

そんなキング・カーティスも、1971年8月13日、ニューヨーク86丁目のアパート前で暴漢に刺され死去するという悲劇の最期をとげる。37歳だった。

暑い夏の夜、真夜中近く。カーティスはエアコン(クーラー)の大きな荷物を持ってマンハッタン86丁目の自宅アパートに入ろうとしていた。すると、そのアパート前に二人のジャンキーがいてドラッグでハイになっていた。カーティスは彼らに「そこをどいてくれ」と言うと、言い争いになった。彼らは殴りあいになり、相手の男ジュアン・モンタネズが持っていたナイフでカーティスの胸を刺した。

カーティスはすぐにそれを抜いて相手を4箇所ほど刺し返すが、彼らは逃げ去った。カーティスは救急車で近くのルーズベルト病院に運ばれたが、傷が深く約1時間後死亡した。

ほぼ同じ頃、その同じルーズベルト病院に体を何箇所か刺された男が治療にやってきた。それが、カーティスを刺した男と同じ人物だった。警察は状況からすぐにこの人物を逮捕、結局刑務所に入ることになった。

カーティスの葬儀にはアリーサ・フランクリン、シシー・ヒューストン、デュアン・オールマン、スティーヴィー・ワンダーなど錚々たるメンバーが参列。フランクリンは「ネヴァー・グロウ・オールド」を歌い、ワンダーは「エイブラハム、マーティン、アンド・ジョン、アンド・ナウ・キング・カーティス」として歌った。

カーティスの遺体は、ファーミングデールのパインローン・メモリアル公園に埋葬されている。ジャズのカウント・ベイシーやジョン・コルトレーンと同じ墓地だ。

2000年3月6日、「ロック殿堂」入りを果たした。

■ 『パイレーツ・ロック』(毎週日曜日夜8時~10時、大阪FMココロ、再放送毎週木曜夜11時~深夜1時)

http://cocolo.jp/

http://cocolo.jp/pages/timetable_detail.php?pid=4230

関西地区ではラジコで聴けます。

出演予定は次の通り。

2013年
1月20日 青野浩史さん(元ユニバーサル)
1月27日 山本正実さん(元エピックソニー)

2月3日(日)吉岡正晴
2月10日(日)東郷かおる子さん(元ミュージック・ライフ誌編集長)
2月17日(日)我妻広巳さん(元オリジナル・コンフィデンス誌編集者)
2月24日(日)折田育三さん(元ポリドール、元ワーナー・パイオニア、元ポリドール社長、ユニバーサル相談役)

■ 収録の模様について。野中さんのブログ

2013-01-17
2月の個性たち
テーマ:FM Cocolo「パイレーツロック」
http://ameblo.jp/nihonyogaku/entry-11450884061.html

RADIO>Pirates Rock

■ キング・カーティスのアトランティック1000円シリーズで出たもの

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■ 名盤ライヴ・アット・フィルモア・イースト

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