●「ディスコ」の枠から一歩抜け出たドナ・サマー | 吉岡正晴のソウル・サーチン

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●「ディスコ」の枠から一歩抜け出たドナ・サマー

【More Than A Disco Singer】

ライヴ。

ドナ・サマーが5月17日(2012年)63歳で亡くなったが、ドナ・サマーもまたデビュー時からレコードを買い続けた、まさに僕と同時代を生きてきたアーティストだ。

彼女のライヴは初来日の1979年6月武道館で行われた。ちょうど、「ホット・スタッフ/バッド・ガールズ」が大ヒットしていた直後だったため、武道館は超満員でものすごい熱気だった。

ほとんどが立ち上がり、武道館が総ディスコ状態になったことを覚えている。

その後、1983年8月ロスアンジェルスに行ったときに、ちょうどドナ・サマーのライヴがユニバーサル・アンフィシアターであったので見た。このときは、アルバム『シー・ワークス・ハード・フォー・ザ・マネー(情熱物語)』がリリースされた直後で、ステージ・セッティングがまさにあのジャケットそっくりそのままでその曲が演奏された。ドナの衣装もジャケットそのまま。まるでプロモーション用ビデオがそのままステージで繰り広げられたようで楽しかった。

僕にとってのドナのライヴは、この2本がとても印象に残っている。武道館もものすごく熱かったが、後者も観客ののりもよく、ヒット曲満載で楽しめた。

面白いのは、彼女のヒットはほとんどすべてディスコ・ヒットだったにもかかわらず、彼女が抜群に素晴らしいダンサーだったわけではないことだ。ちょうどホイットニー的な、まあ、体をうごかす程度で、ジャネットのようなダンスで見せるということはなかった。だから、ダンス・オリエンテッドなシンガーという感じだ。

■ シー・ワークス・ハード・フォー・ザ・マネー(情熱物語)(1983年)

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エンバシー。

ドナの実質的なデビュー・ヒット「ラヴ・トゥ・ラヴ・ユー・ベイビー(愛の誘惑)」(1975年)は輸入盤が入ってきてすぐに当時週末DJをしていた六本木のディスコ「エンバシー」でかけた。まだヒットチャートにあがる前だ。テンポがゆったりしていて、BPM97しかないので、スロー明け(チークタイム明け)に徐々にウォームアップという位置づけでかけた。

ところがまだまったくヒットしていない頃にはブラザーや日本人のお客さんたちは、スローで踊っていいのか、ダンスナンバーとして踊っていいのか戸惑っていた。あまり当初は反応もよくなかった。

しかし、この曲が全米でヒットし、FENなどでもひんぱんにかかりだすと、徐々にまずブラザーたちがゆったりとしたダンスナンバーとして踊りだすようになった。それに引きずられるように、日本人も少しずつ体を揺らすようになった。

そして、1976年2作目『ラヴ・トリロジー』が出ると、ディスコでは最初からかかり、これはけっこう日本人の間では人気となった。以降のドナのヒットは、日本のディスコで大ブームとなっていく。

ところがおもしろいことに、ブラザーたち(黒人たち)は、「ラヴ・トゥ・ラヴ・ユー・ベイビー」では体を揺らすのに、『ラヴ・トリロジー』以降のいわゆる「ボン・ボン・ディスコ」(ドラムスのバス・ドラが均等に打たれるわかりやすいリズムのディスコ・サウンド、リズム)にはあまりいい顔をしないのだ。逆に日本人は圧倒的にその「ボン・ボン・ディスコ」で踊る。

そのときに、ブラザーと日本人のリズム感の決定的な違いを感じたものだ。これはのちのちまでブラザーのリズム感を考えるときに、僕の原点的体験になっている。(もう1曲、そのような曲がある。それが、YMOの「ビハインド・ザ・マスク」だが、そのことはまた別の機会に書こう)

そんな彼らもさすがに「ホット・スタッフ~バッド・ガールズ」くらいの超大ヒットとなると、我先にと踊り始めていた。まあ、ヒット曲の強力さ、ディスコ・パワーのすごさをまざまざと見せ付けられた気がする。

ドナ・サマーは当初は「ミュンヘン・サウンド」の女王という形で君臨したが、80年代以降は「ディスコ・クイーン」という称号を、若干嫌っていた節もある。いわゆるジャンルに関係なく「シンガー」として見てもらいたいということだったのだろう。それはそれで、その気持ちは大変よくわかる。

ドナ・サマーが単なるディスコの枠を超えて、21世紀まで一線で生き延びてきたのも、「シンガー」としてのスタンスをきっちり明確にしたからかもしれない。

■ラヴ・トゥ・ラヴ・ユー・ベイビー(愛の誘惑)(1975年)

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